新たな展開?
今回は明音視点の話です
週末は怒涛の展開だった。
まず、金曜日。自分の前世を思い出す。
前世の恋人が、憧れの瀬尾さんと判明。そして、そのまま、瀬尾さんの家にお泊り。
土曜日。朝、瀬尾さんからプロポーズされる。
元々、帰る予定だった実家に、瀬尾さんも一緒に来て、両親に、
「お嬢さんを下さい!」
“結婚を前提にお付き合い”が抜けているが、瀬尾さんの好青年振りに、両親も即OK。父とは意気投合したようだ。
日曜日。今度は瀬尾さんの実家にご挨拶。
瀬尾さんが、前もって言っていたらしく、こちらもすんなり話が進んだ。
いつ頃話したのか聞いてみた。
「休憩スペースで会話した頃かな。近いうちに紹介したい人を連れて来るからって連絡しておいた」
その頃、私、まだはっきりと思い出していないはず・・・。
「近いうちに思い出してくれるって確信があった」
らしい。
「疲れているようだけど、大丈夫?」
職場で、由美子先輩に声をかけられました。
入社した時から、色々と気遣ってくれる、とても頼りになる先輩です。
「週末、予定外の外出がありまして・・・」
「ふ~~ん。で、その指輪は?」
左手の薬指の指輪を由美子先輩は見逃さなかった。昨日、瀬尾さんからプレゼンとされた指輪だ。
「正式な指輪が出来上がるまでの仮だけど・・・。ちゃんと会社にしてきてね」
会社ではチェーンに通してペンダントとして使おうと考えていたことを見透かされ、しっかりと指にするするように念をおされた。
「彼が・・・プレゼントしてくれたんです・・・」
「・・・いつのまに・・・」
「え?」
「昼休みに、詳しく話してもらおうかしら」
絶対に聞き出す!そんな感じの笑みを先輩はしていた。
昼休み。社員食堂で。
先輩は、私の目の前に座って、すっごい笑顔だ。
笑顔のまま、私を見ている。一言も話さずに・・・。
話づらい・・・。まだ、質問されたほうがマシ。
「ここ、空いてる?」
私の隣のテーブルに、トレイが置かれる。瀬尾さんだった。
他にも空いてる席はたくさんあるよね。よりによってなんで私の隣?あ、一応恋人だった。でも、すごく目立つから出来れば離れて座ってほしかった・・・。
「来たな。元凶」
由美子先輩が言った。
「ひどいな、幸田さん。何の話をしていたのかな?」
二人は知り合いのようだ。
「可愛い後輩の恋愛相談にのってたの。とてもモテる彼氏がいて、色々と大変そうだから、私が守ってあげるって言うところだったの」
私、まだ何も話ていませんよね?由美子先輩の話し振りは、瀬尾さんが私の彼氏だって知っているようだった。
「幸田さんが心配することでは無いんじゃないかな?」
「そうかしら?」
瀬尾さんと由美子先輩がにらみ合っている。二人の険悪な雰囲気に、他の人が近寄って来れないみたい。
「会社が終わってから、別の場所で話しをしよう」
「分かったわ。場所はどこ?」
「メールする。・・・明音もね」
後半部分は、私だけに聞こえるよう小声だった。
メールは、『小夜曲で。幸田さんを案内してあげて』だった。
「由美子先輩と瀬尾さんは、お知り合いだったんですか?」
喫茶店『小夜曲』に案内しながら、尋ねた。
「大学の同期。会社まで同じになっちゃた。おかげで、最近大変だったけどね」
「大変・・・ですか?」
「それは、瀬尾君と合流してから話すわ」
喫茶店『小夜曲』。私のお気に入りのお店だ。
「いらっしゃいませ。いつもの席ですね」
マスターがカウンターの中から声をかけてきた。今日が三回目なのに、すっかり顔を覚えられたようだ。
「あら、素敵なお店ね」
由美子先輩も気に入ってくれたようだ。
店内に、お客はいなかった。
いつもの奥の席に座る。壁には懐かしい景色の絵。
由美子先輩が私の前に座った。
壁にかかっている絵に気付いた。
「これは・・・?」
「私と瀬尾さんが、話をするきっかけになった絵です」
「そう・・・。そうなの・・・」
由美子先輩は、絵がかなり気になるようだ。
「お待たせ」
瀬尾さんが、当然のように私の隣に座った。
「明音は焼き菓子セットで頼む?」
「今日はお茶だけにしておこうかな・・・」
真面目な話しになりそうだから。
「私は頼みたいから、野宮さんも頼んだら?お茶は二人のお勧めで」
由美子先輩がそう言ったので、いつもの『デザート ローズ』を三つ、うち二つを焼き菓子セットにした。
「それで、いつから付き合い始めたの?」
薄々は、気付いていたけれど、由美子先輩は私たちが付き合っていることに気付いていたようだ。
「一昨日、プロポーズした。お互いの親への挨拶も済んだ」
「・・・本当なの?野宮さん・・・」
瀬尾さんの言葉に、由美子先輩が驚いている。
「はい・・・」
「いつ、接触したの?」
由美子先輩の質問の意味が分からない。
「先週の火曜日かな?休憩スペースでちょうど明音が休憩していた」
「あの時か・・・。油断してたわ」
「残念だったね。僕は、早く明音と一緒になりたいと思っていたのに、邪魔しやがって・・・」
「だって、あんたの周囲に群がる女をどうにかしてからじゃないと、明音が辛い思いすることになるじゃないの!」
「過去でも現在でも、明音を守るのは俺だ!」
「くっ・・・」
温厚な(だと思っていた)二人が喧嘩している。それも私の事で・・・。瀬尾さん、自分のこと“俺”って言ってたよ・・・。
「明音、コイツは前世で俺の護衛だった・・・」
呆然としている私に、瀬尾さんが言った。
私は頭が混乱していた。
「ごめんね、野宮さん。驚かせちゃって・・・」
由美子先輩が前世を思いだしたのは、私が配属された日。
「あなたの護衛を任されていたから」
由美子先輩は、続けて言った。
「それまでの、瀬尾君に対する感情に納得した日でもあるのよね」
お互い一緒にいることに違和感を感じず、恋愛感情も全く無く、なぜかライバル意識が有る。
「前世、私が男で、王子とは幼い頃から共に剣の稽古を受けていたから・・・」
「俺も、コイツのことを思い出したときは、驚いた」
瀬尾さんが、いつもと雰囲気が違う。
「そうね。いきなり呼び出して、『明音を紹介しろ』だもの。もちろん、断ったけどね。理由はもちろん分かっているわよね?」
「ああ。だから、対策はとっている」
「私からすれば、まだまだね。こうなった以上、私も行動させてもらうからね。あんたも、相手に手加減しちゃダメよ!」
「ああ、もちろんだ」
二人の間で、何か解決したようだ。
「それにしても、こんな場所で、この景色を見ることになるなんて・・・」
由美子先輩は、壁の絵を懐かしそうに見ている。
「ああ、俺も驚いた」
瀬尾さんは、すっかり自分のことを“俺”って言っている。
「瀬尾君。前世のキャラになっているよ。野宮さんが驚いている」
「明音が思い出してくれたのと、お前が協力してくれるんだろ。昔に戻ったようで安心したんだよ」
今までの瀬尾さんも素敵だけど、こっちの瀬尾さんのほうがしっくりくるのは、前世の影響なんだろうか?
「野宮さん。今度は二人っきりで来ましょうね。女同士で!」
由美子先輩が、ガシッと両手を握ってきた。
「明音に触るな!明音は俺のだ!」
なぜか瀬尾さんが必死だ。
「嫌です!そうだ、今度、温泉行きましょ」
「許さん!何度も言うが、明音は俺のだ!」
「今の私はあなたと対等よ。悔しかったら、私が口を出せない状態にしなさい!」
「うっ・・・・・・」
本日は、由美子先輩が勝ったようだ。
約一ヶ月ぶりの投稿です。