砂漠の国の記憶
以前、投稿した『デザートローズ』の中の話です。
瀬尾の家で明音が記憶を取り戻した後の話です。
『デザートローズ』も少し加筆・修正してあります。
「運命の相手って、本当にいるんだね」
彼女が僕の腕の中でつぶやいた。
「今まで、自分の恋愛に興味がなったのは、瀬尾さんに出会うためだったんだね」
彼女をぎゅっと抱きしめた。嬉しい言葉だ。
「今まで、好きになった人はいなかったの?」
彼女を見つめながら問いかけると、しばらく考えてから、
「素敵だなと思う人はいたけれど、見ているだけで満足してた。恋愛対象じゃないから」
「僕のことは?まさか、知らなかったとは言わせないぞ」
社内で自分は女性に人気があることは知っていた。僕の周りを囲む女性達は、恋愛に興味が無かった僕にとっては煩わしかった。
しかし、明音は違った。廊下ですれ違っても、会釈をしてすぐ去っていく。僕と目を合わせようとしなかった。僕は、君と話たかったのに・・・。
「いえ、知っていましたよ・・・。素敵な人だなぁって・・・」
彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「それだけ?それだと、今までの男と同じだよね?」
「・・・瀬尾さんのイジワル・・・。お話できたらいいと思ってました・・・」
顔を真っ赤にして答える明音が可愛くて、額にキスをした。さらに真っ赤になっていた。
「じゃあ、僕は特別と思っていいのかな?」
「・・・そうです。初めて瀬尾さんを見たときから、気になっていました。だけど、瀬尾さんの周りには人が多くて・・・、気後れしちゃって・・・」
「初めて見たのはいつ?」
「営業部との合同新人歓迎会のときです」
彼女も気付いてくれていたことが嬉しかった。
「僕もだよ。僕は、その日のうちに思い出したけどね」
彼女は驚いた顔をした。
「ごめんなさい・・・。思い出すのが遅くなって・・・」
「僕のこと、気になったんだろう。それだけでも嬉しいよ」
彼女がすごく愛おしく、ずっと抱きしめていたい・・・。
「・・・・・・帰したくない。今日はこのまま側にいてほしい・・・・・・。明音をずっと抱きしめていたい・・・・・・。泊まっていってくれるよね?」
彼女の頬に手を添えて、瞳を覗き込むようにして尋ねた。
「・・・はい・・・」
赤くなりながら、小さな声で返事をした彼女の唇に唇を重ねた。
この世界で再会してからの僕の気持ちを伝えたくて、何度も彼女の唇を求めた。
はじめは軽く。その内熱がこもってしまい少々激しくなってしまった。
彼女の瞳が潤んで、僕の胸に凭れ掛かってきた。
すごく可愛い。自分の顔が赤くなったのが分かる。
彼女をぎゅうっと抱きしめた。そして、彼女の頭に頬ずりした。
可愛い、可愛い、可愛い・・・。
気付けば、僕の腕の中で彼女は寝ていた。
彼女をベッドへと運ぶ。
彼女はどこまで思い出したのだろうか?
寝顔を見ながら、思う。
美しい思い出だけならばいいのだが・・・。
前世の世界は地球ではない星。
砂漠の国でも快適に過ごせる、そんな科学技術が発達していた。
天文学もかなり発達していた。地球の存在を知っていたのだから。
僕はその星で砂漠の国の王子だった。彼女は隣国の王女で、僕の婚約者だった。
天体観測は王宮の仕事だった。
ある日、巨大な隕石の存在を知った。
衝突の可能性がある。それも、かなり高い確率で。衝突を未然に防ぐ手段が無かった。
国民には、この事実を伏せることにした。大きな混乱を招くことは分かっている。それを避けたかった。
僕は、彼女を彼女がお気に入りの場所、噴水のある庭園に誘った。
ここはバラ園の中にあり、ちょうどバラが満開だった。
夜空には、満天の星。この景色を見ることはもう無いかもしれない・・・。
「どうしたのですか?」
僕が考え込んでいるのを見て、彼女が尋ねてきた。
「今日の星空は一段ときれいだと思ってね。君の美しさには負けるが」
「もう、お世辞を言っても何も差し上げませんわよ」
彼女が微笑む。
「夕暮れから夜にかけての砂漠を見たことはあるかい?とても幻想的な景色になる」
「いえ、ぜひ見てみたいです」
「では、明日、早速行こう」
翌日、僕は彼女を城壁の外へ連れ出した。
城壁の東にあるオアシスに行く。ここから見る夕方の城壁はとても美しい。
夕日に照らされ、白い城壁がオレンジ色に輝く。
「きれい・・・・」
彼女がつぶやいた。
「もっときれいになるよ」
天上の色が濃紺へと移り変わり、星空が広がった。
空に見とれている彼女を抱き寄せた。
「愛しているよ。生まれ変わっても必ず君を見つけるから。待っていて・・・」
星空の中に、ひときわ明るい星が見えた。
隕石の衝突は、避けられなかったと思う。
前世の記憶の最後は、眩しい光だった。
彼女の隣で眠るのは、理性を保つ自信がないので、残念だがソファで眠ることにした。
テーブルの上にあの絵葉書が置いてあった。
前世で僕達が住んでた場所。
「うそだろ・・・」
それは、僕達が最後に見た景色・・・。
以前、見た時は気付かなかったが、星空にひときわ明るい大きな星が描かれていた・・・・。
二人のことをもう少し書きたいと思いました。
後日談が書けたらと思っています。