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私には二人の幼なじみがいる。一人は美形のタクマ。一人は平凡の真吾。家も近所である私たちは、小さい頃から三人で、仲良く楽しく元気良く、ケンカしながら大きくなった。そんな生活の中で気が付いたことがある。タクマは真吾にベタ惚れで、嫌がる真吾をものともせずに猫っ可愛がりするのだ。高校生となった今でも。
ケータイがメールの着信を知らせ開いてみればタクマからで、今日行くから、と一言。またかよ、と内心でため息をついたつもりが、実際に口から漏れてしまった。
「中原さん、どーしたの?」
隣の席の相原くんは、爽やか系のモテる男で、クラスの中心にいつもいるような人気者。こうして小さく吐き出されたため息さえ拾い上げ、心配してくれる。
「なんでもないの。ごめんね、ちょっと面倒くさいことがあって思わず」
「そっか。なんかあったら聞くから、溜め込まないでね」
そう言って満面の笑みを浮かべると、また明日、と手を振って帰っていった。それを見送ると、もう一度息を吐いてから立ち上がる。
ただいまーと言いながら玄関に入れば、見慣れた靴が二足並んでいて思わず舌打ちする。
「おかえり。もう来てるわよー」
「年頃の娘の部屋に勝手に入れないでよ」
「なによ今更。いつものことじゃないの」
「…まぁそうだけど」
母との無意味な会話を切り上げ自分の部屋の前に立つ。そっと扉に耳を近付けて中の様子を窺うも、ぼそぼそと話す声が辛うじて聞こえるのみで、状況は全く分からない。意を決して扉を開こうとして思い止まり、念のためにコンコンとノックする。一拍置いて、どうぞーとふてぶてしい返答があり、なんで自室に入るのにこんなに気を使わないといけないんだ、と情けなくなった。
「ゆみ、おかえり。勝手にお邪魔しちゃってごめん」
「ただいま。真吾はいーのよ、真吾は」
「おい、俺はダメなのかよ」
なんでだよ、と不貞腐れるタクマに冷たい視線を送ってから制服のスカートの下にジャージを履く。座ろうとしたところで自分の飲み物がないことに気付き、仕方なく取りに行こうと扉へ向かう。彼らには、来客用のカップに注がれた紅茶があるというのに。
「ゆみ、俺コーラな。真吾は?紅茶のお代わりもらうか?」
「なんであんたの分まで持ってこなきゃいけないのよ」
「ゆみ、俺はいーよっ」
「…はぁ。コーラと紅茶ね!」
「よろしくー」
「ゆみ、手伝うよっ」
「いーからお前はここにいろ」
「わっ抱きつくなよ。危ないだろ」
バカップルか。と、タクマにのみ心の中で悪態をついてキッチンへ向かう。おぼんにそれぞれの飲み物を乗せて戻り、なんの考えもなく部屋の扉を開いた。
「・・・っタクマぁーー!!」
「ゆ、ゆみっ」
「お前、戻ってくんのはえーよ。空気読め」
中では床に押し倒された真吾が、首もとに顔を埋めたタクマに身体をまさぐられていた。真っ赤な顔の真吾が不憫で、タクマへの苛立ちが募っていく。
「人の部屋で盛んじゃないわよ」
「こいつがかわいーのがいけねーんだよ」
「真吾のせいにするな」
ぷりぷりと怒りながら飲み物を置いていく。タクマは真吾が大好きで、同性だということに最初は悩んだみたいだけど、今では吹っ切れたようで真吾への猛アタックを続けている。真吾もタクマに絆されたのか、徐々に受け入れ始めているのが弱々しい抵抗に表れている。
タクマは一応気を使っているのか、人前では真吾に構い倒すのを辛うじて堪えている。私から見れば仕草や視線にがっつり表れていて、意味あるのかと思わなくもないけど。二人きりになるとその反動が一気に出るようで、タクマの部屋で襲い掛かりそうになったことがあるらしい。人前はダメ、二人きりもダメ。仕方ないから事情を知る私の部屋で…という図式がタクマの中で勝手に組み上がった結果、なんの非もない私にこうして被害が及んでいる。
続く
誤字等ご容赦ください。