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第二笑〜彼女の生態〜

蜘蛛……。節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目に属する動物の総称。網を張り、他の虫を取ることで一般的に有名な動物である。


聖は、パソコンで蜘蛛について調べていた。というのも……聖は首を少し後ろに向け、今台所で悠々と夕食を作っている一人の少女を見つめた。


彼女の名前は女郎 詩紅母。


見目麗しく、誰に対しても丁寧な口調で話す、大和撫子な少女である……が、先日衝撃的な出来事があった。


今でこそこうして、聖の狭い心を何とか妥協させて一緒に暮らしてはいるものの、実はこの少女何を隠そう驚くべき事に、真の姿は蜘蛛なのである。


詩紅母は、聖の視線に気がついたのか、ニコリと微笑んだ。


聖はすぐさま、フィっと顔をパソコンのモニターに戻した。


さて、この章ではこの少女がいかにこの根暗で性根が悪く、無愛想で、優しさという感情を持たなく、彼女居ない暦17年のこの聖という少年を妥協させたかをお話しよう。


話しは二日前にさかのぼる。


              ***


〜二日前〜


「結構だ! 出てけ!」


「そ、そんな事言わないで下さい!!」


詩紅母は泣きながら聖の足に飛びついた。


状況を説明しよう。今詩紅母は聖によって、外に追い出されようとしていた。


「私、今追出されたら行くところ無いのです!!」


詩紅母は必死に聖にしがみついている。


「だぁぁっ知るか!! 離せ、化け物!!」


聖は、必死に詩紅母を追出そうとしている。本当に優しさの「や」の字もない。


「どうして私を嫌うのですか? 蜘蛛だからですか!?」


詩紅母はうわん、うわん泣きながら聖にすがりつく。


「それもあるが……。僕は、今まで通り楽しくゲームやパソコンを一人でやって過ごしたいんだ!その生活をお前のありがた迷惑でぶち壊されたくないんだよ!」


自分の自堕落な生活を守るために、いたいけな行く当てもない哀れな少女を追出そうというのだ。


ほとほと冷酷な人間である。


ああ、かわいそうな詩紅母ちゃん!


「お願いします! なら、聖様のお邪魔をしないようにしますから! ですから、お側に居させてください!」


「だから、居るだけで迷惑なんだよ!」


「昨日は止めてくれたではありませんか!」


「あれは、お前が蜘蛛の姿で部屋の中を逃げ回ってただけだろう!!」


どうやら、昨日もこれと同じ状態になっていたらしい。


昨日は聖が負けたようだ。


「お願いです聖様ぁ〜! 私を助けてくれたのは貴方だけなんですぅ〜!!」


「はっ?どういうことだよ?」


聖は足を止める。その隙に詩紅母は素早く部屋の中に入った。


「よしっ!」


「あ、きったねぇぞ!!」


聖は怒りにわなわな指を震わせて、詩紅母を指さす。


「汚くなどありません。それに今のは本当の事です!」


詩紅母は着物の埃をはたきながら言った。


聖はもうめんどくさくなって、ドカッと畳の上に偉そうに座った。


詩紅母も聖の前に楚々と座る。そうして、詩紅母は芝居がかった口調で勝手に身の上を話しだした。


それと同時に何故か照明がパッと落ちた。


聖はいきなりの事に驚いた。


「な、なんだ? なんで電気が……」


と、何故かスポットライトみたいな明かりがパッと詩紅母を照らした。


「なんで、うちにスポットライト?」


そんな聖の疑問は無視して、詩紅母の物語は始まった。




「最初に、私はこの世界の生物ではありません。驚かないで下さい……なんと……私は……魔界の生物なんです!!」


「ま、魔界?」


突拍子もない世界が出てきて聖の額からは冷や汗が……。


「そうなんです。あ、でも勘違いしないで下さいね? 人間さんたちが住むこの世界を征服したり、壊したりするきはありませんので」


詩紅母は手を振り振り、自分がこの世界に無害であることを示す。


「じゃあ、お前は此処に何しに来たんだ?」


聖がそう尋ねると、詩紅母はよくぞ聞いてくれましたとばかりに泣きながら、聖にズズッと近づいた。


「うぅ……聞いてくださいよ聖様ァ〜!!!」


「うわァ、びっくりした!! いきなり近づくな! びっくりするだろうが!」


心臓をバクバクさせ、聖は怒鳴る。おいおい青年。そんなにいつも切れていては長生きできないぞぉ〜。


詩紅母はおよよと着物の裾で泣き始めた。聖の怒りは受け流されたようだ。


「私、本当は魔界で家族と幸せに暮らしていたのです……。ところがっ!!」


聖はウザそうに、「……いちいち大声だすな! ご近所に迷惑だろうが……」

ご近所関係が最悪のお前が何を言う……。


「あ、はい。そうですね? それで、ですね……。ある日私は母親に頼まれて、おばあちゃんのお見舞いに行こうとしていたのですね?」


聖は、お前はどこの赤頭巾だと突っ込みたかった。そのせいか、身体がぷるぷると震えている。


ここからは、詩紅母のここにやってくるまでのいきさつである。


        ***


ここは、魔界では考えられない平和な人蜘蛛族の村。


詩紅母は家の扉から、外へと出た。


にしてもここは本当に魔界か? というくらいメルヘンチックな村だ。花とか笑顔で歌ってるし、お菓子の家とかあるし……。


魔界を恐ろしく殺伐としたところだと想像したそこの君!


素直に謝ろう。ごめんなさい。


とにかく、詩紅母は外に出たのだ。


「それじゃあ、お母様、いってきますね?」


詩紅母が花のような笑顔をこれまた詩紅母によく似た優しげ母親に向けた。


「ええ。気をつけてね? 寄り道しちゃだめよ? 悪い悪魔が出るからね?」


だから、赤頭巾ちゃんかよ!!


「分かっていますわ」


詩紅母は母親に手を振り振り、何度も何度も振り返り母親に別れを告げた。




さて、ここは森の中。


「ここは、どこでしょう?」


詩紅母は森に入って10分で早速迷っていた。


「困ったなぁ……どっちに行けばいいか分からなくなちゃった」


詩紅母は辺りをキョロキョロと見回した。しかし、見えてくるのは生い茂る緑ばかり。


このままではおばあ様のお家につけなくなると、詩紅母は涙を浮かべ森を彷徨い始めた。


時折、聞こえてくる鳥達のさえずりで元気付けられながら、詩紅母は森を進む。


しかし、そんなときに詩紅母の身に不幸が降りかかった。


「何かしら……この音……」


詩紅母の耳にゴウゴウと呻る嫌な音が響いてきた。そうして、次の瞬間!


「えっ! 何!」


それは、時空の歪だった。この時空の歪は、この魔界と人間界をぐ唯一の通路だった。それが突然発生したのだ。


歪は、強い風で辺りの木々や動物たちを吸い込んでいく。


このままでは詩紅母も吸い込まれてしまう。しかし、時すでに遅し。


詩紅母はあっけなく、本当にあけっなく時空の歪に吸い込まれたのだった。




そうして今に至る。


話を終え、詩紅母はまたおいおいと泣き出した。


聖の感想はというと、


「……。」


あきれて物も言えなかった。


「と、言うわけで私は色々紆余曲折あってこうして聖様のお家にたどり着いたのでございます。しかし……この人間界とは酷いところにございますね? 私を見ただけで、人間さんたちは私を踏み潰そうとするのですから。そんなんでは、動物愛護協会に訴えられますよ! それに比べ聖様は私を助けてくださいました! なんてお優しい! 本当にありがとうございます!」


詩紅母は深々と頭を下げる。


聖が思うに、それはただ単におまえの小ささに誰も気付かなかっただけでは。まぁ、虫が嫌いな人間なら潰しにかかるかもしれんがとか思っていた。


と、暗かった部屋が急にパッと明るくなった。


どうやら、詩紅母の話しはあれで終わりらしい。


「というわけで、お願いします聖様! どうか私を聖様のお側に居させて下さいまし! ただ置いていただければいいのです!」


聖は黙っていた。出来れば面倒ごとには巻き込まれたくない……しかし……


聖はちらりと詩紅母を見る。それなりに美人なんだよなこいつ……いや、蜘蛛だけど……こんな美人を見捨てるというのも何か悪い気がする……。珍しく……本当にこんな事何十年に一度あるかないかくらいの奇跡で聖はそう思った。


「……お前、どうやったらここからいなくなってくれるの?」


聖は呟くように、しかし、詩紅母に聞こえるようにたずねた。


えっ?と詩紅母は怯えた表情で、聖を見つめる。


「そ、それは……また時空の歪が見つかれば帰りますけど……」


詩紅母は俯く。


「……本当にその歪とやらが見つかれば僕の家から出て行くのだな?」


詩紅母の顔が驚きにパッと上がった。


「そ、それでは……」


「……勘違いするなよ? 僕はただ、元の生活に戻るために……がっ!!」


「あ、ありがとうございます!! 聖様!!」


最後まで言い切らないうちに詩紅母が聖に抱きついた。


「な、おい! ちょっと……人の話しは最後まで……」


「ありがとうございます! ありがとうございます! 詩紅母は聖様のために一生懸命お仕えしますわ!」


「な、ちょ……苦しい……」


聖の顔が赤染まる。しかし……照れながら、心のそこでやっぱり追出すかとか真剣に思いながらも、聖の表情は誰も見たことがない穏やかな顔つきになつていた。まぁ、たまには面倒ごとに巻き込まれてやってもいいかな。と、聖はこの天然お惚け蜘蛛少女を見てそう思った。  


***        


そもそもこの考えが間違いだった。どうして自分はこの蜘蛛女になんて情を見せてしまったのだろうか? 今でも不思議で仕方ない。


聖はパソコンをいじりながらそんな事を考えていた。


「聖様〜お夕食ができましたよ〜」


詩紅母がやんわりとした口調で、聖に呼びかける。


「まともなもん作ったんだろうなぁ?」


聖が冷たい口調で、パソコンから視線を一旦外して、テーブルの上に並べられた料理を眺めた。


聖の目に映ったのは、質素ながら見た目で美味しそうだとわかる御袋の味的な和風料理が並べられていた。一瞬にして聖はその料理に圧倒され、ごくりと喉を鳴らした。幻覚か? 食材がキラキラして見える。 


詩紅母は頭に巻いていた三角巾を外し、はにかみながら聖に告げる。


「ごめんなさい。食材が少なかったもので……こんな質素なお夕食になってしまったのですが……。聖様のお口に合うかどうか……」


とりあえず聖はテーブルの前に座る。ちらりと詩紅母を見やる。


詩紅母はニコニコしながら……


「聖様、どうぞ召し上がってくださいな」

聖が食べることを促している。


聖は箸を右手に持って、恐る恐る料理に手をつけ始めた。


そうして、口に運ぶ。何回か咀嚼する。


聖の箸が一瞬止まる……


「あ、あの聖様……? どうしたのですか? ま、不味かったですか?」


詩紅母が心配そうに聖の顔を覗く。


聖は視線を少し上げて、詩紅母の顔を見つめ返して……

「……美味い……」

小さく、本当に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。


詩紅母はえっと聞き返す。


聞き返されて、聖は顔を赤くした。


「な、なんでもない!」


誤魔化すように、聖はがつがつと詩紅母の料理を口に運んでいった。


不思議そうに首を傾げた詩紅母だったが、聖が自分が作った料理を次々に平らげていく様をみて、ホッと胸を撫で下ろしつつも、微笑ましげにその様子を眺めていた。


「おい!」


「は、はい! なんですか?」


ずいっと聖はご飯茶碗を詩紅母へと差し出した。


「おかわり……」


顔を赤くしながら聖は小さく呟いた。


そんな聖に驚きながらも詩紅母は笑顔で茶碗を受け取り、

「はい。聖様」

せっせっと茶碗にご飯をよそった。


こうして、二人の平和で微笑ましい夜は過ぎていったのである。                    

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