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反撃の兆し

 ヒーローとは遅れてやってくるものである。

 そう、助けを求める声があるとそこそこいいタイミングでやってくる。

故に「


待たせたな!」


ここでヒビキが現れたのはまるでヒーローのようだったと言っても差し支えない。

 ただし…


「貴方何してたのよ!?」


 助けられる側にしてみれば、自分を置いて安全圏へとまんまと逃げ仰せ、わずかな期待を込めていたらご丁寧に扉を閉めた裏切り者の再登場である。

 ヒビキとしてはマナーとしてほぼ無意識に扉を閉めてしまっただけであるのだろうか、されたほうからすれば堪ったものではない。はっきり言えばマナーは守ることも大切だが、守るべき場というものがある。その点から考えればヒビキは不適切であったといえる。

 さらには最後の加速前になぜか謝ったのもいけなかった。実際リアスは状況がのみこめないまましばし呆然とし、扉が閉められたことで絶望に近いものを感じた。

 リアスはこれまでのことからも分かるように能力なしでもそこそこ戦うことは出来る。それは彼女がゼロであることが主な理由であろう。

 ゼロのほとんどは無意味に差別を受ける。直接暴行を加えられることもざらだ。となればゼロは二通りのものに分かれるのだ。すなわち反抗するまたはしようとするものと暴力を受け入れてしまうもの。彼女は前者であり、その前者の中でもどのような思いを持つかで細かくわかれるのだが、リアスは一言で言えば差別に負けずに耐え抜くことを選んだ。反抗心としてはちっぽけかもしれないが、そう思うことすら出来ないゼロが多いのだ。そこから考えれば十分彼女は現状に抗おうとしている方だろう。それからリアスは可能な限り己を鍛えた。そして現在の強さへと至るのだが、精々がブラックウルフ二、三匹と対等に戦うことが出来るくらいで、それ以上は厳しいといわざるをえない。

 リアスではヒビキがいなくなったことで自分に集中した群れを相手にするのは無理だった。


「リア、今助けてやるからな」


ヒビキの言葉に内心貴方のせいでピンチなのよ、と叫びそうになるが何とかこらえる。


「リア、今助けに行くからな」


 なぜかもう一度ヒビキは同じ言葉を吐く。


「……お願いします。助けてくださいは?」


 ここでリアスは気付く。あ、こいつ性格悪いなと。そして無事に生き残ることが出来たならば往復ビンタしてやろうと。


「冗談冗談。いざって時にキラリと輝くのが本当の男。背中で語り、剣でも語る。言葉はなくとも何かを伝えられる。そんな男になりたい気がする」

「貴方の願望とか知らないわよ!」

「その反応はなんか傷つくかも。まあ、いいけどさ」


 そういってヒビキは愛剣を鞘から抜く。その刃は月の光を全て吸収してしまったかのように黒一色だ。しかしそれは最初からそんな色だったわけではなく、ヒビキの能力の行使によって何の変哲もない鉄の剣が黒く染められただけである。いや、何の変哲もないというのは語弊がある。なぜならその剣は途轍もなく薄かったからである。厚さは紙と同じくらい。

 例えるならば剃刀の刃。

 それが剣の形を保っていると言って良いだろう。


「さあ、犬ども遊んでやるから来いよ」


 挑発じみた発言も言語を理解していないブラックウルフには伝わらない。それどころか自身の作った安全圏で来いとか言っても来るわけがない。標的はリアスとなるのは必然だろう。


「くっ」


 リアスは疲れた体に鞭を打って攻撃に備える。


「まさか無視するとは思わなかった。はいはいそうでしょうとも。男の肉なんかよりも若い女の肉の方が魅力的だよな。ぶっちゃけ同意見」


 ヒビキの声が聞こえてくるが、それに構っている余裕はヒビキにはなかった。


「俺もさあ、ワンコのことなんかよりもいたいけなねーちゃんの方が好きだ」


 そういうとヒビキは隙を見せるブラックウルフに近づきその首を斬り飛ばす。

 それを皮切りに次々とブラックウルフを斬っていく。


「らんらんるー」


 無表情で軽快な言葉を吐きながら次々とブラックウルフを斬り捨てていく姿はどこか狂気じみていた。救いはリアスが襲い掛かるブラックウルフの相手で一杯一杯でヒビキの方を見ている余裕がなかったことだろうか。さらにいえば手下が首を跳ね飛ばされても、ボスであるシルバーウルフの視線はリアスに釘付けの為、必然とブラックウルフ達もリアスの方を向いていた。


「ここまで盛大に俺に興味がないもんなの? 俺のガラスのハートに罅入っちゃうよ?」


 言葉とは裏腹に特に気にしていないような声音で呟きながらヒビキはブラックウルフの群れに向かって駆け出す。

 ヒビキにしてみれば自分に注目していないのは良いことでしかなく、目標である群れのボスのシルバーウルフに迫っていく。シルバーウルフをボスとした群れをどうにかするにはシルバーウルフを倒すより手段がない。なぜならシルバーウルフの厄介な能力として手下の召還という物があるからだ。

 これによってシルバーウルフは数十、数百のブラックウルフを自身の側に絶えず置くことができる。

 実際はシルバーウルフをボスとする群れに遭遇したら逃げることが最上とされるが、ここは迷いの森であり、闇雲に逃げた方が危険であるため、ヒビキは自分の住居のある方へと進むしかなかった。不幸ににもその家の前にシルバーウルフが陣取っていたためにもはや手段は討ち取る以外にはなくなった。例えば安全圏であるヒビキの家に閉じこもったとすれば、シルバーウルフは手下に監視させ、ヒビキが安全圏から出てくるまでいつまでも待つことだろう。そうなってしまえば備蓄してある食糧や水がなくなった時点でお終いだ。

 ならば倒そうと思ったからといって倒せるものかどうかというと、はっきりいえば難しい。何よりもシルバーウルフの周りにいるブラックウルフが壁となってたどり着けないことが多い。一般人なら運良く広域に影響を及ぼす魔法の込められたカードを所持していれば一気に取り巻きを消し去ることができるが、シルバーウルフ自身はブラックウルフよりも遙かに強い。しかも、時間をおけばブラックウルフを召還してしまう。結論から言えば一般人ではどうにもならない。しかし、これがゼロとなると大多数は周りのブラックウルフに殺されて終わりだ。

 しかし、都合よくヒビキはゼロはゼロでも普通のゼロではなかった。

 鍵はシルバーウルフを倒せる実力があるかどうか。


 ヒビキはシルバーウルフへの進路上のブラックウルフの首をまたも斬り飛ばす。

 その剣速は徐々に速くなっているのか、殺されたブラックウルフは低いうなり声を上げたまま、自身の死すらも感じないままに命の火を掻き消された。これでヒビキが斬ったブラックウルフの数は丁度十を数える。


「ようやく腕の調子が戻ってきたな」


 ブラックウルフを斬った後、右手に持っていた剣を左手に持ち替え、右手を握ったり開いたりしながらヒビキが呟く。

 ようやくというか早くも木にぶら下がっていた弊害で発生していた腕の気怠さが抜けたのを確認すると、そのまま左腕を振った。

 同時に別の個体の首が飛ぶ。


「こっちも問題なし」


 そしてにやりと意地の悪そうな笑みを顔に浮かべる。

 そして一言。


「駄犬共、俺が愛犬家じゃなかったことは不運だったな」


 そう言ってさらに笑みを強くした。




1/7 若干修正

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