運命の相手
更新、かなり滞ってしまいました。
すみません。
今回は和樹の幼馴染、松元博人視点です。
「バラは好きですか?」
少し困ったような表情になった彼女を見て、しまったと思った。
初対面の女性と二人きりにされ、何を話せばいいか思いつかず、無意識に出た言葉だった。
『紅茶がおいしいですね』とか、『素敵な絵ですね』とか、どうして言えなかったのだろう。
「・・・正直、以前はあまり好きではなかったんです・・・。見ていると何故か切なくなるので・・・。あ、でも、今は好きですよ。瀬尾君と野宮さん・・・あ、今日から瀬尾さんか・・・に出会ってからは・・・」
微笑ながら彼女は答えた。
「・・・松元さんは、“運命の相手”って信じます?」
「“運命の相手”・・・ですか?」
「ええ・・・。瀬尾君にとって明音は“運命の相手”だそうですよ。昨夜の会社の飲み会で宣言してましたからね。大学時代の瀬尾君なんて、女性に冷たくて、就職してからも仕事に関して以外では同じで。それがクールだって人気でしたけど。それが、明音にはベタ甘なんですよ。会社の同僚が『胸焼けしそう』と言うぐらい」
その様子を思い出したのか、楽しそうに笑う彼女。
「俺も、女性に冷たい和樹しか知らなかったから、『婚約者が出来た』と電話をもらった時『本当か?で、相手の女性は?』って聞いてしまったものだから、しばらく惚気話を聞かされて驚いたよ。“運命の相手”って言うのも分かる気がする」
俺にとっては君が運命の相手だったらいいのに・・・。彼女の笑顔を見てそう思った。
「あの・・・、幸田さん。よければ、連絡先を交換しない?・・・たぶん、あの二人の結婚式に巻き込まれると思うから・・・」
「そうですね。『結婚式、よろしく』ってスピーチを押し付けられそう・・・」
和樹達の結婚式はただの口実で、単純に彼女といつでも連絡が取れるようにしたかっただけ。彼女も俺と同じ想いならいいのだが・・・。
* * *
二人の男性が広場のような場所に立っている。
一人はオレンジ色の髪をしていた。
俺は、二人の名前を呼び、手を振る。
二人の元に行こうと駆け出すと、オレンジの髪の男性が慌てた様子で駆け寄ってくる。
途中で足がもつれてしまった俺を、男性が支えてくれる。
『走ってはいけません』と、窘められた。
* * *
幸せな気分で目が覚めた。
いつの間にか眠っていたらしい。
最近、正確には和樹から『婚約した』との電話をもらってから、オレンジ色の髪の男性の夢を見るようになった。
今までの夢では、“彼”の事を遠くから眺めているだけだった。
それが、今日は“彼”と触れ合うことが出来た。
“彼”の姿が彼女、幸田さんと重なった。
「そっか・・・。そう言うことか・・・」
幸田さんとは初対面のはずなのに、どこか懐かしい感じがしたこと。
そして、自分が夢の中では“女性”であること、その理由が分かった。
理由が分かると、今までぼやけていた夢の情景が鮮明となった。
今すぐ、彼女、幸田さんと会って話がしたい。
時計を見ると、深夜に近い時間だった。
さすがに、こんな時間に『会いたい』なんて電話は出来ない。
仕方なく、教えてもらったアドレスにメールをすることにした。
『カイ 会って話がしたいです ナディ』