高慢あるいは徒花【ⅩⅩⅩⅩⅠ】〜さよなら、絶望的なハッピーエンドⅱ〜
ゆらゆらと燃える淡い青色の光に満たされた異空間の間。
まず最初に、名もなき絵画が燃えた。
次に、一本の彫刻刀が砕け散った。
最後に、紺青色のマントが真っ赤に染まった。
「ルマ、もう止めようよ!」
パチーカは刃毀れした片手剣でルマに応戦しながら、ルマの凶行を止めるため叫んだ。しかし、力を手に入れ万能感と高揚したルマには届かない。
連れ立った心強き戦友たちは、無限の力を戴冠した虚言の魔術師に消し飛ばされた。この異空の片隅に残ったのは、傷だらけのぼくと、未だ余裕綽々な彼女だけ。
王への道の先に、憎愛と孤独に囚われた化け物が立ちふさがった。容赦のない、熾烈な攻撃を仕掛けてくる。何度も相対したはずなのに、知らない形のビームが、茨が、ブラックホールがぼくを襲う。避けきれない。傷口が痛む。足がもつれる。手が震える。それでも、投げ出すわけにはいかない。「あれ」から、「彼女」を解放しなくてはならない。
「いたっ……!」
彼女の身体に一撃与えた代わりに、激しく撃ち出された魔力球をまともに食らってしまった。こんなところで終われないのに、終わりたくないのに。
(…ぼくは一体どこで間違えたんだろう)
以前のぼくは、困っている人を助けるのは、ごはんを食べて寝るぐらい当たり前のことだった。だから、いつもそうしてきた。溜まりに溜まった負の感情が押さえきれなくて、いつしか暴走するだけの化け物になった絵画の魔女も、心を拒んだ闇の物質の一族の紅い首魁も、何も知らず、だた破壊の神として生をうけた自分の片割れも…途中、道のりがどんなに険しいものになっても、終着点がどんなに悲惨なこととなっても、最終的には、いつだってそうして救ってきた。今回だって、そうやって救えると思った。
けど違った。
現実はそう簡単にはいかない。繰り返される旅路によりすり減った精神は、ぼくそのものを変えてしまった。もう、‘お人好しなヒーローのパチーカ’はどこにもいない。
「な〜んて顔してるんだい?せっかく力を手に入れたんだ!もっと全力で、ボクを楽しませてよ!」
(アァ、楽しいなぁ。やっと強くなれた。やっと力を手に入れた。パチーカともこんなに戦えてる。全部支配できる!全部、ぜ〜んぶボクのモノ…!)
激戦の末、パチーカがルマを斬り刻み、ルマのリフ・バリアが砕け散る。そのままルマにトドメをさそうとする。振りかざされた一筋の剣は、加速しながら剣が唸り牙を剥ぐ。ルマの目の前にパチーカと大剣が迫ってくるのが見えた。
(ドウシテ……なんでそんなにボクの邪魔をしようとするの!?なんで支配されてくれないの!せっかく支配してあげようとしてるのにナンデ!!ボクだけの物になってくれないんだよ!!)
この時、ルマの心中に渦巻いていたのは、パチーカを自分だけの物にしたいという強い執念だけだった。自分でも何故そこまでして彼に固執するのかわからない。ただ、彼が欲しかった。支配して、逃げられないように監禁して、決して自分から離れていかないように、ずっと自分の傍らに置いておきたい。二度と自分が独りになることのないように。
けれど今斬られてしまえばそれは叶わぬ夢となる。
長い年月、苦しい日々を重ね頑張ってきて、やっとここまで来たのに、結構自分はこんなところで独りで死ぬのか。
(…独り?…ソウカ、ボクはずっと独りだったのか。ヒトリボッチのままなのか…)
剣が空を切る音が耳につく。次にあるであろう衝撃に、ゆっくりと瞳を閉じた。
けれどいつまで経っても衝撃は来ない。逆に次に聞こえたのは左耳元、どっと壁を叩いた様な鈍い音だった。顔に微やかな風が吹き、次いで荒い呼吸音が聞こえた。ルマは恐る恐る瞳を開ける。
其処にはやるせない色を浮かべるパチーカがいた。振り下ろされた剣はルマの顔の前の左側の地面に突き刺さっていた。明確な意思を持って避けられたのが伺える。先程とは違う、ネイビーブルーの瞳にボクを映したソイツは、くしゃりと顔を歪ませ渇いた笑みを浮かべた。両手に握りこぶしを作り、体を震わせパチーカは涙を浮かべ、震えた声で言った。それは明らかな戦闘放棄だった。
「ぼくには君を…倒せない」
リンゴ酒と蛇の影でマホミルがブチギレてたのはそういうこと




