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34. 火山島の休息(R15水着回、わたしと川内型、オライオン)

......まあ、あの海岸の砂地をうづめてしまうほど一ぱいにひらいたビーチ・パラソルはどうでせう!紅いのや緑のやだんだらじまや、それからぼつぼつと白いまだらのはいったのや、うづまきのやうなのなど、どれもこれもそばへ行ってみれば美しいパラソルばかりですが......

森田たま「海水浴をしたビーチ・パラソル」『鉛の兵隊 : 童話集』昭和14年。

異界と人間界の航路を脅かすモササウルスの群れを討伐した我が艦隊。


戦いで消耗したエネルギーを補給するために今はここ双子の火山島に停泊している…


「ふああ~っ」

わたしは大きなあくびをしたが、あわてて噛み殺した。周りには戦艦たちがいる。ここは半分公式の場なのだ。


海岸から洋上を見ると闇の色に微妙な変化がある。今は夜と暁の境目の時間。巡洋艦や駆逐艦たちは山の中腹に張ったテントで休んでいる。後30分もすれば総員起コシの時間だ。


眠気を我慢できないのも仕方ないと自分で自分に言い訳していると、扶桑が熱いお茶の入った湯飲みを差し出してくれた。


お茶をすすりながらイギリス艦バーラムを見る。彼女はみんなから離れた場所に一人で立っている。これから彼女は魔法を使って火山島の地形を変えるというのだ。


これから魔法の儀式を行うためなのか髪をバッサリ切って短髪にしたバーラム。シルバーヘアが魔女然とした趣きを漂わせている。


彼女は呪文の詠唱をはじめた。


「Anál nathrach, orth’ bháis's bethad, do chél dénmha...Anál nathrach, orth’ bháis's bethad, do chél dénmha...Anál nathrach, orth’ bháis's bethad, do chél dénmha!!」」


わたしには意味のわからない言葉だ。何となくジョン・ブアマン監督『エクスカリバー』に出てくる魔術師マーリンに似ているなと思っていると


周囲にもうもうと煙がたちはじめ、地面がグラグラと揺れはじめる。わたしは立っていられなくなり、隣にいた扶桑にしがみつく。彼女はやはり戦艦、この地震にも微動だにしない。



かくして揺れが激しくなりわたしの意識が飛んだ時…


気がつくと目の前には広大な砂浜が広がっていた。さっきまでは熔岩の岩石流が海になだれ込んだような地形で足を踏み入れることもできなかったのに。


バーラムが私たちのところへ戻ってくる。やや誇らしげな顔で

「これが創生の蛇の魔法。立派なビーチができたでしょう。これで艦がマグマからエネルギーを吸収している間、わたしたちの人間体はここでリゾートを楽しめるわ」


気がつくといつの間にか朝日が昇っている。山の中腹のキャンプを見ると大勢の巡洋艦や駆逐艦がこちらを見ている。


わたしは改めて彼女たちの神話の力に感心して

「いや、やっぱり君たちの持つ力はすごいものだ」


バーラムは当たり前のことをと言わんばかりにフフンと鼻を鳴らす。わたしはさらに聞いた。


「…でも、それをどうしてこの前の戦いで使わなかったの?」


するとバーラムは一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐにハ!と息を吐いて

「魔法というものはみだりに使うものではないのよ、アドミラル」


こんな大魔法を戦いの時には使わずにリゾートのため?わたしの頭の中にご都合主義という言葉が一瞬浮かんだ。


バーラムはそんなわたしの考えを読んだのか、うっすら笑みを浮かべると

「魔法を機械的に働かせようとすると創造力の動きが止まるわ。するとその反動で魔力がより過激になって暴走するの。多少のご都合主義は必要悪よ、アドミラル」


ただの言い訳にしてはなかなか説得力のある説明だ。確かホイジンガだったかな....中世ヨーロッパでは、神学者が天上界の体系を精緻にしすぎて一般人に伝わらなくなったため、説教師が地獄のイメージをより過激に描くようになったというのは...いやアナロジーとしては適切でないかも知れないが。


わたしが自分の考えにふけっていると、金剛が空気を読んだかのようにその場を締めた。

「これで浜開きじゃな。わしらも人間どもが行う海水浴を楽しもうぞ」


挿絵(By みてみん)

バーラム




朝食の後、ビーチに出ると既にみなはそれぞれのリゾートを楽しんでいた。


海辺ではしゃぐ者、ビーチバレーを楽しむ者、まるで現在の湘南を見ているようだ。そういえば日本では海水浴は明治に既に行われていた。最初は健康法だったが昭和の始め頃はレジャーになったのだったか…


砂浜を見回っていると川内、神通、那珂の三姉妹が揃ってパラソルの下に座っていた。


川内型軽巡の三姉妹は先のモササウルスとの戦いでも水雷戦隊の中心として活躍している。彼女らをねぎらおうと、わたしは三人のところへ向かって行った


「あ、提督ー。こっちへおいでよー」

手を頭上で振ってわたしを呼ぶのは末妹の那珂。


神通はわたしを見るとさっと立ちあがって45度の礼をする。


神通と同時に川内も立ち上がる。川内は座っている那珂も立たせると、彼女の後頭部を押さえて自分と一緒にお辞儀をさせる。


川内はその後でニッコリ笑って

「これからは仕事の話はナシよ、提督」


いい笑顔だった。わたしは先の戦いのねぎらいの言葉をかけるのを止めた。


「そうしようか。しばらく君たちと一緒にのんびり休むことにしよう、いいかな?」


神通が空間を作ってくれたのでわたしは彼女たちのパラソルの下の茣蓙に座らせてもらう。


改めて彼女たち三姉妹を眺める。


川内は大胆なビキニ型の水着、神通は肌の露出を少なくしたワンピース、那珂は活動的なスポーティータイプ。三姉妹それぞれ異なるものだ。


「提督、わたしたちのことがそんなに気になっちゃう?」


那珂は無邪気にそういうと立ち上がって挑発的なポーズを取る。神通が慌てて彼女を座らせた。


「令和の水着は大胆でちょっと恥ずかしいけどね、どう?似合う?」


と、川内。彼女は断髪を手ですいて整えている。ビキニの下が気になるのか、座ったまま指でつまんで直した。そのままお尻をちょっと掻いたが、わたしは見ないフリをする。


「ああ、よく似合うよ」


「提督にそう言ってもらえると嬉しいわね。昔は軍艦だったけど今は女だもんね」


川内はふたたびニコッと笑うとわたしにカルピスを差し出してくれた。


火山島の暑さにカルピスの冷たさは心地好かった。



周りを見ると駆逐艦たちが海水で水掛け遊びをしている。わたしはふと気になって彼女たちに尋ねた。


「君たちは海に入らないの?」


神通は微笑を浮かべながら

「はい、わたしたちは戦隊旗艦ですから」


すると今までビーチバレーをやっていた駆逐艦たちが大きな声で

「すみませーん!これから泳ぎに行っていいですかー?」


「ブイの外に行ったらダメだからねー!!」

と那珂。


なるほど引率の先生みたいだな。そう思って川内に話しかける


「休みといっても大変だね、ご苦労様」


川内は海に入って行った駆逐艦たちを見守りながら

「まあね。でもこれが役目だからね」

さすが、自分たちの仕事に誇りを持っているのだなあと感心していると…


「あ、あ、あ! かゆい!」

川内はいきなり表情を変えると背中をボリボリと書き始めた。


「どうしたんだ!川内!」

わたしは慌てて尋ねる。


神通と那珂はこちらを振り向くと

「川内姉さん、また例の病気が!」

「川内ちゃん!出航前に全部取っておかなかったの!?」


妹たちの声に川内は

「演習演習でそんな時間が…痒い!」


状況を把握しようとしているわたしに神通は

「船底についたフジツボなんです。川内姉さんも何回か除去しているのですが、全部は取りきれずに…」


フジツボは船の天敵だ。これは明石を呼んだほうが良いかも知れない。しかし彼女は昨日一日中駆逐艦たちの点検をやっていたはずだが


「て…提督、大丈夫、明石に面倒かけなくてもいいから!これぐらいのフジツボ、気合いではね飛ばすわよ!」


「川内ちゃん!また強がるんだから!」

「そうです!川内姉さん!帰りの航海も考えてください!」


妹たちが心配するなかで川内はますます激しく背中を掻く。もうこれは提督の権限で明石を連れてこようとわたしが決めた時


「あ、いたいた!川内さん、やっぱり調子悪そうよ、雪風」

背後からジャーヴィスの声が聞こえる。

「川内さん!大丈夫ですか?」

今度は雪風。


わたしは後ろを振り向いて二人に言う。

「大変なんだ。船底にフジツボがついて川内が苦しんでいる。早く明石を呼んでこないと」


ところが首を横にふる雪風

「んー…全部取り除くためには、前線の基地ではなくて鎮守府のドックに入渠する必要があります」


ジャーヴィスも

「あいつら取り除いても取り除いても残ってる場合があるからね。厄介だわ」


わたしは背中をかきむしる川内を見ながら

「じゃあどうすれば!!」


雪風はカバンの中をゴソゴソと探ると

「金剛さんからこれを預かってきました。司令が直接川内さんに塗ってあげてください」


雪風から渡されたのは缶に入った塗り薬。表面には

「名薬クリーム剤無比 心配御無用」

と、金剛の筆跡で目立つ場所に書かれてあった。



挿絵(By みてみん)

川内


挿絵(By みてみん)

神通


挿絵(By みてみん)

那珂


わたしは川内を抱き抱えて木陰に連れていく。


雪風と一緒に川内を木陰に座らせると、ジャーヴィスがパラソルを横にして幕のように置いた。


神通と那珂は心配してついてきたが、幕の前に陣取ったジャーヴィスに押し止められる。まるで「ご家族は手術室の前でお待ち下さい」という看護士みたいだ。


「仕方ありません。那珂ちゃん、わたしたちは提督を信じて外で待っていましょう」


「うん…阿武隈ちゃんがここに来るまで、何かあった時は川内型姉妹に連絡が来るもんね」


神通と那珂はそう話すとそのまま自分たちがいた場所に戻って行った。


木陰に座り込んだビキニ姿の川内、投げ出した太ももが目に入ったので慌てて目を反らす。


わたしは彼女に聞いた。

「川内、痒みはどう?」


「今はおさまっているわ。でもまたぶり返すと思う」


治療するなら今のうちか。でも、これからどうしよう。


雪風を見る。彼女はわたしの視線を受けると「名薬クリーム剤無比」の缶に入っていた紙片を取り出した。


「んー....金剛さんが薬の使用法を書いてくれたんですけど…川内さんうつ伏せになって下さい」


川内はそのままゴザにうつ伏せになる。


わたしは思った。いかにも軽巡らしいスマートな船体だ。


川内はわたしの視線に気づいたのか

「どう?川内型の船体は。こんなこと言ったら怒られるけど、大和型の大型寸胴シップラインよりもずっと…」


「い…今はそんな事を言っている場合じゃないだろう!」


本心を見透かされたのをごまかすかのように強い口調になってしまった。川内がペロッと下を出すのが見えたような気がした。


雪風は使用法が記されている説明書を何度か読み返すとやがて意を決したように


うつ伏せになっている川内のビキニの結び目を解くと、さっと幸運艦の早技で外した。


驚く川内。


「きゃあっ!雪風!何すんのよ!これじゃあ立ち上がれないでしょ!」


「すみません、川内さん!金剛さんの指示なんですっ!」


旗艦金剛の指示と聞いて不承不承従う川内。

雪風はさらに言葉を続ける。


「さあ司令、このクリーム剤無比を川内さんの後甲板に塗ってください」


わたしが直接?さすがにためらったが金剛の指示だ。ちゃんとした理由があるのだろう。


わたしはうつ伏せになった川内に股がって、人間で言えば背中にあたる後甲板に無比剤を塗り始めた。


痒みがぶり返したのか顔をしかめていた川内、でも塗っているうちに和らいだ表情になってきた。


「うーん…そこ、そこ、もっと薬をすりこんでェ…」


「こんな感じかい?」


「ああ…気持ちいい…痒みが取れてきたわァ…」


川内の具合はかなり良くなってきたようだ。わたしはさらにクリーム剤を後甲板に広げて塗り込む。それにつれて川内の表情は紅潮したものになった。


すると雪風が説明書を読み上げる。

「んー……フジツボの付着するは後甲板のみにあらず。艦尾にも無比剤を塗り込むべし」


わたしはビキニのパンツを下ろす。すると川内は紅潮した顔をさらに紅潮させて


「イヤッ!何すんのよ!提督の助平!」


「今はそんな事言っている場合じゃない!」


また雪風が読み上げる。


「んー……予想される抵抗は大なり。然れども治療の完遂を目的とするならば、誠に遺憾なれども実力で排除するはやむを得ざるところなり」


川内は嫌がって艦尾を左右に激しく動かす。その力がわたしの手に伝わってきたが、それでも薬を塗り込んでいく。力余って指がスクリュー口に入ってしまい、川内がヒイッと声を上げる。


またまた雪風が説明書を読み上げる。

「んー……フジツボは船体に広く付着している可能性大なり。前甲板にも無比剤を塗り込むべし。誠に遺憾なれども被治療者の羞恥は考慮より除外するべし」


わたしは川内を立たせると後ろから手を回して前部甲板に無比剤を塗った。手のひらを広げて余すところなく塗り回す。


「アアーッ、ダ、ダメ!後ろからなんて恥ずかしいイヤッ」


川内は抵抗して身体を離そうとする。わたしは離すまいとする。二人の組みつ解れつする姿がパラソルの幕に映った


さらに雪風は説明書を読み上げる。

「……前甲板のみでは不足なり。主砲にも塗り込むべし」


わたしは川内の主砲を手のひらで包む。いかにも軽巡らしい、大き過ぎず小さ過ぎずの程よい主砲。ゆっくりと優しく無比剤を塗り込んでいく。


動きを止め、はぁふと甘い息を漏らす川内。


「……血流を促して薬効を高めるためには適度に刺激を与えるも可なり」


砲口を何度も指で摘まんでコリッコリッと軽くねじる。川内はそのたびにアン…アン…と声を漏らし、ビクンビクンと身体を震わせる。


うっとりとした表情の川内は急に我に返ると、顔を真っ赤にしながら懇願する。


「ダメ、ダメ、ダメよ提督…こんな姿を妹たちや部下の駆逐艦に見られたら…堪忍してお願い!」


そんな川内に向かって雪風は


「大丈夫ですっ川内さん。ジャーヴィスが外で障壁を張っているので、この中は見えもしなければ音も漏れません」


「そんな事言ってもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのよォ~~」


雪風は説明書を読み上げる。


「……これより成否を分かつ切所に入ると心得るべし。治療を成功せんと欲するなら、提督は己が指揮する艦を扱うこと、たとえるならば初夜の新妻の如くせずんばあらざるなり」


わたしは治療を中断して後ろから川内を優しく抱き締める。そして耳元に口をつけて囁いた。


「川内、キミに恥ずかしい思いをさせてすまない。でもここで治療を中途半端に終わらせるわけには行かないんだ。またフジツボが再発したら神通や那珂に心配をかけるよ」


妹たちのことを思い出したのか川内の表情は変わった。


「そうね…神通や那珂、そして部下の駆逐艦に余計な気遣いをさせたら戦隊旗艦失格よね…」


「キミにひどいことはしない。提督のボクを信じてくれ」


川内の顔が振り向くと、わたしは彼女の頤を指で軽く引き寄せると優しく口づけした。


そのまま短くも長い時間が経った後、川内はわたしから唇を離した。


「ウン…提督…わたし、あなたを受け入れるから…」


茣蓙を敷くと、その上に川内を仰向けに寝かせた。


「じゃあ、スクリュー口の内部を治療しようか」


川内はわたしを見つめながらコクッと頷く。二人の両手が結ばれた。


わたしは霊具を取り出すとそれに無比剤を塗る。そしてゆっくりとスクリュー口に霊具を差し込んだ。


「アア……提督」


川内が切なげに声を上げる。そして……


「アアーッ❤️」


川内は歓喜の声を上げると。彼女の身体から五色の瑞光が輝いた。治療は成功だ。


治療疲れでぐったりとなった彼女を抱き締めながら横になる。


川内の髪を軽くいじると彼女はフフフっとわたしに笑いかけた。


……しばらく時間が経った後、いつの間にか幕の外に出ていた雪風がまた幕の中に入ってきた。ジャーヴィスも一緒だ。


「あの…すみません。これからイギリス艦隊がこの島に入港してくるので、投錨地の再配置をしなければならないと金剛さんが…」


わたしに抱かれていた川内が気だるげな声で

「イギリス艦ってどうせオリオンたちでしょ?あいつらなんて一晩くらい外洋で待たせたらいいのよ」


ジャーヴィスは手首を返して腕時計を見ると


「そういうわけにはいかないわよ、川内さん」


川内はジャーヴィスの言葉を無視すると、そのままわたしの頭に腕を回してしがみつく。そして自分から唇を合わせてきた。夢うつつからまだ戻らないようだ。


やれやれ…これは川内を目覚めさせなくては


わたしは川内と唇を重ねたまま、その艦尾を持ち上げる。そして向かい合わせに座ってもう一度霊具をスクリュー口に差し込んだ。


雪風とジャーヴィスが見ている前で、川内は再び歓喜の声を上げた。


ジャーヴィスが両手で自分の耳を押さえながら呟くのが聞こえた。


「わたし…フジツボのクリーンアップは絶対に手抜きしないようにするわ」


挿絵(By みてみん)

ジャーヴィス


挿絵(By みてみん)

雪風


挿絵(By みてみん)

川内「わたし、あなたを受け入れるから…」


ビーチから海を見るとイギリス艦隊が続々と入ってくる。


この異界と人間界との航路をモンスターから守るために外洋を哨戒していた艦が戻って来たのだ。


わたしは彼女たちを出迎えるために港に向かう。


入港のための作業が全て終わると遅い昼食の時間となる。ここはあくまでも臨時なので基地機能は充実していない。それぞれがビーチの各所にある食堂に分かれることになった。



わたしが入ったのは日本艦が法力で創造した海の家だ。「浪波楼食堂」という屋号が左書きで飾られている。


店に入ると軽巡川内型三姉妹、そして彼女たちの向かい側には…イギリスの軽巡オライオンが足を崩して座っていた。


武運赫々たる艦歴にも関わらず、その外見はふわふわの金髪、小柄な肢体と笑みを浮かべたいたずらっぽい妖精。ビーチにも関わらずイギリス軽巡伝統?のメイド姿をしている(ep. 25)


彼女は飲んでいたサイダーのストローから口を外すと


「あら、マイアドミラル♥️ お久しぶり♥️」


川内と那珂は露骨に嫌そうな顔をしている。神通は心配そうな表情をしている。そうだ、川内たちとオライオンはかなり仲が悪かったのだ。


川内はわたしに声をかける。

「ねえ提督、わたしの隣に座りなさいよ」


わたしはさっきのことがあるので川内の隣に座る。川内はわたしにもたれかかってオライオンを見る。その時の自信ありげな表情にオライオンの眉毛が一瞬反応した。


川内はわたしが自分の側に座ったので優位に立ったと確信したのか、さらにオライオンに攻めかかった。


「そもそもイギリス艦が何で日本艦の海の家に来るのよ。バーラムさんのレストハウスに行きなさいよ」



オライオンは平然と微笑みながら答えた。

「マイガールズ…ロイヤルネイビーの駆逐艦の娘たちはトマトニシンが大好きなの。哨戒任務が終わったご褒美に好きなだけ食べさせてあげるつもり♥️ あなたたちの言葉でいえばわたしはエンリョしたのよ」


すかさず川内が口を開く。

「はん!トマトニシンなんて腐るほどあるくせに!ケチで有名なバーラムさんのトマトニシンは本当に腐ってるけどね!アンタ逃げてきたんでしょ!?」


那珂も一緒になって

「そういえばジャーヴィスがこっちに来ようとしたけどさ。ジャベリンとジェーナスに無理やり連れていかれてたよ。オライオンさんがいないから代わりにトマトニシンを片付けてとかなんとか」


オライオンがうすら笑いを浮かべて口を開こうとした時、神通が慌てて

「さあ!さっき頼んだ食事が来ましたよ!かんとだきが外国の方の口に合うと良いですが」


神戸の川崎造船所で生まれた神通は、おでんをかんとだき(関東煮)という古い言葉で呼んだ。


ゴーレムの店員が大鍋に入れて持ってきたかんとだき…わたしの世代にとってはおでんだ。


神通はおでん種を取り皿によそい、わたしとオライオンに差し出してくれた。ついでにオライオンにはフォークを渡した。



ひろうずを頬張る川内。

「んー。お出汁が美味しいわ。まったりとして薄すぎず濃すぎず、これは利尻昆布で、加工したお店は知る人ぞ知るあのお店…」


川内が何やら講釈を始めたが、オライオンは食べようとせず、じっと取り皿のおでんを見つめている。


やがてオライオンはバッグから黒い液体の入ったビンを取り出すと、その中身をおでんに開けた。


透明にも近い美しい色の昆布出汁が真っ黒に染まる。


驚いて目を見開く川内。

「ちょっと!あんた、何してんのよ!」


オライオンは平然と答えた。

「マイ・ウスターソースよ。海外植民地に行く時はいつも持ち歩いてるの。あなたも使ってみる?」


「和食の破壊者めエエエエ!」

今まで得意になっていた講釈に水ならぬソースをさされた川内、カンカンになって怒り始めた。


その一方でオライオンは可愛く小首をかしげると

「おかしいわね、我がグレートブリテンが発明したウスターソース。いつでもどこでも文明的な料理が味わえるのよ。植民地人にウスターソースを渡すと、彼ら、薬と勘違いして喜んで受け取るのだけど♥️」


わたしはアジアには行ったことないけどキプリングの小説で有名よ、と、オライオン。


不平等条約をも改正した独立国・大日本帝国と、アジアの植民地を一緒にしたオライオン。


愛国心を刺激されたのか那珂も怒り出した。


「那珂たちは南洋のドジンじゃないよ!!」


神通も眉をひそめてオライオンを睨む。那珂のヤバい発言を止めようともしない。よく見ると神通の顔は蒼白になっているではないか。


わたしは思わず叫んだ。オライオンと那珂の発言は戦前ならいざ知らず、現在では許されるものではない。


「二人とも止めないか!!」


しかし、場の熱気はおさまらない。川内はわたしを睨むと


「でも提督!この女はわたしたちの食べ物を侮辱したのよ。鯛の酒蒸しやほうれん草のおひたしに無粋な泥水をドホドボとかける女よ!コイツ!」


自称文明の精華を泥水扱いされても感情を害さないオライオン。絶対的な自信があるのだろう。


オライオンは、ウスターソースが、ひろうずに染み込んだのを確かめるとようやく口に入れた。しかも箸を使って。


川内よりも美しい箸使いでひろうずを食べる。それが終わるとオライオンはナプキンで口元を拭いてこう呟いた。


「気分を害したらご免なさいね。でもね、戦争が終わって日本から帰ってきた兵士がよく話していたの。ゴボーとかいう木の根を食べさせられたけど、あれは人間の食べ物ではなかったって」


わたしは胃が痛くなった。もはやオライオンが戦後まで就役していたとか、日本政府による捕虜の扱いとか、双方の食文化の違いとか、筋道立てて考える余裕もない。


わたしはここに来たことを今更ながら後悔した。


神通が止めてくれないかと思って彼女を見る。すると神通は蒼白の顔をしたまま、その場で崩れ落ちた。


「神通!」「神通ちゃん!」

川内と那珂が悲鳴を上げる。わたしは神通を助け起こす。全身が汗びっしょりだ。


神通はわたしの顔を見るとニッコリと笑って呟いた。

「て……提督、ご心配をおかけして申し訳ございません。ボイラーの稼働率が限界を越えただけです。少し寝ていれば自動修復しますから…」


那珂がハッとした顔をすると神通を問い詰める。

「昨日、この島で明石の総点検が行われた時、神通ちゃんは自分は消耗していないからって那珂を先に修理させたよね!こういうことだったの?」


そして那珂は川内をも睨む。

「川内ちゃんもだよ!フジツボが艦底にこびりついているなんて、一言も言わなかったじゃない!!」

川内はうつむいたまま何も言わない。



わたしはオライオンに視線を移す。彼女はさっきまでのいたずらっぽい笑みとは一転して、とても怖い顔で神通と川内を睨んでいた。


「また、あなたたちはあの戦いと同じ……自己犠牲でピンチを乗り切ろうとする。いい加減になさい」


神通は汗びっしょりの顔で微笑みながらオライオンを見る。オライオンはさらに怖い顔になって神通を睨む。


「戦争が始まる前、わたしたちは日本海軍の軍備増強を脅威に感じたわ。でもそれは無理に無理を重ねたものだった。今のあなたのようにね!」


神通は無理やりに笑顔を作って答えた。

「か……開戦まで全く準備が整っていなかったあなたたちに言われたくありませんね…」

そのまま神通は昏倒した。


オライオンは神通の額に手を当てると

「ひどい熱……!これは自己修復できる段階ではないわ。わたしが神話の力で修理するしかないわね」


川内が詰め寄る。

「ちょっと……!あんたなんかに神通を任せられないわ!」

那珂も一緒になって

「そ……そうだよ、そうだよ」


オライオンは二人を睨むと

「WW2まで重工業をライセンス生産に頼っていた日本人のでる幕ではないわ。ここはシンガポールに東洋最大のドック、キングジョージ6世記念ドックを持っていたわたしたちに任せなさい」


神話の力が絡むと象徴的言辞による会話になり、わたしはついていけない。しかし、わたしは思い出した。


先のキレイン・クロインとの戦いで神通がピンチになった時、オライオンはいつもの冷静な仮面をかなぐり捨てて、彼女を助けに飛び込んだのだ。(ep. 25)


わたしは川内と那珂に言った。

「ここはオライオンに任せよう」


川内と那珂は不承不承のようだが、それでも頷いた。


オライオンはみんなに告げた。


「それでは儀式を行うからアドミラル以外は外に出ていって」



挿絵(By みてみん)

オライオン


オライオンは食堂のテーブルを片付けると畳に神通を寝かせた。


わたしは彼女に尋ねる「どうするの?」


わたしに聞かれたオライオンは


「魔法でキングジョージ6世ドックを再現するの。そして神通のボイラーを修復するわ」


そう言い終えるとチョークで神通の周りに線を書く。


「全長1000フィート、全幅130フィート……」


数字を声に出しながら白線を書くオライオンにわたしは驚いた。メートルに換算すると全長305メートル、全幅40メートル。こんな狭い食堂の面積を遥かに越えている。


「リアルではなくてイマジネーションよ、アドミラル」


つまりは象徴的な言辞ということか。オライオンの解説をそのように受け取ってわたしは納得した。


次にオライオンが自分のバッグから取り出したのは一冊の書物。それは魔術書では無くて『ブラッセー年鑑』1939年の号だった。


「今からここに書かれているドックの開会式を再現してみるわ」


オライオンはそう言うと神通の頭上にいくつかの勲章を並べた。


「大英帝国勲章、聖マイケル・聖ジョージ勲章、聖ヨハネ騎士団の恩寵騎士……」


わたしの興味深い視線に気づいたオライオン、さっそく説明を始める。


「これはね、マイアドミラル。ドックの開会式の主賓だった海峡植民地総督、シェントン・トーマス卿が授与された勲章なの。キングジョージ6世ドックの命名は彼が宣言したのよ」


……つまりはこれも王の即位式のレガリアの如く、儀式の象徴的な行為というわけだ。



「式典には帝国植民地の代表やアメリカからの使節が出席したわ。でも重要なのは次の四つ。建設の資金と用地を拠出した自治領と植民地。マレーとニュージーランド、香港、そしてシンガポール」


オライオンは四つの政庁の紋章を二つずつ神通の横に置く。そして呪文を詠唱するように抑揚をつけて名前を読み上げ始めた。


「ディペリハーラ・アッラー……ハリマオ(虎)の守護せしマレー連邦」

「ヘ ワカプタンガ オ テ ランガティラタンガ オ ヌ ティレニ……長い白い土地たるニュージーランド」

「ツァン ハイ イー シェン シァオ、タオ タオ リャン アン チャオ……彼らの愛国心に神のご加護を、東洋の宝石たる香港」

「そしてネゲリ・ネゲリ・セラット……西と東の海が交わる海峡植民地」


オライオンが唱え終わると神通の頭上に置かれた勲章と、両脇に二つずつ置かれた四つの紋章が輝きだした。


「これは魔法が発動したの?」


「そう。わたしが四つの自治領政庁の紋章を二つに分けたのはシンメトリーを実現させるため。ジーザスの下に12使徒が配されるのと同じなの。魔法が発動する条件よ」


……これはキングジョージ6世ドックを象徴で再現する儀式。国王の代理人たる総督の下に、四つの植民地がシンメトリーで配置される。それが大英帝国の東洋覇権を支える構図というわけだ。


しかし、このドックは開設された四年後に日本軍の手に落ち、重巡足柄をはじめとする日本の艦艇が修理される場所となる。ドックが開かれたのは1938年2月14日、シンガポール駐留イギリス軍が日本軍に降伏したのは奇しくも1942年2月15日だった......


「あらあら、余計なことを考えてはダメよ、アドミラル。魔法が効かなくなるかも知れないわ♥️」


オライオンがわたしの鼻に人差し指を当てて、メッとする。わたしは慌てて雑念を消した。


紋章と一緒に神通の身体も輝きだした。白い光が満ちる。


「後はこのまま見守ればいいのかい?オライオン」


オライオンは静かに首を横に振った。


「確かにボイラーは修復できるわ。でもそれだけではダメ。彼女の精神を自己犠牲から解放しないと」


「オライオン、神通はコロンバンガラの海戦でキミの姉妹リアンダーに再起不能となる損害を与えた。なのに何故そこまで神通に……?」


オライオンは何も答えずに神通の側に進むと、神通の着ているワンピースの水着のチャックを下までおろす。そして懐から小瓶を取り出すと、その中の液体を彼女の肌にかけた。


「今ふりかけたのはシー・ホリーから作り出した魔法の薬。アドミラル、神通を解放するのはあなたの仕事♥️」


挿絵(By みてみん)

オライオンは神通の水着のチャックを下し、魔法の薬をその肌にかけた。





わたしは神通の額に手を当てた。熱は下がったようだ。しかし、意識は戻らない。やはりわたしが彼女を解放しなければならないようだ。


白雪姫みたいに眠る神通の額に口づけする。しかし意識は戻らない。頬に口づけする。それでも戻らない。


意を決して神通の唇に自分の唇を重ね合わせる。唇と唇を何度も強く触れあわせる。


「ン……ンン……」神通の目が開いてきた。ようやく目覚めたようだ。


しかし、神通は目を見開くとヒイッと声をあげてわたしから身体を離した。


「も……申し訳ありません、提督。で……でも……でも……!」


神通は水着を脱がされているのに気づくと顔を真っ赤にした。そしてチャックをあげて急いで水着を着込む。


わたしは神通に優しく語りかける。


「キミを本格的に修復するためにはわたしがキミを解放しなければならないんだ、神通」


神通は両腕で自らの身体を強く抱き締めると


「お……お許しください。わたしは水雷戦隊の旗艦です。指揮官は己を強く律しなければならないのです。お許しください」


「どうしても?」わたしは念を押した。


「どうしてもです!」神通はわたしの目を見て答える。


「あなたは本当にそれでいいの?」


それはオライオンの声だった。


オライオンは神通の肩を優しく抱いて


「わたしたちとあなたたちは軽巡として似た者同士なのかも知れない」


神通は訝しげに呟いた。


「……似た者同士……?」


オライオンはうなずくと言葉を続ける。


「海外派遣を任務とするわたしたちリアンダータイプ、そして漸減作戦の先鋒であるあなたたち川内型。軍事ドクトリンは異なるけど、それぞれの帝国を支える尖兵として開発されたわ」


「オライオンさん……」神通はオライオンの顔を見る。



「でもグレートブリテンと大日本帝国、二つの帝国の栄光は今や見る影もない。片やビートルズ、片やマンガという文化で世界を席巻したと言っても軍事力によるプレゼンスは消え失せた」



神通は聞きたくないとばかりに顔を背けた。


「そして生まれ変わったわたしたち……生まれ変わっても歴史の栄光と悲劇を今でも体現している……わたしのプライドもそう。そしてあなたの自己犠牲もそうなのよ」


神通はハッとした表情でオライオンを見つめる。


オライオンは神通の顔に手を伸ばして優しく撫でると


「でもそれはいいの。それもわたしたちだから。でも時には自由になったほうがいいわ。心のフジツボを落として長い航海を続けるためには……」


オライオンは優しく神通を抱き締める。


「自由……解放……生まれ変わったわたしが......?」


神通がそう呟くとオライオンは彼女をさらに強く抱きしめる。神通は身体をかばうように閉じていた腕を下に降ろした。


オライオンは彼女の身体を包んでいた水着を外す。そしてキングジョージ6世ドックに横たえた。


「さあ、アドミラル。神通を解放してあげて……」


わたしは優しく声をかける。


「神通、君を解放するのは提督であるわたしの役目だ...キミはわたしに心を預ければいい」


神通はわたしを見つめる。


「提督……」


わたしは神通に口づけする。さっきとは違って神通は拒まなかった。そのまま口づけを交わしながら手を下ろして神通のスクリュー口を探る。指を優しくスクリューのプロペラに触れる。彼女の顔は安らいだ表情になった。


わたしは霊具を取り出す。


「ボクはキミの中に入るよ、神通」


神通は潤んだ目で答えた。


「あい……」


わたしは霊具を挿入した。


「アアアーッ♥️」


神通は歓喜の声をあげる。そして彼女の身体は五色の瑞光に輝いた。


意識を失う神通。その顔には微笑が浮かんでいる。そんな彼女にオライオンは優しくタオルケットをかける。


わたしは椅子に座るとオライオンに聞いた。


「これで神通は歴史から解放されたのかい?」


「さあ、どうかしら。今、ここでの一時かも知れない。わたしたちが歴史を体現する存在である以上ね。でもその一時が大事なものなのかもね♥️」


人差し指を立ててわたしに教えさとすようにオライオンは言った。



挿絵(By みてみん)

神通





わたしが眠り込んだ神通を見守っていると、妙な雰囲気になってきた。理由はわからないがモゾモゾとした気分になってくる。


そんなわたしに気付いたオライオンは。


「さっき、神通にかけたシー・ホリーの薬の魔力が部屋に満ちてきたのよ」


そう説明したオライオンの顔も紅潮してきた。


そして彼女は自分の手の甲をわたしに差し出す。まるでキッスを要求するかのように。


「この手は何だい?オライオン」


「言ったでしょう?魔法が発動するにはシンメトリーが必要だって。さ、神通だけではなくてわたしも解放して♥️」


立ち上がってオライオンの手を取ると、わたしの心に強い衝動が起こった。


わたしはオライオンの後ろに回る。そして彼女の艦尾を持ち上げて抱き抱える。オライオンはバランスを崩して前の壁に手をついた。


「ち……ちょっと……こんな姿勢で霊具を?」


「恥ずかしいかい?キミも帝国主義者のプライドから解放されるんだ、オライオン!」


「きゃっ♥️」


オライオンの蠱惑的な悲鳴を聞いたとたん、わたしの心で何かがはじけた。オライオンを後ろから組み敷く。そして霊具を入れて彼女の内部で動かす。


「フン!フン!フン!」


「あ♥️ あ♥️ あ♥️ ダ、ダメ~ッ♥️ご主人さまァ~♥️」


オライオンは激しく身もだえしながら五色の瑞光を放った。。


挿絵(By みてみん)

「ご主人さまはメイドの後ろからと決まっているんだ!オライオン!」

「ダ、ダメ~ッ♥️ご主人さまァ~♥️」




オライオンの声は部屋の外にまで響いたので、川内が中に駆け込んできた。


「今の声はなに!神通に何かあったの!?」


ちょうどわたしはオライオンから霊具を外しているところだった。オライオンの内部から霊気がドロッと外に漏れた。オライオンは甘ったるい息を吐く。


それを見た川内は


「……提督!これはどういうこと!?さっき、わたしにしたことをこの女にもやったのね!」


オライオンは川内の腕を掴むと室内に引きずり込む。


「わたしの恥ずかしい姿を見られてこのまま返すわけには行かないわ♥️」


「ち……ちょっと……アンタ何すんのよ」


オライオンは川内の言葉に構わずシー・ホリーから作った魔法の薬を彼女の身体に振りかける。川内はヘナヘナと崩れ落ちた。


オライオンは川内の前に周って崩れ落ちた身体を支えるとわたしに声をかける。


「さあ、アドミラル。川内も解放してあげて♥️」


川内はイヤイヤをする。


「イヤ...イヤよ...神通だけならまだ我慢するわ...でもこの女にも同じことをしたなんて…キライ…キライよ...」


わたしは後ろめたさを押さえて川内にさとした。


「川内...キミの心を傷つけてしまったのなら謝る....しかし!」


わたしはアドミラルの威厳をもって宣言した。


「艦隊の団結のため、二人一緒に和合するんだ!これはボクの願いでもある!」


「え…?」「え...♥️」


わたしは川内とオライオンの船体を上下に重ね合わせる。そして交互に霊具を差しこんだ。わたしに霊力を流しこまれた川内は叫んだ。


「く……悔しいッ……!こんなヤツと一緒だなんて......!でも...でも....これが提督のためならアアーッ♥️」


川内とオライオンは同時に五色の瑞光に輝いた。その瞬間、川内がオライオンの手を握り、オライオンも握り返すのをわたしは見逃さなかった。


挿絵(By みてみん)

川内


挿絵(By みてみん)

オライオン




すると今度は那珂が飛び込んできた。

「今、川内ちゃんの声が!何かあったの!?」


末妹の那珂は姉二人が意識を失ったまま倒れているのを見て全てを察したらしい。


「ひどい!ひどいよ!」


涙ぐむ那珂。やはりやりすぎだったかと思ったが、次の那珂のセリフは予想外のものだった。


「いつもいつも川内ちゃんと神通ちゃんが二人だけで決めて!那珂は必ず仲間外れ!」


わたしは那珂の手を握ると


「それはすまなかったね、那珂。でも今回はキミに加わってもらわなくてはならない。わたしの下にキミを入れて四人、これで儀式に必要なシンメトリーが完成する」


わたしは那珂の身体を抱えると、キングジョージ6世ドックにそっと横たえた。彼女は最初はイヤイヤをした。


わたしは「これから川内や神通と同じことをキミにもするからね」と耳元にささやく。


すると那珂は拗ねたような目をして呟いた。


「......でもやっぱり那珂が一番最後...」


わたしは那珂の耳元でまたささやいた。


「最後が一番大物なんだよ、那珂」


那珂は顔をパッと輝かせるとわたしにしがみついてきた。


わたしは優しく那珂に霊力を注ぎ込んだ。


「アアアーッ♥️ 川内ちゃん神通ちゃ~ん♥️」


かくして那珂も五色の瑞光を放って輝いた。わたしは那珂の両手を取ると川内と神通の手に結びつけた。


挿絵(By みてみん)

那珂「アアアーッ♥️ 川内ちゃん神通ちゃ~ん♥️」



かくしてシンメトリーは成立した。わたしは何度も何度も霊具を使った儀式を行った。四人の神話の力が解放されて世界に満ちて行く。


明日はいよいよ出航だ。今の儀式によって帰りの航海は一路平安だろう。彼女たちと共に幸せの島に戻るのだ。


翌日の海の家....帰り支度が終わった後でのあわただしい朝食...


「あーっ!あんた!焼きのりにウスターソースをドボドボかけて!のりは端っこにちょっとだけ醤油をつけて食べるものよ!」


「海藻なんて磯臭くてそのままでは食べられないわ♥️あなたたちも文明の味をいかが?」


「那珂の冷ややっこに無粋な泥水をかけないでよ!」


川内やオライオンの様子を見ていたバーラムがわたしに話しかけた。


「昨日の儀式は上手くいかなかったようね、アドミラル。あなたは数を揃えればシンメトリーだと思っていたでしょう?本当は機能も考えなくてはならないのよ」


失敗だったか...わたしはアドミラルとしてまだまだ未熟だということだ。


しかし神通がわたしに近づいてきて耳元で囁いた。


「ご心配なく。表には出てきませんが、少しは変わりました、わたしたち」


わたしは神通の言葉に救われた気持ちになって号令をかけた。


「それでは準備が整い次第帰りの航海に出航する!全艦抜錨!」



後書き


イギリス戦艦バーラム

「今日はHMSバーラムの陸上レストランにようこそおいでくださいました」


イギリス巡洋艦・駆逐艦

「(シーン……)」


バーラム

「なお、スペシャルゲストとして日本艦のレディ榛名とレディ霧島もお招きしています」


日本戦艦・霧島

「どうしてわたしたちまでここにいるの?榛名」


日本戦艦・榛名

「仕方ないでしょう、これもお付き合いなのよ、霧島」


バーラム

「(ポンポン)ゴーレムのウェイター、みんなに食事をお配りして」


駆逐艦ジェーナス

「(ヒソヒソ……来たよ来たよ、いつものトマトニシンが)」


駆逐艦ジャーヴィス

「(来客用のウェッジウッドに腐りかけたトマトニシンが山盛りなんてシュール過ぎて笑えないわ)」


駆逐艦ジャヴェリン

「(シッ二人とも!聞こえるわよ……でも、ああなるまでため込まなくても……)」


軽巡洋艦ニューカッスル

「今日は日本艦の榛名さんと霧島さんも招待されているのね(ヒソヒソ……ロイヤルネイビーの食事がいつもこうだと誤解されたら問題ね)」


軽巡洋艦グラスゴー

「(単にバーラムさんがケチなだけなのにね……巡洋戦艦フッドさんなら外交プロトコルに従った豪華なディナーを出すんだけど……)」


バーラム

「そこ、聞こえてるわよ。仕方ないでしょう? ウォースパイトは絶対にトマトニシンを自艦に積み込もうとしないんだから。わたしが彼女の分も引き受けているのよ」


霧島

「そういえば、ウォースパイトの艦だったかしら?腐ったトマトニシンを水兵に出したので暴動寸前までいった事件」


榛名

「いつかウォースパイトさん、我が艦歴で最大の汚点の一つだって顔を歪めて言っていたわ」


バーラム

「そういうこと。食糧は貴重な物資、廃棄するなんて許されないわ。これも総力戦の訓練だから黙って食べなさい」


みんな

「ウムムム……ウグググ……」


霧島

「またニシンが強烈な臭いを放っているわね。わたしたちだったら口に入れてもボイラーで熱消毒できるけど、人間の提督には食べさせられないわ」


榛名

「ねえ、霧島。これ、ニシンを取り出して何とかできないかなあ?」


霧島

「そうね、榛名。まず塩をふって臭みのもとを取り出した後に熱湯をかけて...」


榛名

「それからごぼうか生姜と一緒に煮込むのはどうかしら?.それとも塩か酒で下処理をしてフライにできたら……衣にハーブかカレー粉を混ぜたら西洋艦の口にあうかもしれないわ」


バーラム

「ハ!食事なんて栄養が取れればそれでいいの!そんな些末な事に頭を使うから、あなたたち日本人は戦争に勝てないのよ!」


霧島

「ちょっとバーラム?せっかく榛名がね、あなたが腐るまで貯めこんだ食材の始末を考えているのにね、その言い方は無いんじゃないかしら?」


バーラム

「ハ!それが日本人は総力戦を分かってないところなのよ。これは教育が必要ね!」


霧島

「わたし達だって総力戦は研究していたのよ!あんたんところでは『戦時食料政策論』(Feeding The People In War Time, by Orr, Sir John and Lubbock, David)って本が有名だったでしょう?あのどこに腐ったトマトニシンで集団食中毒を起こせなんて書かれているのよ!」


榛名

「シッ……二人とも……いつの間にか巡洋艦と駆逐艦の娘たちがいないわ」


霧島

「あら?机の上に置き手紙があるわ」


バーラム

「フムフム……レーダーに不審な影が映ったのでみんなで哨戒に行ってきます。戦艦のお姉さま方が出撃するまでもありません。どうか食事会を続けてください……あの娘たち!」


榛名

「うまく逃げられたわね。まあ!お料理がほとんど手をつけられずに残っているわ」


霧島

「ちょっと!残ったトマトニシン、わたしたち三人で片付けろってこと!?」

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