LAST FRONTIER:最後の連合軍
LAST FRONTIER― 最後の連合軍 ―
序章 空が割れた日
2039年7月14日。その日、世界中の人々は同じものを見た。空だった。昼間の青空に、巨大な黒い線が走った。
最初、人々はそれを飛行機雲だと思った。
しかし、違った。
線はゆっくりと広がり、やがて巨大な円形の裂け目へと変わっていった。
東京・ニューヨーク・ロンドン・パリ・北京・モスクワ・シドニー
世界中の都市で、同じ現象が起きていた。
そして裂け目の向こうから――
巨大な宇宙船が現れた。
誰も、それが何なのか知らなかった。
その一瞬の出来事により通信は混乱した。
政府は声明を発表し、軍隊は警戒態勢に入った。最初の数時間、人類はまだ楽観的だった。
「未知の生命体が来たとしても、人類には軍隊がある。」
「戦闘機がある。」
「艦隊がある。」
「ミサイルがある。」
「核兵器すらある。」
しかし、その考えが間違いだったことを知るまでに、そう時間はかからなかった。
⸻
第一章 七日間
最初の攻撃は、予告もなく始まった。
都市の上空に浮かんでいた宇宙船から、光の柱が降り注いだ。ただそれだけだった。爆発音すら聞こえないだが、光が消えた場所から、すべての電子機器が沈黙していった。
レーダー・通信・衛星・航空管制・そして軍用ネットワークさえも。そして、都市そのものも沈黙し始めていた。
世界各地で同様のこと起こった。もちろん軍は反撃した。
戦闘機が飛び立ち、艦艇が出港し、地上部隊が展開した。しかし、宇宙人改めその後に人類が「ヴァルグ」と呼ぶことになる存在の技術は、人類の想像を遥かに超えていた。
艦艇が撃ったミサイルは空中で停止し、戦闘機は突然、通信を失った。
戦車の電子装置は次々と機能を停止した。
そして何より恐ろしかったのは、ヴァルグが人類の兵器を研究し始めたことだった。
それから一週間
たった七日間で、世界の軍事バランスは崩壊してしまった。
二週間目
主要な軍事基地の多くが失われた。
そして一か月後
国家同士の連絡すら困難になってしまった。
三か月後。
人類はようやく理解した。
「これは侵略ではない。狩りなのだ。」と
⸻
第二章 残った者たち
日本、山間部に作られた臨時の地下司令施設。
そこに、一人の男が座っていた。日本の自衛隊員、神谷蓮。かつては普通の隊員だった。
しかし、今では違う。彼の所属していた部隊は、もう存在すらしていない。
仲間の多くはいない、残ったのは、わずかな人数だけだった。
神谷は薄暗い司令室の壁を見つめていた。そこには世界地図が表示されている。
赤い点は、人類がまだ保持している地域。以前は地図いっぱいに存在していた。
だが今は――
ほとんどない。
「神谷。」
後ろから声がした。神谷が振り返る。
それは上官だった。
「国際通信が復旧した。」
「どこからですか?」
「イギリスだ。」
神谷は立ち上がった。
「生きているんですか?」
「ああ。」
上官は短く答えた。
「そして、アメリカ、フランス、ドイツ、韓国、ポーランド、オーストラリア……その他いくつかの国からも応答があった。」
神谷は地図を見る。世界中に、小さな光が点灯していく。
それは軍隊ではなかった。もう「軍」と呼べるほどの規模ではない。
生き残った兵士、壊れた車両、残った弾薬、使える通信機。
そして――
わずかな希望。
「各国が共同作戦を提案している。」
「共同作戦?」
「ああ。」
上官は一枚の資料を机に置いた。そこには英語で、こう書かれていた。
GLOBAL ALLIED FORCE
世界統合連合軍。
略称―GAF
「国籍を問わず、生存している軍人を一つの指揮系統にまとめる。」
神谷は資料を読む。
「そんなこと……できるんですか?」
「分からん。」
上官は笑った。
「だが、もう他に方法がない。」
⸻
第三章 GAF
三週間後
ヨーロッパの地下に作られた巨大な共同司令部。そこに、世界各国から集まった兵士たちがいた。
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、韓国、オーストラリアそして日本。
その他、国名を挙げればきりがない。だが、彼らの姿は統一されていなかった。
軍服も違えば装備も違う。言語も違う。軍事文化も違う。食事すらも違った。
最初の会議は散々だった。
「その作戦では危険すぎる。」
「我々の部隊では不可能だ。」
「通信方式を統一しろ。」
「その車両は我々の装備と互換性がない。」
怒号が飛び交う。神谷は部屋の隅に座り、それを眺めていた。
隣に座っていたアメリカ軍の兵士が言った。
「最初から仲良くできると思うか?」
「無理でしょうね。」
「だよな。」
男は苦笑した。
男の名前はマイケル・カーター。アメリカ軍の通信・電子戦担当だった。
「でもさ。」
マイケルは世界地図を指差した。
「俺たちが喧嘩してる間にも、あいつらは来る。」
神谷は何も言わなかった。その時だった。
部屋の照明が消えた、全員が静かになる。
大型スクリーンにはある映像が映し出された。そこには一人の女性が映っていた。
彼女はGAFの最高司令官、エレナ・ヴァイス。
「諸君。」
彼女は言った。
「我々には、もう国家間の争いを続ける余裕はない。」
スクリーンに地球の映像が映る。
「ここにいる者たちは、アメリカ人でも、日本人でも、フランス人でもない。」
「今日から我々は、地球人だ。」
部屋が静まり返る。
「我々の目的は一つ。」
画面が切り替わった。巨大な宇宙船だった。
「ヴァルグの中継施設を破壊する。」
⸻
第四章 希望
ヴァルグには、一つの弱点があった。地球上で活動する巨大な宇宙船群は、常に巨大な中継施設と接続されていた。
それがなければ、地球上のヴァルグ部隊は本来の能力を発揮できない。
つまり、
中継施設を破壊できれば、人類には反撃の可能性が生まれる。
しかし問題があった。施設は、かつての中央アジアに存在していた。
周囲数百キロはヴァルグの支配地域。しかも、その周辺には大量の敵部隊が展開している。GAFが保有する戦力では、正面突破は不可能。
そこで立てられたのが――
「LAST FRONTIER」だった。
数千人の兵士。
残された装甲車両。
少数の航空機。
そして各国から集められた特殊部隊。
目的はたった一つ、施設へ到達し破壊すること。
そして
生きて帰ること。
⸻
第五章 第7統合小隊
作戦開始の前夜、神谷は基地の外に出ていた。
夜空を見上げると星が見えた。
その向こうに、ヴァルグの宇宙船が浮かんでいるのが見えた。
「眠れないのか?」
声がした。マイケルだった。
「あなたも?」
「俺は昔から寝付きが悪い。」
マイケルは隣に座った。しばらく二人は空を見ていた。
「なあ、神谷。」
「何です?」
「もし終わったら、何する?」
神谷は考えた。
「……分かりません。」
「俺は故郷に帰る。」
「帰れるといいですね。」
「ああ。」
マイケルは笑ったあとに言った。
「絶対帰る。」
その言葉を聞いた神谷も、少しだけ笑った。
翌朝、第7統合小隊が編成された。
隊長はイギリス軍のジェームズ・ハーパー。
副隊長はフランス軍のルカ・ベルナール。
通信担当はマイケル。
日本から神谷。
ドイツからクラウス。
韓国からミンジュ。
オーストラリアからジャック。
ポーランドからアダム。
国籍も年齢も違う、だがそれでも全員、同じ腕章を付けていた。
そこには一つの文字。「EARTH」だった。
⸻
第六章 進軍
午前五時、GAFの大規模作戦が始まった。遠くで航空機が飛び立つち、地上部隊が前進する。
無数の車両が荒れ果てた道路を進む。空には巨大なヴァルグの艦船。
「全隊、前進!」
無線から声が響く。第7統合小隊も進んだ。
最初の戦闘は突然だった。遠方からヴァルグの部隊が現れる。
「接敵!」
兵士たちが散開する。各国の部隊が、それぞれの装備で応戦する。
アメリカ兵が重火器を展開、フランス兵が工兵装備を準備、ドイツ兵が装甲車両を前進させる、日本の隊員たちは通信網を維持する、韓国の電子戦班が敵の通信を妨害する、ポーランドの兵士たちが側面を守る、オーストラリアの偵察班が敵の動きを報告する。
初めてだった。世界中の軍隊が――
一つの軍隊として動いている。
「右側から来る!」
神谷が叫ぶ。
「了解!」
マイケルが返す
その後敵部隊は後退した。兵士たちから歓声が上がった。
だが、ハーパー隊長は笑わなかった。
「まだ始まったばかりだ。」
彼は遠くを、地平線の向こうを見た。巨大な宇宙船が浮かんでいる。
「本当の戦いは、これからだ。」
⸻
第七章 砂漠の街
二日目、部隊はかつて都市だった場所に到達した。
建物は崩れ、道路には放棄された車両が並んでいる。
風が吹きつける。誰も一言も話さない。
「ここ……人が住んでいたんだよな。」
ジャックがそう呟いた
「そうだ。」
神谷が答える
「俺たちが守れなかった場所だ。」
その時、ミンジュが言った
「違う。」
全員がミンジュのほうを向いた
「まだ守れる。」
彼女は地平線を見る。
「全部は無理でも、残ったものは守れる。」
誰も返事をしなかった。しかし、その言葉は全員の心に残った。
⸻
第八章 裏切り
三日目、GAF司令部から緊急通信が入った。
「敵の主力がこちらへ向かっている。」
「規模は?」
「不明だ。」
「航空支援は?」
だれも答えなかった。そして通信士が答えた。
「……来ません。」
ハーパーが声を荒げる
「どういう意味だ?」
「GAFの航空部隊が壊滅しました。」
部屋の空気が凍った。後方が崩壊したのだ。つまり、もう撤退路はない。
「司令部へ。」
ハーパーが言った。
「我々は作戦を続行する。」
「隊長、本気ですか?」
「本気だ。」
彼は地図を見た。
「ここまで来て引き返したら、すべてが無駄になる。」
神谷は理解した。これはもう軍事作戦ではない。
人類が最後に賭ける一回きりの勝負なのだと
⸻
第九章 最後の防衛線
施設まで残り30キロ。
しかし、そこには巨大なヴァルグ軍が待っていた。
GAFは立ち止まった。
ハーパーが全隊に通信する。
「ここから先は、我々が道を作る。」
各国部隊が配置につく。
アメリカ、日本、フランス、ドイツ、イギリス、韓国、ポーランド、オーストラリア。
そして数え切れないほどの国々、誰も自分の国旗を掲げなかった。
掲げられていたのは青い地球のマークだけだった。
「GAF全隊へつぐ」
「進め!」
大地が震えた。ついに戦いが始まった
⸻
第十章 地球人
第7統合小隊は施設へ向かった。GAFは敵の防衛線を突破したのだ。
通信が途切れ、車両が止まる。
しかし、一人が倒れれば別の誰かがその役割を引き継いだ。
「通信復旧!」
マイケルが叫ぶ。
「あと少し!」
「工兵、準備完了!」
ルカが叫ぶ。
「施設の入口を確保した!」
クラウスが報告する。
神谷は前方を見る。巨大な建造物、それこそが中継施設だった。
「行くぞ!」
全員が走ろうとしたその瞬間、空が暗くなった。
巨大なヴァルグ艦が頭上に現れたのだ。
「まずい!」
マイケルが叫ぶ。
光が集まり始めるが、誰も動けない。
その時だった。
遥か遠くから一機の戦闘機が飛んできた。旧式の機体。
翼には日本の国籍マーク。
戦闘機はヴァルグ艦へ突入するのではなく、その進路を変えさせるために飛び込んだ。
「誰だ……?」
神谷が呟く。
無線から声が入った。
「GAF航空隊より。」
一人のパイロットだった。
「地上部隊、幸運を。」
通信が切れる、神谷は拳を握った。
「行くぞ!」
⸻
第十一章 LAST FRONTIER
施設内部、赤い警告灯が点滅している。
「あと五分!」
ルカが叫ぶ。
「三分!」
マイケルが答える。
外ではまだ戦闘が続いている。GAFの兵士たちは、一歩も退かなかった。
神谷は最後の装置を見つめる。
「これを止めればいい」
世界中のヴァルグ艦隊に影響が出る。しかし同時に、施設内にいる彼らも危険になる。
「全員、退避!」
ハーパーが叫ぶ。
だが、装置が動かない。
「まだだ!」
マイケルが言う
「手動で起動する必要がある」
「誰がやるんだ」
その言葉に部隊は沈黙した
神谷が前に出た
「俺がやります。」
「神谷!」
マイケルが叫ぶ。
「大丈夫。」
神谷は笑った。
「帰るって言っただろ。」
「だったら一緒に帰るぞ!」
マイケルが駆け寄る。
二人で装置を操作する。
画面に文字が表示された。
「SYSTEM ONLINE」
そして
LINK ESTABLISHED
世界中のヴァルグ艦隊が、一斉に停止した。空に浮かぶ巨大な宇宙船が動きを止める。
GAFの兵士たちが空を見上げる。だが、誰も声を出さなかった。
やがて最初の宇宙船が落下する。
一隻、まだ一隻と
そして世界中で、ヴァルグ艦隊が次々と沈黙していった。
⸻
最終章 明日
戦争が終わったわけではなかった。ヴァルグはまだ残っている。人類も大きな犠牲を払った。
都市は壊れ、国家も壊れ、軍隊も壊れた。
だが、
人類は生き残った
数週間後、かつての基地跡にGAFの兵士たちが集まっていたそこには国旗が並んでいる。
日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、ポーランド、オーストラリア。そして、その他多くの国々。
神谷はその光景を見ているとマイケルが隣に立った。
「なあ。」
「何です?」
「結局、帰れなかったな。」
神谷は笑った。
「そうですね。」
二人は壊れた世界を見る。でも、その先には小さな光があった。
街を再建する人々。
新しい学校を作る人々。
壊れた道路を直す人々。
そして、まだ軍服を着ている兵士たち。彼らはもう、かつての軍隊ではない。国境を守るだけの軍隊でもない。
地球を守るための軍隊だった。GAFの旗が風になびく。
その中央には青い地球。
その下には、一つの言葉が刻まれていた。
「ONE PLANET.」
「ONE PEOPLE.」
「ONE FUTURE.」
神谷は空を見上げた。そこには、久しぶりに雲のない青空が広がっていた。
「帰りましょう。」
マイケルが言った。
「どこへ?」
神谷は少し考えてから答えた。
「俺たちの家へ。」
二人は歩き出した。まだ戦争は終わっていない。
世界も元には戻らない。それでも、人類には明日がある。そしていつの日か、子どもたちがこの時代を振り返る日が来る。
その時、彼らはきっとこう言うだろう。
あの日、世界中の軍隊は一度壊れた。だがその時、今まで争っていた人類は一つになった。
そして
最後の防衛線を越えたのは、国ではなかった。
人類だったのだ
――LAST FRONTIER END




