高慢かあるいは徒花【終】〜おやすみ、泡沫ドリーム〜
声も、姿も。ぼくが好きだったきみの全ては、支配の腕輪に歪められてしまった。
うそつき。誰にも邪魔させない、なんて。
今まさに、手元に輝く熒惑が。残酷なまでに忌まわしい、邪魔者そのものなのに。
「…ねえ、ルマ」
軋んだ身体を無理矢理動かして、彼女の頬にそっと手を添える。
「ナァニ?」
彼女はこてん、と小首をかしげた。姿は魔王みたいにおどろおどろしいのに、仕草はかつての小さな姿のままで。理知的で、聡明で、猫被りで、うそつきなくせに――時折見せるあどけなさが、狂おしいほどに、いとおしい。
「それ――もっとはやく、聞きたかったな」
今回は振り下ろせなかった、希望の大剣。ぼくはそれを召喚して、自らの胸を貫いた。
ぶしゅっ……。眼前で、鮮烈な赤が破裂する。ただでさえぼくの血で薄汚れていた手は、いよいよ一色に染まってしまった。
「……エ、ぱ、パチー、か?」
ルマは目を丸くする。何が起きたの、と言わんばかりに。
……ああ、そういえば、あの日。始めて出会ったあの日も、跳ね上がるように飛び起きて、そんな顔をしていたね。バツ印まみれのモニターを見上げたきみは、そんな顔を、していたね。
「パチーカ、パチーカ! ナンデ、ナンデ……!」
手元の魔法陣が高速回転を始めた。回復魔術が使えないなりに、なんとかしてぼくの傷を塞ごうとしているのだろう。しかし、ぼくには必要のないものだった。
「ナンデ、ネェ……ッ、ナンデ!? パチーカ……!!」
頭の中で、治さないで、と念じる。すると、ぼくの身体は彼の癒しを拒絶した。
助かろうとしないぼくを見て、ルマはますますうろたえた。さっきまで雄大だった声は、悲痛に震えている。威圧的だった大きな瞳から、涙がぽろぽろとこぼれている。その弱々しいさまに、壊れたノアで悲しげにうつむいていたきみの背中がオーバーラップした。
うん、やっぱり、そうだ。ぼくは――あの日の、ぼくは。
翳ったその表情を何とかしたくて、きみの背中を叩いたんだ。
ねえ、ルマ。
ぼくは、きみに笑ってほしかったから、きみの手をつかんだんだよ。
「ネェ、パチーカ! オネガイ、オネガイだから、ボクの魔術を受け入レテ!」
ぼくを受け入れて、も。
「イヤダ、イヤダヨォ!死んじゃヤダ、パチーカ!!」
死んじゃいやだ、も。
ぼくはずうっと、きみに願っていたんだよ。
意識が偏愛の毒に沈む中、重くなるまぶたを限界まで開き続けた。きみを、少しでも長く見ていたかったから。




