フェルミオン
クレアはぎこちない動作で杖を前方に構え、それをマホミルは両手を軽く添えて支えてやる。
「そう、そうやって魔力を込めて…」
「こう?」
「そうそう。じゃあ、放ってみて」
クレアは手に汗握りながらも、全身の魔力を杖に集中させる。爆発しそうな魔力を、思いっきり一気に前に突き放つ。
「えい!!」
特に何も起こらなかった。
「…あれ?また不発…」
クレアは肩を落とし、がっくりとうなだれた。
「はぁ…また失敗しちゃった…」
「こういうのは場数だからね」
「わたし才能ないのかなぁ…」
「別に泣くことじゃないでしょ」
別に杖自体は、魔力量を選ばず、比較的少ない魔力でも発動するよう調整してある。何か思うところがあったのか、マホミルは手をぽすっとクレアの頭に置き、静かに手袋越しに頭を撫でた。
「最初はみんなそんなものよ」
「ししょーもそうだったの??」
マホミルは一瞬考える素振りを見せるが、やがて開き直って、何食わぬ顔で言った。
「いや私は最初からできてたけど」
珍しく早口だった。
「じゃあさっきのは何?!」
次の瞬間、誰かの声が聞こえてきた。声の主を探すと、そこには、この間ダンジョン内に置き去りにされたはずのイアデルがいた。何故か頭に特大サイズのたんこぶができている。
「いやー、なんとか帰ってこられたぜ!さっき極太ビームに巻き込まれたときは、どうなることかと…」
「チッ、自力で帰って来やがったか…(小声)」
「お前今 舌打ちしたよな?」
「えー、なんことぉ?」
急に営業スマイルを浮かべ、合わせた手をあざとく胸の前で組む。耳を垂れ下げておねだりムードを醸し出したマホミルは、胡散臭い笑みを浮かべ誤魔化すようにそう言った。
師匠って、都合の悪い時だけぶりっ子みたいになるんだよなぁ…
そういえば、こんなやり取り前もしたような気が……まぁ…いっか!
この件については、今後考えないようにしよう。過去のことを気にしてもしょうがないと、クレアは割り切った。きっと自分の気のせいに違いない。
マホミルは今度は急に眉をひそめ、イアデルを冷たくあしらうようにして言った。
「そろそろおうちに帰ったらどうだよ、クソザコヒトデ◯ン」
「俺を常に罵倒していなければ、死に至る奇病に罹っているのならまだ分かるが…それ以外のお前は何だ?微塵も面白くないものを、ただ意味も無く擦り続けているのか?そりゃはっきり言って異常と言わざるを得ないな」
「は?」「あ゙?」
「ちょ、二人ともストップ〜!!」
クレアが仲裁に入ったことで、マホミルとイアデルの喧嘩はすんなりと終わった。この二人なら、下手したら国一つ滅ぼしかねないとクレアは思った。
「…あれ?」
ふと疑問に思ったクレアは、さっきまで二人が喧嘩していたにも関わらず、イアデルに問うた。
「イアデルに家ってあるの??」
そう、さっきのマホミルの言い分からして、イアデルには別に家があることになる。対してマホミルも「どうせ闇の物質の一族だから、親玉がいて、拠点があるんだろ」ぐらいの認識だった。
イアデルは急に黙り込み、しばらく考える素振りを見せるが、古い記憶の扉を開けると、やがて開き直って口を開いた。
「俺も彼の地を離れてから随分と経つ。今ではどうなっているのやら…」
イアデルは追憶に浸り、昔慣れ親しんだ場所や人を思い出すや、懐かしむような調子で言っていたが、徐々にこわばった表情へと移り変わっていった。
「あそこではな、全ての命が一人の手から創られ、その一人のためだけに死んでいくんだ。行動・思想・姿形…誰もが誰も、見分けのつかないよう育てられる世界。全ての生き物どもは、一人の独裁者のためだけに存在していると言っても過言ではない。自らの命さえ、なんの躊躇もなく放り出すような、つまらない連中ばかり。面白味も何もない世界だ」
「……わたし、難しい話はよくわかんないけど、帰れるお家がまだあるのに、どうして帰らないんだろうな……って」
その話に少しマホミルが反応するが、すぐさままた黙り込んだ。
「わたしならちょっと見に行きたいかも」
イアデルは一瞬考える素振りを見せるが、やがて口を開いた。
「…なるほど。故郷があるうちに、か」
「…今度帰ってやってみるか」
おまけ
イアデル:買い置きしてあったドーナツを特に悪気なく食べ尽くしたせいで、歌いながらウキウキして箱を開けたクレアが「ドー♪はドーナツーの、ど、どうして…」と床に崩れ落ちた日以来クレアと顔を合わせづらい。




