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出会い?2


「いや、参った参った」


 まさか武器を持ってくるのを忘れるとは思わんかった。失敗失敗。


「ちょっと、どしたの? 貴方からやっちまったオーラみたいなのが出てるけど?」


 実際やっちまったしな。しかも颯爽と巨乳美女を助けるつもりが居たのは性別不明のムキムキな巨漢。ぶっちゃけテンションだだ下がりです。


「すまん、武器忘れた」

「すまんって……それじゃあ貴方が危ないじゃない! わかったわ、あたしが貴方を守ってあげる。すぅ……ウルフ共こっちこんかいっ!!」


 渋い声で守ってやるとか言われるとなんか胸がキュンとくるな。これってもしかして恋?

 それはないな。まずないな。絶対ないな。だって相手は性別不明だもの。まあ、万が一女性だったとしてもないんだがね。

 とりあえず便宜上あの人のことは筋肉さんとでも呼ぼう。


「よっと」


 筋肉さんの声にブラックウルフが気を取られている内に木の枝にぶら下がり退避する。


「強く生きてくれ」


 そしてなけなしの気持ちのありったけを込めて声援を送る。


「ありがとう。さあ、悪い子にはお仕置きしなくちゃね」


 そう言って筋肉さんが股間に手を突っ込む。


「おいおい、なにでお仕置きするつもりなんだよ」


 ちょっと見るに堪えなない光景が広がりそうで眉をひそめる。

 しかし予想とは違い、その手はすぐに引っこ抜かれてしまった。更にはその手に一枚のカードらしきものが握られていた。


「美しき女神の姿を刮目して見なさい。いくわよっ『パワー』」


 筋肉さんの呟きと共にカードが光を放ち、粒子となって消えていく。


「むぅん!」


 筋肉さんがマッスルポーズを決める。うん、確実に筋肉が一回り大きくなった。



『魔法』


 それは世界中のほとんどの者が扱うことのできる神秘の力。

 特殊な方法でカードに魔法を収め、それに魔力と呼ばれる物を流し込むことで顕現する超常の現象だ。

 流し込む魔力の量が多くなるほど威力が比例して上がる為、ある一定以上の魔力量を誇るものは俗に魔蓄士と呼ばれ、色んな所で重宝される。

 ちなみにパワーの魔法は市販されている魔法カードの中でもまあまあの値段がしたはずだ。まあ、珍しさはさほどないんだけどな。


 それよりも筋肉さんすげえわ。さっきまで以上の猛将っぷり。どこまで鍛えたかもわからないほどの握力でブラックウルフの頭を握りつぶすわ蹴り一発で首が舞うわの完全に一騎当千状態だ。


「話にならんな」


 粗方倒した筋肉さんが構えを解いたにも係わらず未だブラックウルフは警戒を解かない。野生の本能がまだ筋肉さんを警戒してしまっているのだろう。一歩一歩じりじりと筋肉さんを睨み付けながら後退してくる。よっぽど怖かったんだな。まあ、あんな筋肉が達者な輩に虐殺のごとく仲間を殺されたら恐怖だよな。

と、そこで一匹のブラックウルフが夜空を見上げた。

いや、それを合図にでもしたかのように残りのブラックウルフも空を見上げる。

なんかあるのかと思って俺も見てみるが綺麗な丸い月と大地に両足を着けて燦然と輝く俺とは逆に夜空を輝かせる星々しかない。……やば、俺今めっちゃ恥ずかしい。学校の先生に向かってお母さんと呼びかけてしまったくらい恥ずかしい。つかよく考えたら俺の足は現在地面についてねえし。恥ずかしさ倍増でやんす。


「あおおおおおん」


ブラックウルフよ、顔から火を噴きそうなくらい恥ずかしすぎて逆に泣けない俺の代わりに鳴いてくれているのかい?

いや、違うよな。ん? とゆーかブラックウルフが鳴いてるだと?


「やばっ」

「うん?どうしたの?」


 焦った声音で発した俺の言葉が聞こえたのか筋肉さんが問いかけてくる。


「あいつら、仲間を呼びやがった」


 こりゃ大変面倒なことになった。


「雑魚がいくら来ようとも私の敵じゃないわ」


 そりゃそうだろうけども、ブラックウルフが仲間を呼ぶと確実にあれがくるんだよな。

 そう思っていると四方八方から何かが近付いてくる気配を感じる。二、三匹とかならまだマシなのだが……


「何頭いるのよ……」


 筋肉さんも若干の冷や汗をかいているようだが、あえて言おう。


「百匹以上だな」


 しかも、それだけではない。


「気をつけろ。群れのリーダーとしてシルバーウルフがいる」


 未だ姿を補足できないが確実にいる。ブラックウルフなどのウルフ系危険種の上位種である第二級危険種シルバーウルフが。

 

 シルバーウルフ

 群れを成すウルフ系の危険種の中でもその性質は少し違う。奴らも群れを成すが、なぜか必ず自分よりも下位のウルフ達の群れのリーダーとなる。さしずめ近所の子供達グループの仲間に入ってお山の大将を気取る大人といった感じだ。こいつらの厄介なのはここだ。だってそうだろ? 雑魚狩りに来たのにその中で明らかにレベルの違う個体がいたらそりゃビックリしますわ。

 危険種を分けるのは文字通りの危険度なのだが、級が上がるたびに危険度は桁が変わると思っていい。

 ブラックウルフとは違ってシルバーウルフは個体の危険度で第二級を冠している。つまり、シルバーウルフ一頭でブラックウルフの百倍危険というわけだ。


「あらん? 心配してくれるの?」

「正直、自分の心配とあんたの心配の比率は九対一くらいだけど、心配してないわけじゃない」

「なら、頑張りましょうか」


 筋肉さんは微笑み、ブラックウルフの群れと対峙した。




「ダメ、マジできついわ」


 戦い始めて十分くらいだろうか、いくら倒そうとも途切れないブラックウルフの群れの前に筋肉さんが弱音を吐いた。とは言っても筋肉さんの周りには夥しい数のブラックウルフの死体がある。よう頑張ったと褒めてやりたい。

 しかし、残念ながらシルバーウルフの姿を捕らえることは未だに出来ない。

 正直ここまで見つからないといないじゃないかと思いそうだが、得物が完全に弱るまで決して姿を見せない厭らしい戦法がシルバーウルフの十八番なので、確実にいるね。

 だが、そろそろ筋肉さんも限界だ。なにせ魔法の効果はもう切れている。さっきまではブラックウルフを一撃で殺していたのに、今では最低三撃を必要としている状態だ。

 そして、なにを隠そう俺のほうも限界だ。


「腕攣りそう……」


 何せその間ずっと木の枝にぶら下がっている状態だからね。もう腕プルプルしちゃってるから。いや、実際そんな生易しいものじゃない。これはもはやブルブルと言っていいレベルだ。

 

 結局、俺の行き着く運命は落下しかなかった。


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