出会い?4
いきなり現れた謎の人物に困惑しっぱなしだが、よくよく見れば結構な美人であることがわかる。いろいろ考えなければならないことがあるだろうが、とりあえず一言。
「魔法使ってた癖に『私もゼロよ』とか堂々と嘘つくとかないわぁ~。正直ひくレベルの大嘘だよ? お母さんにも教えられなかった? 嘘をついていいのは仕事場の上司に遅刻の言い訳をするときと仕事がだるくて早退するときとズル休みするときだけだって」
「そうなの、貴方の母親には勤労意欲が足りないわね。それと私が魔法を使えたのには理由というか秘密があるの」
「へえ、どんな?」
「説明してあげたいけど、そんな時間はないみたい」
筋肉さんが砕け散ったことで何事かと距離を置いていたブラックウルフがじりじりとまた距離を詰めてきていた。
「絶体絶命って奴かしら?」
女が強張った表情で呟く。どうやら本気でまずい状況らしい。
そんな中俺は近くに落ちていた手ごろな長さの棒を持って若干テンションが上がっていた。
「やべー、未だかつてこんなに手ごろな長さと太さの棒があっただろうか。いや、ない」
真っ直ぐとはいかないが、ただ地面に落ちていただけの棒にそこまで求めるのは酷ってものだろう。
「貴方、少しは緊張感持ったら? ゼロが二人でここを抜け出すのは限りなく不可能よ。まあ、貴方が目覚めていれば話は別だけど」
「俺はお目目ぱっちり二重の自称イケメンですが何か?」
「女の陰に隠れるような輩はいくら顔が良くてもイケメンとは言わないのよ? ま、どのみち貴方が自称の縛りから解き放たれることは永遠にないでしょうけど」
「貴方じゃない。俺はヒビキ。ニックネームはヒーちゃんだ」
「……リアスよ」
ここで始めてお互いに自己紹介となった。
「さて、そろそろ体が睡眠を求めてるからなんとかしようか」
さすがに眠くなってきた。なにせ今日は薪作りのために早起きしたんだよね。もう体がマジでだるい。
「なんとかするってどうするんだ?」
「どうするもこうするも俺の家は安全だからそこまで辿り着けばいいだけの話だ」
「だが、そのためにはこの包囲網を抜けなければ……」
リアスの言葉を手に持った棒を縦に一振りすることで遮る。
「まさか、それでどうにかするとでも?」
「うん」
「無理だ! そんなの自殺以外のなにものでもない!!」
「あれ、知らなかった? ここって自殺の名所なんだよ?」
しかし俺は死ぬつもりなど毛頭ない。
「リアちゃんが大分数を削ってくれたし、これくらいの数なら問題ない」
「いや、だが……」
「まあ安心しなよ。俺も君と同じ『発現者』だからね」
「え?」
リアスが驚いたようにこちらの顔を見つめる。俺はそれに応えるように微笑むと木の棒に対して力を行使する。すると、なんの変哲もなかった木の棒が黒く変色する。そしてそのままブラックウルフの群れへと突っ込んだ。
「嘘……」
リアスは目の前で繰り広げられる光景に驚きを隠せなかった。こんな森の中で人に出会ったことにも凄く驚いたのだが、それが自身と同じゼロという存在、あまつさえ彼は『発現者』だった。
『発現者』
それはゼロにだけ許された能力を扱う者。そして無能と言われるゼロが無能ではない証。魔力を持たないゼロが起こす奇跡の力。人によって千差万別の力が宿り、魔力を必要としないために使用回数に制限がない。魔法と違い臨機応変に変更こそ出来ないが、ゼロにとってみれば普通のものと肩を並べるのにふさわしい力だった。
だが、世界は虐げられたゼロの反乱を恐れ、ゼロが発現者として覚醒できるという情報を秘匿し、既にいるゼロを手懐けるか抹殺した。現在、一般の民衆で発現者ぼことを知るものは少ない。
「一体どんな能力なの?」
リアスの目に映るのは黒い髪に黒い衣服を着た夜には若干視認しづらい格好の男が黒い棒を振ってブラックウルフ達を次々に殴り飛ばしている姿。驚くことに彼はブラックウルフの攻撃をひらりとかわすことで一切攻撃を受けていない。しかも見た目には全力で殴っているはずなのに彼の持つ棒が一切折れない。
リアスもそれが元々ただの木の棒であったことはわかっている。それが世界一硬いとされるダイアラスという樹木だったらとしたら理解しなくもないのだが、あれは完全にそこらに落ちていた雑木の枝。どう考えても不自然だった。
「物体の強度を増す能力?」
半信半疑で呟いた言葉は声に出してみると妙に納得できた。発現者の能力は千差万別。未来を視るなんていう者もいるという話を聞いたことのあるリアスからすれば、どうってことない能力だった。
「そんなことよりも今はどうやってここから抜け出すかよねっ」
そう言いながらリアスは勢いをつけて右足を前に突き出す。それは前方にいるヒビキをかわしてターゲットをリアスとしていたブラックウルフの鼻っ面にヒットし数メートル吹き飛ばす。
「ぐおっ」
そしてヒビキに当たる。
「ごめん、そっち行っちゃった」
「まさかの味方攻撃だったよ」
「いや、まだ味方かどうかわかんないし」
「この状況で言う? 俺かなり友好的なのに……」
「冗談冗談。今は貴方を頼りにしてる」
危険はまだ去っていない。