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出会い?3


 重力に負けて落下した俺は下にいたブラックウルフの上に見事に着地した。


「あ、すまん」


 一応謝罪しておく。なにせ推定約十メートル(・・・・・・)もの高さから成人男性が落下した衝撃というものは生半可なものではない。現に下敷きとなった哀れなワンちゃんは口から変な物体を出してピクピクしている。


「運が悪いよな、お互い」


 聞こえているかどうかわからないが、未だに下敷きとなっているブッラクウルフへと語りかける。


「俺の真下にいたためにお前は潰されてしまい、俺は俺で武器さえ持たないでお前のお仲間さんが大勢いるところに翼の折れた天使の如く降り立ったってしまった。しかしこれが自分の運命(マイデスティニー)。そうとも俺は自分の運命に嘆きはするが呪いはし「バウワウッ!!」

 折角かっこつけてるんだから吼えんの禁止」


 肝心の結びの部分で邪魔された。

 おっと、みなさんそんなに犬歯を剥き出しにしてどうしたんだい?


「危ないっ」

「つおうっ」


 筋肉さんの言葉にとっさに反応して飛び掛ってきたブラックウルフを華麗にかわす。そしてそのまま一気に駆け出す。しかしこれは逃げるためではない。戦略的撤退だ。


「ふぅ、どうも」

「どうもじゃないわよ、なんか攻撃激しくなってるわよ!?」


 筋肉さんの後ろに隠れて暢気にあいさつをしたらちょっと怒られた。

 当然か、俺を追って戦列に加わったブラックウルフによって筋肉さんの負担は明らかに増えた。


「正直ごめん。でもあんなに長い時間木にぶら下がった根性はすげえと思うんだよな」

「自画自賛はいいから手伝いなさい。私もタイムリミットが近いの」

「でも武器ないし」

「これを使いなさい」


 そう言うと筋肉さんはブラックウルフ達の攻撃が途絶える一瞬の間に股間に手を突っ込んで取り出したものを俺に投げ渡す。

 それは一枚のカードで、華美な装飾のないそれには『サンダー』の文字が記載されている。心なしか生温かい。


「前衛は私がやるから貴方は後衛として魔力の限りそいつをぶっ放しなさい」


 などと筋肉さんは言うが正直困った。


「はやくっ!!」


 筋肉さんも限界が近いのか焦った声音で急かすのだが、どうしようもない。


 ……だって、俺にはこれは使えない。

 

 いや、これだけではない。魔法である限り俺が使えるものはこの世にはない。


 なぜなら俺は魔力を持たない『ゼロ』なのだから―――



『ゼロ』

 一万人に一人の確立でこの世に存在する世界の異分子。世界中のほとんどの者が使える魔法を使うことが出来ない存在。彼らには魔力がなかった。これは遺伝などで親から子に伝えられるものではなく、本当に突然生まれる。だが、魔力量を量る術がある特定の魔法をどのくらいの規模でどのくらいの数を放てるかで決定されるためにゼロの発見は最年少でも四歳だ。しかし、異分子であるゼロは見つかった瞬間から大抵が迫害を受ける。そうでなくとも近付いてくる奇特な者はほとんどいなくなる。それはゼロのそばにいると自分も魔力を失うという根も葉もない噂のせいだったり、大昔にゼロが厄災を招いたというどっかの誰かがつくった御伽噺のせいだったりと理由を挙げればたぶんいくつかある。だが、どの理由も信じているのは大した数のものではない。大抵の者はゼロだから、ただその一点だけでゼロを迫害するのだ。そこに理由だとかはない。そんなものは後付でどうとでもなる。要は他とは違い、明らかに劣るとされるものを貶めて優越感に浸りたいだけなのだ。


「あ、無理無理。俺ゼロだから魔法使えねえんだよ」

「え?」


 簡潔に自分がゼロであることを筋肉さんに告げてやると呆気にとられたような声が聞こえてくる。そりゃそうだ。ゼロは一万人に一人しかいない。しかも大抵は自分がゼロであることを隠し、極力人に話そうとはしない。俺だって別に私はゼロですと書いた旗を持って歩き回りたいほどゼロであることに対して誇りを持っているからあっさりと教えたわけではない。ただ、こういう場面で嘘とか隠すってのは良くないなと考えただけだ。


「貴方もゼロだったの……」

「そ、だから魔法は使えないのよ。……も?」


 貴方もってなんだ?

 もしかして筋肉さんの知り合いにゼロがいるのだろうか。


「ふふっ、疑問はあるだろうけど今はそれにあえて答えないわ。そろそろタイムアップだし……」


 筋肉さんが微笑んだと同時に筋肉さんの体が光を放ち、やがて点滅し出す。そしてガラスの砕けるような音が辺りに響くと同時にその体が砕け散った。

 しかし、なぜか砕け散った筋肉さんがいた場所に見知らぬ人がいた。

 まずはウェーブのかかった肩ほどまでの長さの白い髪ときめの細かそうな白い肌が月明かりに照らされて俺の視界に飛び込んできた。次いでぴっちりと体に張り付いたショートパンツ越しに形、大きさ共に見事な尻。ハラショー。


「ふぅ、実は私もゼロなの」


 いきなり現れた人物は紛れもなく女性の声でそう俺に語る。

 いや、お前誰だよ。


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