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カノン(伊咲貴音音楽教室)  作者: FRIDAY
弐 貴女へ贈る音楽
36/57

それはきっと、こんな気持ち

「――――」


 伊咲さんは憧れの人。

 伊咲さんは大切な人。

 いなくなると寂しい。

 会えないと思うと辛い。

 伊咲さんがいなくなってしまったあとで、俺がどういう風に生活を続けていけるのか、わからない。


 怖い。

 伊咲さんと会えなくなるのが、怖い。

 行ってほしくない。

 ずっと、ピアノを教えてほしい。

 それが無理だということはわかっているし、引き留めてもいけないとは思うのだけれども、それでも。


「――――」


 伊咲さんは、どう思っているのだろう。

 泣いていた。

 俺に話すことができなくて、怖かったと、泣いていた。


 それでも、伊咲さんは行く。

 俺を大切な人と言ってくれた。

 その意味は、果たしてどれほどの意味だろう。


「――――!」


 仮にどれほどの意味があったところで、新天地へ行って、伸び伸びと生きていれば、きっと俺なんかよりももっと大切な誰かに出会うだろう。両親との不和も軽減されて、不安や心残りがいくらかでも軽くなっているのなら、なおのことだ。

 もし万が一俺が伊咲さんと再会することがあっても、きっと、伊咲さんの隣には俺の知らない誰かがいるのだろう。


 それは。

 それは――


「――――」




 ああ……そうか。




 ようやく、ようやくのこと、俺は理解した。

 やっと、自分で自分に納得した。


 憧れなのか、それ以外のなにかなのか。その答え。

 胸の奥に空いた空洞の正体。

 俺が伊咲さんに抱く感情の名前。


 ――もしも私の好きな人が、他の誰かが好きで、その誰かと一緒になっちゃったりなんかしたら……私の世界はきっと、終わっちゃう。


 そう言っていたのは、戸塚だった。

 俺も多分、今ならその意味がわかる。

 それはきっと、こんな気持ちなんだ――


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