イアデル、里帰りするⅱ
イアデルの目の前には、邪星の剣士がいる。無口そうな外見をしており、癖の強い黒色のはね髪が片目を隠すように覆いかぶさっていた。人形のように白く生気を感じさせない顔をしていたが、その佇まいには一点の隙もない。幹部に上り詰めるなんて、一体どれほどの研鑽を積んだのやら。自分がやろうなら、すぐつまらなくなって飽きてしまうだろうが。だが、イアデルが一番気になっていたのは、腰に携えている剣だ。主に魔法と体術を使う邪星が、武器を使うのは非常に珍しい。まさか、魔法と斬撃の二刀流か。随分と面白いものだな、とイアデルは思いつつ、愛想良い笑みを浮かべて言った。
「よう、よろしくよ。マターちゃん」
《新入りと言っても、此奴ももう随分と古参になります》
「ふ〜〜ん」
ゼロは俺の前だけでは礼儀正しいが、年がら年中機嫌が悪そうだし些細な事で手下を消す。ずっと生かしておいてるのは、珍しい。
「そいえばさぁ~、ゼロ」
《なんでしょうか》
「俺って何千年ぐらい封印されてたんだ?三千年ぐらい??」
《二万年千年でございますネビュラ様》
「マジで?!もうそんな経つのか?!早いなぁ…」
ということは、この領域の主もそれなりの年輪を重ねたことになる。
ゼロやエラー2が「闇から誕生した生命体」なら、イアデルは「闇そのものが自我を有した存在」といったところだろうか。そもそもアイツは…ゼロは、全盛期の俺が封印される直前に宇宙に放出した闇から誕生したのだしな。暗黒物質の始祖であるイアデルにとって一族の奴らは全員、実質自分の子供だが…あんな生意気な子供達もそうそう居ないよな、と、イアデルは思った。この間生まれたばかりだったのに、時の流れというのは随分と早いものだ。
——? どうしたのだ。賢明な読者殿よ。そもそもシリーズ初期から、他者に憑依し星の支配を目的とする奴が一族単位で存在している時点で、俺達の居る世界が終わっているのは分かっていただろう。何を今更当然の事を言っているのだ。
「なぁ、マターちゃん」
「なんでしょうか?」
「お前ゼロの側近なんだよな?」
「…? はい。そうなりますが…」
「ふぅ〜ん、そっかー」
さっきまでにこやかに笑っていた、イアデルの表情が急変する。聞いた者すべてを震え上がらせるような迫力で、邪星の支配者は言った。
「…それで?」
「あの子が拒んだ心を、その身に得た気分はどうかね、ツルギよ」
「っ…!」
ゼロの子は、あくまでゼロの使い捨ての駒に過ぎない。ゆえにその思考回路に余剰物質は含まれていないのだ。たとえば、感情の類い、痛覚や味覚などの感覚の類い、そして疑念などは、本来、持ち合わせていないはずだった。
「っ…その……」
「ぷっ、本当みたいだなぁ。ごめんな」
「心って案外いいものだろ?大切にしろよ、マターちゃん」
おまけ
ゼロ:宗教勧誘が来た。『あなたは神様について御存知ですか?』と言われたから、『私のことだ』と言ってドアを閉めた。




