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虚言の堕天使  作者: みさこんどりあ
第二部 亡霊少女の異世界放浪旅
74/91

実力派な店主ⅱ

寝ぼけて書いたからか名前がやばいことなっててとても焦った(汗)

——刃物は嫌いだ。理由はよくわからない。けれど、本能的に思った。手に持ってはいけないと。たまに変な夢を見る。明らかにわたしの記憶ではない。一瞬で終わる変な夢。それはまるで誰の過去を投影したようなフラッシュバックで、その夢を見ると

決まって冷や汗が出る。



『死んだら星になって君のもとに現れるね。

…それとも、お化けになって化けて出ようかなぁ?』


自らの首元に長剣をあてがう。鉄の冷たさがひんやりと感じられる。首に迫る、白銀の剣。鮮烈な赤が破裂する。首と胴を分かたれた■■■■にも、その体躯を一刀のもとに切断された刃先にも、温度は宿っていない。


けれど、かれかけの湧き水のごとく、ちろちろと赤い液体が流れ出て、生臭さを漂わせた。








「…ねぇ?聞いてる??」

「もう魔物の解体終わったんじゃない?」


「……ん…?あ!!あっ、そうだった!!」


よろず屋方面から挟まれた口に過剰反応し、大声で飛び起きる。クレアは逃げるようにギルド方面に走っていった。


ギルドが解体した各部位を買い取り次第、その分の収益で装備を買いに来るだろう。先に準備しておこうと、マホミルはもぞもぞと店のワゴンの下に潜り込んだ。


「…あれ?店主さん、あれ何?」

「ん?」


突如クレアが目線を奪われ、それを追うようにマホミルも空を見上げた。港町に黒い影が差す。その影の主は、クレアはクエストクリアのために何度か目にしたことがある。体に生える一対二枚の翼、全てを写しているようで何も映さない瞳、そのまま千切れてしまいそうな程の大きな口。


「店主さん、あれって…」

「暗黒竜だ!!」

「暗黒竜?!」


第一印象は、名前が厨二心くすぐるものだったということ。うん、それだけ。すごいかっこいいとおm…

…あまりに急展開とはいえ、対応できないクレアではない。先ほどまでの緩みなどとっくに締まりきり、敵の観察を進める。


しかし、相手は待ってくれやしない。少しだけ伸びをしたかと思うと、クレアめがけて突っ込んできた。そのスピードがあまりにも早く、防御が間に合わない。思いっきり飛ばされて、よろず屋のワゴンに体を打ちつける。


「いたっ……!」

「クレア! 大丈夫!?」

「まだ体力あるから大丈夫。気をつけて、多分そいつ強いから!」


すぐさまクレアは起き上がり、今にもよろず屋のワゴンに飛びかからんとする暗黒竜を抑えている。自分の何十倍ものある相手をたった一人で抑え込んでいる。あんな小さな体のどこにそんな力があるのだろうかと疑問にさえ思う。そして一体いつの間にだろうか、「店主さん早く逃げて!」と、言葉の置き土産を残して。


「店主さん、ここはあの子に任せて逃げましょう! 危ないです!」


通りかけの冒険者のお姉さんが、多くの市民が逃げている方向を指す。マホミルのケープを引っ張って走ろうとするが、マホミルはびくとも動かない。不審に思ってそのお姉さんは顔を上げると、目を大きく見開いて暗黒竜を見つめるマホミルの姿があった。「早く走って逃げなくてはならない。あまりにも危険だ。半分不意打ちだったとはいえ、クレアがあんな簡単に吹き飛ばされるなんて」。言葉はそこまで出かかっていたが、あまりにも現実味がないこの状況と、あんなマホミルの顔を見せられては、特殊状況に慣れていないお姉さんは動けるはずもなく。


初めて見る表情だった。胡散臭い笑みでもなく、不満を最大限顔に乗っけたようなふくれ面でもなく、本気で何かを思考しているような……。




初めこそ小さな動きで少しずつダメージを与えていったが、それも長くは続かない。息切れで周りが見えなくなった瞬間を狙われた。渾身のため攻撃を小さな動きで躱され、氷塊投擲に足を掬われ、爆発に大きく巻き込まれて吹っ飛んだ。


「きゅうぅ……」


吹き飛ばされて家屋に直撃する。受け身を取ることもできず、ずるりと地に落ちた。フラフラと起き上がるが意識はかろうじて残っているようだが、戦闘は不可能だろう。


「……」


……勝てない。

勝てるビジョンが浮かばない。

まだ逃げるための体力自体はあるが、相手が疲労するまで逃げるのは無理だ。その間に街を襲われたらどうしようもない。それに、向こうはかなりの攻撃力を持っているから、体力があったとしても意味はない。つまり倒すしかない、が、自分の一つ一つの攻撃自体にそこまでの火力はない。だから、誰かに補助してもらわないと勝つことはできない。つまり他の冒険者達が助けに来るのを待つしかないが、きっとまだしばらくは帰ってこないだろう。

すなわち、八方塞がり。


「……っ!」


でも、自分しかいない。倒すしかない。必死で思考を回していると、クレアが前から突撃してくるのに気づけなかった。

咄嗟の判断で回避を取る――避けられない!

やばい、当たる。クレアは確実に襲ってくるであろう衝撃を前に、ぎゅっと目を瞑った。


――しかし、いくら待ってもその衝撃は来なかった。

代わりに響く、鈍い衝突音。例えばそう、暗黒竜が別の何かに当たった時のような……


「……ハァ……」

「…………店主さん?」


 目を開ける。そこには、マジックバリアを貼って暗黒竜を押さえているマホミルの姿があった。

 

「…やっぱり、これくらいの攻撃なら下位魔術でも十分防げる」


「クレア、下がってて」

「……て、店主さんが戦うの?」

「そ。不本意だけれど」


 チラリともクレアを見ず、ダルそうに手の埃を払い、よろずやのワゴンを指差す。

 実際マホミルが戦えるかはわからない。もしかしたら、時間稼ぎのために、わざと潰れ役を買ったのかもしれない。一緒に戦いたいけれど、足手纏いになることだけは避けたかった。大人しくワゴンへ走る。


「……お姉さん、大丈夫?」

「う、うん。私は大丈夫。店主さんは……」

「わかんない」


さっきの冒険者のお姉さんもまだ逃げていなかったようで、ワゴンから少し顔を出して様子を見守っている。戦いに加勢したかったが、クレアで叶わないというのに、どうして自分が戦力になれようか。

同様の理由でマホミルを引きずって避難しようとしたものの、マホミルは戦線に足を突っ込んでしまった。今のうちに逃げるしかないが、逃げたらきっと暗黒竜に襲われる。ならばここで隠れていた方が安全だと二人は判断した。


もう一度ワゴンの外、戦闘している二つに目を向ける。

一方は余裕そうに空を飛び、一方は攻撃が当たらず苦戦している――マホミルの放ったレギュレーションボールが、暗黒竜の顔に直撃した。


「本当は私が出る幕じゃないけど、しょうがないわね」


暗黒竜は本当に怒り、マホミルめがけて突進する。そのスピードを見極めるには、相応の戦闘センスと実力がないと不可能だ。マホミルがやられる、と二人は思った。

けれどそれは全くの杞憂だった。手をくるりと回して魔法陣のようなものを描き、星型の穴を生み出すと同時に横に少しズレる。穴が大きく膨らんで、全てを吸い込まんと回転し出した――ブラックホール。暗黒竜は急な方向転換ができず、ブラックホールに突っ込んだ。流石にあの巨体を吸い込みきることは出来なくても、瓦礫をも巻き混んで、どが、がき、と文字通り体を削っていく。それを見逃さず、マホミルはぐいと拳に力を入れた。地面が湧き上がり、何本もの棘が生える。全身にくまなく刺さり、暗黒竜は悲痛な声をあげる。


「……」

「言ったでしょ、大丈夫だって」


暗黒竜は全身傷だらけだ。クレアが多少体力を削ってくれていたのも含め、マホミルの火力が高すぎる。対してマホミルは、一切の傷がなかった。まるで赤子の手を捻るように、道化師によって躾けられた肉食動物のように、クレアで敵わなかった敵がいとも簡単にいなされている。


「……店主さん、強い……」

「あんなに強かったの……?」


二人が目を丸くする。マホミルがよろず屋のワゴンから出てくること自体がほとんどない見たことないというのに、戦う場面なんてそれこそ見ようと思ったこともなかった。

が、マホミルはその視線に応えることなく、冷めた目で暗黒竜を見下ろしていた。


「おっと」


 ブラックホールの効果が切れると同時、またもや突撃してくる暗黒竜。お互いの距離も近かったために逃げる余裕もなかった筈――だが、マホミルは冷静に手を運び、魔力を練る。同時に魔力球をいくつも飛ばす。


この前対峙した陰陽師。あれは強かった。怪異であることを見破られ、戦闘になっただけでなく、その時は本当に消滅ギリギリまで追い詰められたものだ。確かにあれは強かったが、こいつはそうでもない。いや、確かに強いと言われれば強いのだろうが、それを大きく超えた力をマホミルは持っている。

強大な力を持つ敵を、それを超えた力を持つマホミルが軽々と相手にしている、その光景をクレア達は驚きの視線で見ることしかできなかった。勝ってほしいとか、潰れ役がどうとか、そんなものは一切ない。マホミルが勝つことが絶対的な事実であり、さもそれが当たり前かというように振る舞う彼女は、もはや魔王のようにすら見えた。


「せっかくならドロップ品だけ残してくれると助かるんだけど」


特に構えることもせずに指を鳴らし、魔力球を六つ投げつける。ローパーが怯んだ隙に、マホミルは手に魔力を高める。両手をくるりと回転させて、何かの陣を描くように手順を踏むたび、魔法陣が拡張される。先ほどよりも膨脹し、溢れ出る魔力を、その場にいる全員が感じ取っていた。

今にも爆発しそうな魔力を陣に込め、引き手から思い切り前に突き出す。同時に具現化された雷属性の極太レーザーは、クレアの数十倍はある暗黒竜を軽々と飲み込むほどの威力とサイズを持ってして、轟音と衝撃波を生み出しながら招かれざる客を粒子以下にまで分解した。


魔力の余韻だけが残る。静かだった。


「……お、二つもあるじゃない」


マホミルが暗黒竜に向けて撃った、魔力砲について、それが海の方向へ放たれたことが幸いだった。いやもちろん、戦いで広場の石畳はめくれ、近隣の家の壁には穴が空き、瓦礫で山ができている。住めるかと言われれば厳しいし、これから少なくとも一週間近くは復興に力を入れなければならないだろうが、これに加えてあのレーザー砲まで撃たれていたら、片付ける瓦礫どころか人の住む家まで綺麗さっぱり掃除されていただろう。実際、海の向こうに見える灯台には掠ったようで、丁度建物の上半分が水に落ちていくところが見えた。

そんなトンデモな威力を何気なしに出した本人は、暗黒竜が消えた後に転がるドロップ品をのんびり回収し、手についた土埃を払っているところだった。


「……」


非現実すぎて、クレア達も、何も言葉を発せない。畏怖と好奇の視線を受けつつも、マホミルはそれを一切気にすることなくよろず屋に戻る。そしていつものように大きく伸びをして、「いやー、災難だったね」と、何事もなかったかのように普段の営業スマイルを浮かべて言った。


「「……店主さん!?!?」」

「てっ、店主さん、あんな強かったの!?」


あんな出来事の後に努めて普段と同じ調子なマホミルに、ようやく我を取り戻したクレア達が叫ぶ。怪我をしていることも忘れ、クレアはワゴンに飛びついた。


「えー、なんのことぉ?」

「なにが、じゃないよ! 店主さん、最後の技はなに!? あのでっかいビームをドガガガーって!!」

「もしかして店主さんがラスボス……?」

「んなわけ」


明らかに興味津々な様子。クレアはワゴンの中からじぃっとマホミルの後ろ姿を見つめている。それがどうにも背中を刺してくるので、マホミルはジト目で振り返る。


「…で、いつまでそこにいるつもりなの」

「……店主さん、強かった」

「すごく……すごかった!!どこで鍛えたんですか? ……むぐっ」

「はいはい出た出た」


言葉を少し送るなり、饒舌に話し出したクレアの首根っこ(?)を引っ捕まえて、ぽいとワゴンの外へ放り投げる。


「ワタシはか細く商売してるただの旅の商人だよぉ??」

「か弱い商人は魔法なんて使えないでしょ!ねえねえねえ、なんでそんなに強いの〜〜!?」

「ワタシが強いんじゃなくて、キミが弱すぎるんじゃないのー?」


そんなわけないもん!と可愛らしい膨れっ面で騒ぐクレア。冒険者のお姉さんも暴れこそしないが不満げだし、何か裏がある?と、訝しんでいる。そんな二人を見て満足げに喉を鳴らしたマホミルは、ワゴン横の木箱から人数分のポーションと金貨を数枚取り出した。


「はい、口止め料。接戦の末にクレアが勝ったってことにしといて」

「……? なんで?」

「だって、口止めしないとキミ、あちこちに言って回るでしょ?ワタシが強いって」


地面に寝そべってバタバタと生きの良い四肢を遊ばせていたクレアは、そのセリフを聞いて起き上がる。意図するところがわからなかったからだ。先の戦いで負傷した上にマホミル側から無料でアイテムを貰えるならば貰うに越したことはないため、ポーションは受け取るが。マホミルは背後の崩れた灯台を指した。


「あんな遠くの建物壊せる力を持ってるかっこよくてカワイイ天才商人がいるって知られたら、ワタシはいろんな所へ引っ張りダコだよぉ〜!オマケにクエストにも駆り出されるかもじゃん?そーんな面倒なことはしたくないよー。結構前にも言ったけど、そもそもワタシはここに興味ないしー」

「そうなの?」

「店主さんのことだから、「ワタシってば、ちょー有名で忙しくて困っちゃうよぉ〜」とか言いそうだけどね」

「……言いそう」


営業スマイルを浮かべ、合わせた手をあざとく胸の前で組む。耳を垂れ下げておねだりムードを醸し出したマホミルは、小さく一人ごちる。


「……本来、アイツはここにいるはずじゃないからね。私みたいな余所者が何とかしないとだめなのよ。面倒だけどね」

「ん? 店主さん、何か言った?」

「んー、なにもー?それより口止めの話だけれど、テキトーにそれっぽい嘘で誤魔化してくれれば問題なし。突如暗黒竜が町に現れて、とても強くてビームとか撃ってきて建物バラバラになっちゃったー、って」

「んー……分かった! よく分かんないけど、わたしが倒したってことにすれば良いんでしょ?」

「そうそう、助かるわ〜」

「ねぇ、店主さん!」

「ん?なになに」



「弟子にしてください!」


「……は?」


マホミルは驚きのあまり、いつもの営業スマイルも忘れて絶句した。

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