表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

曲解

学食は、いつも通りうるさかった。

(いや、うるさいはずなんやけどな。)

なんか今日は違う。

隣でルミが麺すすっとる音だけが、やたらでかく聞こえる。

ズズッ、って。

(なんでそこだけ強調されんねん…。)

スマホをまた指でなぞる。

三回目か、四回目か。

新人賞の一次通過者一覧。

縦に長い名前の列。

(……無いな。)

最初から存在してなかったみたいに、陽子の名前はどこにも無かった。

「で?」

カン、ってレンゲの音。

ルミがこっち見てる。

「……落ちた。」

「そっか。」

それだけやった。

(軽っ…。)

うどん、もう完全に冷めてる。

湯気なんてとっくに消えてる。

「でさ、あのピアニストの話どうなったん?」

「……知らん。」

(ほんまに知らんのよ。)

怪我したピアニストが、絶望して、旅に出て、再生する話。

……のはずやった。

(ほんまにそれで良かったんかも分からんけど。)

書いたはずのその人間が、

なんか知らん間に、自分の手ぇ離れてどっか行ってもうた感じがする。

「てかさ、あんたの主人公」

(あ、来るなこれ。)

箸置いた。

「行儀良すぎん?」

「……は?」

「絶望してんのにさ、ちゃんと着替えて電車乗るやん。」

「いや…」

「あたしやったらピアノごと燃やすか、三日くらい風呂入らんでポテチ食いながら笑ってるわ。」

(極端すぎやろ…。)

ルミは頬杖ついた。

ラーメンまだ残ってる。

もうほぼ冷めてるけど。

「なんかさ、あんたの書く人間って」

「……」

「ミッキーマウスみたいやねん。」

「は?」

「縫い目キレイなとこしか見えへん。」

(は?いや、は?)

「人間ってさ、もっとぐちゃぐちゃやろ。」

「汗も涙も血も混ざってさ。」

(……終わったな。)

四百枚、燃えたわ。

音もせんと。

「なぁ五限サボらん?」

「……は?」

「カラオケ行こや。」

(今その流れでそれ言えるんや…。)

ルミはでっかいあくびした。

さっき自分が何言ったかとか、たぶん一ミリも覚えてへん。

そういうやつや。

ルミって、小説なんか一文字も読まへん。

それでも、たまにめっちゃヤバい事言う。

(なんなんやろな、あれ。)

こっちが必死に考えてること、平気で一瞬で飛び越えてくる。

違うレイヤーで生きてる感じ。

数日後、ファミレス。

「なぁルミ、小説書いてみん?」

「やだ。」

即答。

「文字書くのだるいし。」

(まあ、せやろな…。)

その笑い方、ちょっと好きやし、ちょっと嫌いや。

でも陽子は知ってる。

SNSに上げた短編。

ちょっとバズったやつ。

あのラストの一文。

(あれ、ルミの言葉やねんな。)

酔っ払って適当に言ったやつ。

そのまま使った。

数千いいね。

(……なんやこれ。)

優越感と罪悪感。

どっちも同じくらいの重さで、胃のあたりに沈んでる。

混ざらんまま。

ルミは横でゲームしてる。

何千人の心動かした言葉の持ち主。

本人は一切知らん。

たぶん知っても興味ない。

ルミにとって言葉って、呼吸みたいなもんや。

出てきて、消えるだけ。

陽子にとっては違う。

血絞るみたいにしてやっと出すもんや。

書いて、消して、疑って。

それでも評価はまあまあ。

(なぁルミ。)

(この感じ、分かる?)

分かられたくない気もする。

こんな醜いもん。

でもこれがあるから書いてる。

冬前。

締切三日前。

クライマックス書けへん。

主人公が泣けへん。

どうしても泣けへん。

深夜二時。

ルミに電話。

「……何時やと思ってんの。」

全部話した。

泣けへんって。

「ふーん。」

少し間。

「なぁあんたさ」

息止めた。

「悲しみってさ、綺麗なもんやと思ってそうやけど」

「ほんまの悲しみって、生ゴミみたいな臭いせえへん?」

「分別できへんし、腐るし、捨てようとしたら汁垂れてくるやつ。」

「そんなんが腹ん中残るんやろ。」

「それ隠すために、綺麗な言葉で覆うんちゃう?」

(……えぐ。)

「ほんまに悲しい時ってさ、泣く余裕ないねん。」

「臭いまま抱えるしかない。」

「もういい?寝るで。」

ブツッ。

震えてた。

嫉妬とかどうでもよかった。

届かへん。

何十時間考えても行けへんとこ、数秒で触る。

キーボード叩いた。

逃したらあかん。

春。

一次通過。

ルミに伝えた。

「おめでとー。」

でもなんか薄い。

違和感。

「就活どうなん?」

「まあ、やるしかないやん。」

(……は?)

ルミがそんな事言う?

秋。

ルミ、変わってた。

「やりがいはあるかな。」

(誰やねんそれ。)

「がんばれ。」

グッジョブ。

(あかん。)

完全に変わってる。

めまいした。

ルミが遠い。

「ごめん、帰るわ。」

授賞式。

ルミ呼ばへんかった。

帰宅。

トロフィー置く。

重い。

ルミは変わったんちゃう。

削れたんや。

丸くなった。

傷つけへん言葉。

昔の言葉は違った。

ガラス割るやつやった。

盗むたびの罪悪感。

それも消えた。

私は小説家にはなれない。

インターホン。

ルミ。

傘。

来た。

分かる。

戻る。

トロフィー持つ。

窓開ける。

雨。

投げた。

音は消えた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ