開いた距離の感触
移動中の車の中では、基本的に月地と黒槇さんがはしゃいでいて、俺と戸塚は話を振られたときに短く返事をする、といった程度のものだった。さすがに、まだ気軽に会話ができるほどではないみたいだ。
けれどそんな戸塚も、いざ銀山と白原を前にすると気分も高揚せずにはいられないようで、黒槇さんと一緒に大はしゃぎで飛び込んでいった。微笑ましい光景だけれども、用具一式はロッジへ行かないと借りられない。だからロッジへ行きましょう、と月地の両親に促されると、今度はレンタルスキーを置くロッジの方へ駆け出していく。
さすがに俺はそこまでテンションを上げることはできていないが、それなりにわくわくはしてきていた。体育の授業を除けばそもそも運動を長らくしていないし、スキーなど高校では年に一回、今年度はまだだから一年次の一度しか滑っていない。優に一年振りだ。
と、もう小さくなってしまっている戸塚と黒槇さんの背を追って歩き出した俺の横に、こちらは駆け出していなかった月地が並んだ。
「おう、どうだ」
「どうだって、なにが」
薄々わかっていたが、それでもとぼけて返す。そりゃあ、と月地は言う。
「戸塚だよ。俺が見たときなんか話してたみたいだけど」
ああ……と俺は頷く。
「まあ、軽くね。会話は」
「車ん中はちょっと硬かったけど、前ほど張りつめてはいなかったもんな。その調子で、もとに戻ってくれるといいんだけれど」
月地の言葉に、そうだな、と俺も頷く。
本当に、そう思う。
「じゃ、俺らも行こうぜ。早く行かないと、あのふたり先にリフト乗っちまいそうだ」
軽く駆け出した月地に、俺も続く。
今くらいはまだ、忘れていてもいいだろうかと、そう思いつつ。




