出来損ないと寂寥の魔剣士【中編】〜なんか仲間が急に襲いかかってきたんだけど。え?あれキミがやったの?…そう〜
北アメリカ大陸のような広い心を持つものよ。先に進みなさい。
自分の中になにか重いものが溜まっているような違和感。
これはいつから感じ始めたのだろうか。
もう随分と前になる。
思い出せる限り記憶を辿ってみるが、何処までも続いている。
2万年前、我は星の化身の剣士に負けた。
―ああ、お久しぶりです。
王よ…
「…お前か」
―何故私を…?
「お前には素質がある。情報だけ取り抜いて分解するのは惜しい個体だ
それに、私は助けてなどいない。お前がここまで、生きたまま流れ着いてきた
お前を倒した者に興味がある。お前の得た情報を渡し、早く傷を癒せ」
―御心のままに
(…)
いや、これよりずっと前だ。
そうして辿り着いたのは、初めてこの姿を取ったときの記憶だった。
そうだ。この姿を取ってからこの違和感は始まった。
真っ黒な宇宙を漂いながら、先程滅ぼした星の事をダークネス様に報告し終わった時の事の記憶をふと思い返した。
「…お前、最近情報の受け渡しの際ノイズが入るようになったな」
「ノイズ…ですか?」
「殆ど鮮明だが、時々入るようになった。何処か損傷したか?」
「いえ。支障が出るような損傷は何処も…」
ふむ、と何か考え込むとダークネス様はしばらくして此方を見た。
「ならば良い。そのまま単独行動を続けろ」
「解りました」
そうして閉じていた目を開くと、目の前には真っ黒な宇宙にその中でか細く光る点々とした星々が見えた。
我々が探し出すのは平凡な星ではなく、星自ら内なる光を放つ星。それらは我々堕星者の一族の力を遠ざける忌まわしき星。我々が存在する理由であるダークネス様の計画を妨げる障害。
それを探し出し破壊するのが我の任務だった。
情報共有のために潜んでいた小さな惑星の影から出ると、次の目的地を探す為に移動した。
辺りは何もない空間が続いていて、ただ感覚だけを頼りに進んで行く。
大体目的の星には生命体が居て、それらが発する感情が星を探す際の目印となる。
唯々広い空間の中で、独り星を探す。
ぼんやりと考えながら飛んでいると、先程滅ぼした星で聞いた様々な音が脳裏に蘇ってきた。
ああ、賑やかだったな…
そう思うと、自分急にとても小さく感じ、周りが更に広々と感じるようになる。
まただ。
時々、感覚が狂うことがある。
先程と同じ場所、同じ景色を見ているはずなのに、違って見えてくることが最近増えた。
すると、ずっ、っと躰が重くなる。
判断が鈍る。
良い事がないのに、あるいは悪い事がある訳ではないのに、突如この感覚は生まれる。
自ら選び、捨て、使命を尽くす為に考えうる限り最善な手段を取ってきたつもりだった。この姿を取ったのも、ダークネス様の命に応える為だ。
この姿で沢山の星の住民を操り、星を滅ぼして、ダークネス様から単独行動を許されてから、どれだけ経ってもこの感覚は消えなかった。寧ろ、ハッキリと感じるようになった。
何故、この感覚が生まれたのか。
何時まで、自分はこの感覚と過ごさねばならないのか。
そんな事をずっと考えながら、どれだけ飛んだだろう。
ふと、視界の端で気になる物が見えた。
そちらを見ると、真っ黒な暗闇の中、無数にある小さな星の中で、小さい癖にとても輝いて見える星があった。
ああ、何故だろう
とてもあそこに行ってみたい
とても強く引き付けられるように、気が付くとそちらに向かって飛んでいた。
■
ゆらゆら揺らぐ意識
呼ぶのはダアレ?
とても長い夢を見ていた気がする
未だ何処からか声が聞こえてくる気がした
「ハッ!?」
目の前に映ったのは何処までも広々と広がる青い空と、優しいくせに青く澄み渡る空色に浮かんでいる白い雲。
我は…一体何があったのだ
ふと、隣に眠るきなこの温かい体温と、小さくて穏やかな寝息を感じた。