高慢あるいは徒花【ⅩⅩⅩⅢ】〜n回目の旅路Ⅳ〜
困っている人を助けるのは、ごはんを食べて寝るぐらい当たり前のことだった。だから、いつもそうしてきた。溜まりに溜まった負の感情が押さえきれなくて、いつしか暴走するだけの化け物になった絵画の魔女も、心を拒んだ闇の物質の一族の紅い首魁も、何も知らず、だた破壊の神として生をうけた自分の片割れも…途中、道のりがどんなに険しいものになっても、終着点がどんなに悲惨なこととなっても、最終的には、いつだってそうして救ってきた。
—今回だって、それで救えると思ったんだ。
「ナ〜ンテ顔してるんだぃ?」
無限の力を得た魔術師が、ふてぶてしく嘲笑する。そんなこと言われたって、自分はただポカンとするだけだった。
大剣の向こうに見たきみの瞳は、真っ赤に染まった血の色をしていた。鍔迫り合いの末に、防御魔術の魔法陣を弾き飛ばす。そうして大剣を振り下ろしても—彼女が戻ってくることはなかった。
グランティアとノアが空中に浮かぶ星型の穴に消えていくのを、皆で手を振った。空は変わらず爽やかな青の色をして、風も変わらず心地良くて。彼女がここに滞在したことを示すのは、ノアが墜落時に削れた土の痕跡だけ。それもいずれ雨風に当たり風化して、どこに堕ちたのかもわからなくなる。そうして、きみがいた痕跡も、きみの顔も、きみの声も、記憶の彼方へと消えていくのだろう。
—いやだなぁ
この期に及んで、ぼくはきみのいない明日を拒んだ。
本当は何もかもが嘘で、またイチからパーツ集めの旅が始まればいいのに。そんなありもしないことを考えながら、ぼくは皆と別れて帰路についた。
明くる日の朝。
ぼくはあの日食べ損ねたショートケーキの埋め合わせを買いに、ケーキ屋さんに足を運んだ。—しかし、ぼくは奇妙な感覚を覚えた。あの日買った特大サイズのショートケーキは、期間限定及び数量限定ものだったはず。そして、あの日はその期間の最後の日だった。もう既に売っているはずがないのだ。きっと、期間限定の日付を間違えていただけ。ぼくはそう自分を納得させた。せっかくの数量限定の激レアショートケーキ、どうせなら見晴らしのいい場所で食べよ。ぼくは早速外に出て、お気に入りの丘があるあの場所まで、足を運ばせた。そうしてしばらくの間歩いていると、カロンとシルビアに出くわした。
「何!?それは私が朝4時から並んで買い損ねた百年に一度数量限定で発売されるというあの幻の‘極上のショートケーキ’ではないか!?」
とても早口で何を言っているのか部分部分しか聞き取れなかったが、熱意は伝わった。朝4時から並んだのに買えなかったのが非常に滑稽で、面白くて、ぼくは自慢げにくるりと舞わった。
「あっ、もう売れ切れちゃってたんだ?数量限定のレアなケーキだから仕方ないね。まっ、あげないけど!」
そう言って、ぼくは全速力でダッシュで逃げた。
「きさまっ…、輪切りになりたいのか!?逃さんぞ!!」
「もう2人とも待ってよーー!!」
カロンがパチーカを、シルビアが二人を追いかけて走る。いつものように騒がしい日常だ。—こんなやり取り前にもしたような…、
その時、ぱあっと空が煌めいた。
「…え……、」
見覚えのある船が、見覚えのある船体のパーツを散らしながら堕ちていく。




