マグ・メル
次回からは ほぼほぼ系なる予定だから…!(たぶん)
そうか、死んだのか。私は。
窒息死。
全てを理解するには時間がかかった。
手足(?)は問題なく動かせる。けど、何か物に触れようとしても、すり抜けてしまうようだ。
相変わらず施設内の壁中にはられた対魔力結界のせいで、魔力が分散してしまい、魔術等が一切使えなかったので、一度部屋から出て、固有魔術の‘操りの魔術’を使って結界の発信源と思われる機械をバレないぐわいに上手く破壊した。
固有魔術。それは特定の人物しか使用出来ない魔術の総称である。そして、それは生まれつきのものであり、あとから変えたり、会得したりすることは出来ない。私の場合は‘操りの魔術’だ。基本的に、できることは、術式を通じて物体に魔力を注ぎ込み、意のままに操ったり、物と物の位置を入れ替えたりといったところだ。応用すれば精神操作魔術としても使うことができたり、さらに極めれば天気さえも操れるとされるなど、術式次第では万物を操る可能性も秘めた魔術である。
結界を破壊出来たら、もう一度元いた部屋に戻る。帰ってくる最中に気付いたのだが、私がいた部屋は実験処理後室というらしい。入口のプレートにそう書かれていた。警備も不要と思われたのか…監視カメラの一つすらついてないのは少しおかしいと思ったが。
私は、‘私’が入っている培養槽の前に立った。もう一度確認してみるけど…やっぱり生きていないか…けど今なら精神操作魔術ではなく、ただの物体として操れるはず!
一体そこへんにあった荷物を操り、培養槽のガラスに勢いよく叩きつけた。カシャンっという比較的大きな音と共に、カプセル内にあったドロドロとした液体が出てきて、‘私’が液体にのってゆっくりと地面に落ちるように流れてきた。‘私’を一旦広い場所に移し、地面に術式を浮かび上がらせる。淡い光が部屋中に満ちた。
現在の魔法史において、死者の蘇生は不可能とされている。一般的な回復魔術は、核酸塩基の代替と細胞分裂によって成立しているため、生命活動が行われていない者には発動しないからだ。
しかし、マナが扱う操りの魔術は、核酸塩基の代替ではなく、組織細胞、そのものの代替を可能性にした。
組織細胞の代替が終わった後、またまた操りの魔術を使って、今度は‘私’に意識移して————噎せた。肺に液体が入り込んでいたようだ。全身が濡れて気持ち悪い。なんかヒリヒリする。痛い……それはそれとして、感覚が戻ってるってことは、魔術が無事成功したみたいね。とりあえず、普段より多めに回復魔術を使っておこう。
さて、次はここからの脱出を考えなくては。一応さっき一通り避難経路は確認しておいたけど、どうせセキュリティで一瞬でバレる。それに天文学的な可能性で脱出出来たとしても、また追われる身となる。そんなの二度とごめんだ。
不意に、籠の目に閉じ込めた過去が問いかけてくる。
…なぁマナ、思い出してみろ。この研究所でどれほどの屈辱を味わった?この世は地獄というのも、案外間違いではなかっただろ。この際アイツらに痛い思いをさせてやれよ。憎たらしいんだろ、この世が。自分達をこんな目に遭わせた残党どもが。自分を見捨てた世界が。
私から全てを奪ったこの世界
全部壊してやれ
そうだ、私は見捨てられた。世界に。
目は怒りの赤に染まった。
私は一度に多量の魔法陣を展開させ、今までの怒りという怒りをこれでもかというほど魔力を術式に込めて、ぶちのめした。建物は一瞬にして破壊された。否、破壊されたというより吹っ飛んだのほうが適切な表現だろう。轟音を立て爆裂術式と見間違えるほどの魔術に耐えられる建物などそうそうないのだ。
血と肉の焼ける匂いがする。
あっという間に辺りは火の海になった。
たまたま負傷して生きてた研究員に近づき、懐を掴んだ。
「何故、私達罪のない家族を襲ったのかしら?」
多分このとき私は狂気じみた顔をしていたのだと思う。幽霊でも見ているかという顔で、ソイツは言った。
「お、お前らマーリジェスト家は、約束の地を支配した覇王の末裔なんだ…ソイツは元々王の従者だったんだが、当時の王を暗殺し、そいつに代わって約束の地を、恐怖で支配した…。今の時代に王政なんて古すぎるだろ?沢山の者が革命を起こそうとしたが、結局ダメだった。そこで封印という方法が取られ、覇王は黄金の腕輪に封印された。しかし、黄金の腕輪を手にして力を得て、約束の地を、ましては全宇宙を支配しようとする奴がいたんだよ。それを魔術派の精神操作魔術が得意な奴ら調べた結果、そいつらはその封印された覇王に洗脳されてたっていうことがわかった。ただの洗脳じゃない。魔術にも魔法にも属さない、呪いの類いだ。自分の意志でそう選んだって錯覚されてたんだ。そしてお前らは、その洗脳対象に出来る唯一の一族なんだ。その中でも、マーリジェスト家の血が強いほど、目の黄色が濃ければ濃いほど、次代の覇王として選ばれやすいんだ。黄金の腕輪を手にする者がいる限り、覇王は再び現れる。お前らさえ死ねば、全宇宙が支配されることはない。だから、ウチの一族は代々、マーリジェスト家の撲滅を…グチャリ……
私は無意識にそいつの頭を握り潰していた。
現実を受け入れられず、これは何かの間違いなのだと思い込みたい程だった。勿論現実が変わる事は無いけれど。
それでもこれは夢なのだと…現実ではないのだと誰かに言って欲しかった。
「……嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!…私達が悪だったなんて…私達が生まれてくるべき存在じゃなかっただなんて!!!私はただ…家族と平和に暮らせれば…マジルテが幸せでいてくれたら、それでよかったのに!!!!」
一族に裏切り者がいる。
…ウチの家系において名前は重要なものとされ、代々占いにより決めることが義務づけられている。言霊による力というものは凄まじく、魔術を生業とする家系では特に、その後の人生に大きく関わってくるとされ、重宝されている。実際、詠唱や術式の魔術語だってその類いだ。特に、古代魔法において、名前は個人を特定する判別記号として使われていたという。だからこそ、まことの名前は隠されていた。
マナ・ミカエル・マーリジェスト
—私の名前。マナって名前は可愛くて好きだったし、ミドルネームも天使みたいで好きだったし、苗字もお父様とお母様とおんなじで嬉しかった。…けど、古い言葉でマナは魔力を意味する。魔術を生業とする家系なら、覇王の血筋を引いている家系なのであれば、あり得るかもしれない。私は非魔法生物のお母様似なのに魔力が多くて、お父様様似のはずのマジルテの魔力が少ないのはその事が関係しているのではないのか。…ずっと疑問に思ってた。なんで私はミカエルなのに、姉妹であるはずのマジルテの名前はルシファーとかではなくイヴなのか。そもそも、洗礼名は誕生日にちなんだ聖人に由来することが多いのだ。私の誕生日は11月。全くミカエルに接点がない。それも洗礼名は女性ならマリアとかグレイスとかだろ。何故わざわざミカエルにした。ソイツがルシファーだと仮定して、あえてマジルテではなく、死ぬために生まれてきた私を天秤と剣の大天使に仕立て上げることで、あの子が運命に抗えないようにし、あの子をとりこむために計画されたものなのではないのか?マーリジェストという名前も、洗脳できるという条件を満たすためのものでしかないのではないのか?
こんな運命あっていいはずがない。いいはずが…
世界の仕組みと自分達の運命に気づいてしまったからには、もう復讐の道を歩むしかないということに。
…お父様とお母様は捕まって
マジルテはたった7歳という若さで家族を皆殺しにされ、未来を奪われて
私の大事な人を2人も奪っておいて、あの子の人生をめちゃくちゃにしておいて、のうのうと生きてる奴がいる
水色の水面に、どす黒い墨を溶かした水滴が垂れたように、黒く、濁っていく。
打ち覆いで隠された瞳は、憎悪の赤に染まり、尚且つ冷たい光が宿っていた。
夜の木の葉が風でガサガサと、…まるで幽鬼でも迫っているかのように不気味に音をたてる。
いつもはうるさいだけのカラスの声が、今日だけはやけに悲しそうな音をしていた。
「……絶対に許さない…」
澄み渡る紺青の夜、小さな少女は虚言の堕天使となった。




