彼方からのトリックスター
「う〜ん…全然釣れない…」
場面は変わり、クレアは川で釣りをしていた。どうしてそんなことになっているのか。それは先程まであった出来事まで遡る。マホミルとクレアは朝一にダンジョンに待ち合わせたため、二人ともまだ朝食を取っていなかった。それで、ある程度薬草が集まったあと、ついでに朝食を取ることで二人は合意した。急に決定したがため、手元にこれといった食材も持ち合わせていなかった。そのためおかずにする魚を、言い出しっぺのクレアが釣ってくることになったのだ。そこまではいいものの、いくら経っても全く魚が釣れる気配がしない。
「このままじゃ店主さんにどやされるなぁ…」
どうしたものかとクレアは考えていると、不意に浮きが川面から消え、勢いよく水中に吸い寄せられた。
お?かかった??
すぐさま竿を引く。中々大物なようで、こちらの方へと獲物を引き寄せようとしても、強い力でしぶとく抵抗する。少しでも気を抜けば、こちらの方が水に落っこちてしまいそうだ。やはり、素直に釣らせてはくれないようだ。それでも力を振り絞って、なんとか竿を水中から引き上げる。
ザバーッ
そこに釣り上げられてのは、少なくても30cmはある大きなヒトデだった。川なのに。それは紫紺の体と赤い瞳を持っていた。
あまりの急展開にしばらく硬直する。
「…へ?人間?」
「え、ヒトデがしゃべった…?!」
このヒトデ、どうも喋るらしい。
「誰がヒトデじゃい、後頭部の一番痛い所しばくぞ?!」
「うわあぁあっ、野蛮!!」
どうやらヒトデではないらしい。
★☆★☆★☆★
「だはは、なるほど!じゃあアンタは運よく邪星サマを釣り上げたラッキーガールつー訳かい」
そのヒトデみたいなのは、さっきまでヒトデ呼ばわりされてブチギレてたのはどこに行ったのやら、愛想良く言った。
今度はまるで小さな子供がねだる時のように、ヒトデは目をキラキラと丸くしながら言った。たぶんエフェクトでも出てたらハートだと思う。
「よし!その幸運さ、気に入った。オレの配下にしてやるぞ」
距離が……距離感が、近い……!
「あの…わたし間に合ってますので…離れて……」
そのままヒトデは服をぐいーっと引っ張ってきた。
「んだよ、ケチすんなよ、いいじゃないか!」
「離してよぉー!あぁ、服が伸びる〜!」
刹那、誰かが後ろからガシッっと、勢いよくそのヒトデを取り上げた。
いつの間にやってきたのだか。それは、笑顔なのに顔が全然笑ってない殺意丸出しのマホミルだった。強い力でヒトデを握りしめるように掴み、今にもはち切れそうなほどだ。
「おっと、随分と美味しそうなのを釣り上げたわね〜、クレア」
そんなセリフを言っておいて、顔が全然笑ってないのだから恐ろしい。
なんだかヤバいことになった気がしたクレアは、焦りながら必死にそれを止めた。
「店主さん!この小説は一応全年齢だよ?!そんなナマモノ握り潰したら絵面が……」
そう、この小説はこの間キャラクターを散々いじめておいて全年齢対象なのである。なお作者曰く、キャラクターが苦しむのが好きなのではなく、それでも前を向く姿勢そのものが好きなんだのか。ドアカーペットってそういうことじゃない気もするが、まぁそれはさておき…
「うーん、クレアに免じて許してあげるわ。命拾いしたわね」
いつもの笑顔に戻ったマホミルは、右手に握りしめたヒトデを離した。いきなり離されたヒトデは、そのまま地面に勢いよく落下する。
「いやー、助かった〜。オレじゃなきゃ全治100年じゃすまなかったからな」
そのままヒトデはクレアの方を向いて笑顔で言った。
「あんがとよ、人間ちゃん」
「わたしは別に何も…」
「さーて、話を聞かせてもらうか、この闇の物質の一族が。なんでこんな辺鄙な場所にいるのかしら?目的は何?偵察?」
さっきはクレアが仲介して一時的に怒りが収まっていたものの、今度こそ殺すぞと言わんばかりに、マホミルがヒトデに問う。
「お、おっかねえ……わかった答えるよ」
「オレ、元々こんなちゃっちい川じゃなくて、宝箱ん中に閉じ込められてたんだ」




