愛犬と夏
思い切り指をたてて耳の後ろをかいてやると、気持ちいいらしくどんどん頭がかたむいてきた。
最終的に私の左手に頭を乗せるような形ででろりと転がってしまった駄犬に笑って、「暑苦しいぞ、この毛玉め」とさらにわしゃわしゃしてやる。
夏の夜のにおいがする。リリリと夜の虫が鳴きはじめる。
網戸にくっつくように二人たたみに寝そべって、あついあついとくっつきあうのは、バカみたいでちょっと楽しい。
ガリガリガリと深い毛皮を思い切りかきむしってやると、コタはうっとりした顔をする。昔近所の男の子が、「うちの犬は嬉しすぎるとションベンもらすんだよ」と言っていたのを思い出した。つまりそれほどでろでろにとけきった可愛い阿呆面だったってことだ。
毛がわさわさ抜けるのに暑苦しさが増して、このとろけた顔を離すのはちょっともったいないな、とか思いながら起き上る。シャツが汗ではりついて気持ち悪い。が、それよりもまずはこの毛をゴミ袋に入れないといけないだろう。
「綿代わりにしてぬいぐるみでも作ってやろうか」
ムツゴロウさんみたいな声色で罵倒して、ぐりぐりと眉間を押して離す。
とたんに、交代! とばかりに大きいバカ犬は勢いよく私の顔を舐めてきた。
「あつ、コタ、暑苦しい!」
分厚い舌に唾液まみれにされて、汗とまじりあって不快指数が増す。
べろべろ喉元を執拗に舐めるくせは、もしかして顔中見境なく舐めまわすのを嫌がった私のせいだろうか。顔に近いから首から胸、脇って、そのチョイスもなんとなく問題がある気がするが。特に脇はくすぐったくてダメだ。
「あーあ。風呂入りなおさなきゃ」
私の汗がそんなにうまいか。と言ってみると、勢いがよすぎる舌が口内に突っ込んできたので耳を引っ張ってやった。キャンと情けない声をあげたが、すぐにまたひっついてくる。実に暑苦しい。
「くそう。こうなったらお前の毛抜きまくって一回り小さくしてやるぞこのアホ犬め!」
「わふん」
よーしよしよしよしかわいいなーこのアホ!
犬撫で声をあげながら抱きつくと、コタは嬉しそうに腹を見せてひっくり返った。