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虚言の堕天使  作者: みさこんどりあ
虚言の堕天使 一部 虚言〜そして虚構
37/61

高慢あるいは徒花【ⅩⅨ】〜紅き虐殺の天使と隻眼の白〜

今回は結構まじめにかいた


あの後、大王はともかく全員がシャーベットを食べ終わり、キスカは残った氷の器を下げていく。瞬間、氷に反射した自分の顔がきらりと映る。


その自分は『一つ目の化け物』の姿をしていた。


「ッウワァ゙アア゙ア゙!?」


心臓を鷲掴みにされたような衝撃がルマを襲い、思わず飛び退いてしまった。


「どうしたの?ルマ」

「イ…イヤ、実は器の氷に映った自分がオバケに見えちゃって……」


あの光景は一体なんだったのか。自分の顔をぺたぺたと触って確認してみるが、異形な姿になっているわけでもなく、あの化け物のような『赤い目』もしていないし、目の数が減っているわけでもなかった。と、ふとあることを思いつき、ルマを激怒プンプンモードに入った。


「ちょっと、エリア担当者!!今のはキミの仕業!?」

「あら、なんのことでしょう」

「しらばっくれるないでよ!今のはホーンテ◯ドタワーの演出で、どうせキミがやったんでしょ!」


キスカは一瞬考える素振りを見せたが、やがて開き直り口を開いた。


「ここはお化け屋敷。いついかなる時も油断をしてはならないということ、身を持って実感していただけたかしら」

「そーよそーよ!油断したアンタが悪いのよ!」


何食わぬ顔で容器を片付け続けるキスカと、追い打ちをかけてくるベルジュに、ルマは言葉を詰まらせるのだった。


「ついでに一つ、次のエリアのご忠告を。私が管轄するこの第三階層は、名付けるなら『氷鏡の万華鏡』、といったところでしょうか。無数の鏡に映る自身や仲間の姿をした‘何か’には、くれぐれもご用心を…」

「まあ!次のエリアの内容まで教えちゃうなんて、キスカちゃん優しい〜!!けどあまり他の人に優しくしてほしくないわ。なぜってキスカちゃんはアタシのキスカちゃんなのだから…!!」

「ベルジュさん、そんなことわかってますよ。このお勤めが終わったら、二人でドリームランドでも旅行しましょうか」

「キャー嬉しい!約束よ!!」


イチャイチャ…イチャイチャ…


「…ワーオ、なんかピンクのオーラ出し始めちゃってるよあの人たち」

「もう何も聞こえてなさそうですね。邪魔するのも悪いですし、ぼくたちは先に進みましょうか…」




✳ ✳ ✳ ✳




—X年前


朽ち果て人のいなくなった神殿の中を、一人進んでいく。神殿の中は足場が悪く、辺りに崩れ落ちた建物の石の破片が散乱していた。人が入ったことで、ほこりを含む白い砂ぼこりが舞う。白い倒れた柱に手を置きつつ、この遺跡に出向いた人物—カロンは限られた足場の中を進んでいく。


しばらく歩いていると、少し開けた場所に出た。その中央には、天使の石像が一つ、置かれていた。穴が空いた天井から光が差し込み、ほこりに反射してキラキラと光る。白い翼に、頭には天使の輪っかが。台座を含めればかなり大きいが、天使自体は自分とあまり変わらないどころか、少し小さく感じられるそれ。忘れ去られた神殿に残されたそれは、神秘的な空気を纏っていた。


「お美しいでしょう」


突然、後ろから声が聞こえた。ふと振り返ると、そこには一人の男がいた。足が無い。亡霊なのか。体が透け、ローブは決まった形を持たずゆらゆらと揺らいでいる。外見的には、自分より幼いぐらいだと思う。紺色のローブを身に纏った、水色の髪をした騎士。左目が常に髪で隠れている。肌は青白くて彩度が低く、顔色が悪い—という以前に既に死んでるのか、とカロンは一人で思った。上衣とスカート部分が繋がった黒い服を着ており、腰の灰色の包帯にランスが刺さっている。


「天使様がいらしたのですよ」

「其方は……」

「ここら遺跡を守る者。貴方がたの敵ではありません」


その亡霊は天使の石像のほうに足を進めながら話を続けた。


「この辺りは全て神殿の跡地です。天使様の石像もその神殿に祀られていたものなんですよ」


亡霊は天使の石像前で立ち止まり、懐かしむように手を当てた。黒い瞳は、少しどこか切ないような、懐かしむような、悲しいようにも映って見えた。


「この辺りで昔、流行り病があったことはご存じですか?」

「…ああ、先程通ってきた道に石碑があった。『ここで死する者全ての魂を天使に捧げる』と」

「ええ、かの天使は病に苦しむこの地に舞い降り、病と共にこの地を去りました」


少ししてからその亡霊はこちらに振り向き、笑みを浮かべた。


「どうぞ旅人さんも祈っていってください。きっと天使様のご加護がありますよ」


「…それにしても、貴方の‘赤い瞳’はかの天使様によく似ている。不思議な縁もあったものですね」

(…やはりそうか)



「ここら一帯に関する歴史書は見つからなかった。焚書されたか…あるいは、記録に残せる人間がいなかったのか」


白い悪魔—ラピスラズリは言葉を続けた。カロンの戦友であり星の化身である彼女。


「これ見てみて」


ラピスラズリはカロンに一冊の本を差し出した。本といってもそこまで厚くなく、表紙のイラストをみる限りこれは…


「絵本…?」

「子供向け絵本の一節なんだけど…口伝で語り継がれた伝承が、後の世で記されたものみたいなんだ」


「亡霊の彼の話は、殺戮の天使の跡を流行り病に置き換えたもの。‘一つ目の化け物’、この表現は‘アイツら’のことでたぶん間違えない。最後に現れた天使が化け物を連れて行くけど、これは人間にとって都合の良い解釈だろうね」

「彼は本気で流行り病のせいだと思っていたようだが…」

「自身を騙し続けると、何が本当かもわからなくなるものなんだよ」



いつものように森で薪を拾い、丁度家に帰るところだった。


「最悪だ、こんな大雨になるなんて!…あ、あそこに建物が」


突然の雨に降られ、僕は近くにあった神殿跡で雨宿りをすることにした。

ふと、あの建物には『一つ目の化け物が住み着いている』という噂を思い出し、一瞬神殿のほうへ歩む足を止めたが、僕は両手に薪を抱えながら神殿の中へと進んだ。


神殿の中は光が遮られ、静寂と闇に包まれている。


(誰も…いない)


突如、どこからともなく歌が聞こえてきた。明るいのに、どこか悲しい旋律。僕は歌が聞こえてきたほうへと進んでいった。


「♪〜♫♪〜♫♪♪♪…」


そこにいたのだ。かの‘天使’様が。


白い髪に白いローブ、大きな純白の翼を持った赤い目の、女の人の天使。酷くシンプルな白いワンピースに、頭には天使の輪っかが浮かんでいた。


石でできた台座を椅子代わりにし歌を歌っていたその人は僕に気づき、にこりとこちらに微笑みを浮かべる。僕はしばらく唖然としていたが、我に返り怖くなって慌てて逃げ出した。


「わっ!ご、ごめんなさい!お邪魔しました!!」

「出ていっちゃうの?外大雨だよ?」


かの天使様は、一人で外に走っていこうとした僕を呼び止め、何かと思うと手をひらひらとしてこちらに手招きをした。僕は振り返り、もう一度天使様のほうを見直す。


(一つ目の化け物…じゃない)



雨が降り日が沈んで冷えてきたため、僕は持ってきた薪を燃して暖を取った。一方、天使様はというと、僕が火を焚く様子を不思議そうに見ていた。


「僕、薪を拾いに来てたんだ」

「まき?」

「えっと…木の枝だよ。こうやって、暖炉やかまどに入れるやつ」

「へぇー、こんなの集めなきゃ生きていけないなんて、人間て不便だね。僕も今度、暖炉を置いてみよっかな」

(ここに…?)


天使様はそう言いながら、僕が拾ってきて木の枝を片手に見つめていた。


「…えっと、天使さまは」

「僕が天使だって?…うん、天使でいいよ」


天使様は一瞬考える素振りを見せたが、開き直って微笑みを浮かべた。


「天使さまは体を温めたりご飯を食べたりしないの?」

「必要ないよ。天使だからね」

「天使さまはここに住んでるの?」

「今だけね」

「一緒に住んでる人はいないの?」

「いるよ、一人ね」


天使様はその人を恋い親しむかのように、上を向いて言った。


「家族みたいなもの、かな」


それが恋情なのか、単なる尊厳なのか、‘姉妹愛’なのか僕にはわからなかったが、きっと大切な人なんだろうなと、僕は思った。


「優しい人だよ」

「その人は今どこにいるの?ここにいるの?」

「僕が町でいじめられたから、怒って出ていっちゃった」

「町にそんな悪い奴なんて…!」

「そう思うのは、きっと君が人間だからだよ」


天使様は自分が羽織っていたローブを脱ぎ、優しく僕に着せた。手つきは優しいのに、鬼迫るような気配を—何故か本能的な恐怖を感じた。僕は段々怖くなってきた。


「さぁ、今夜は冷えるからね」

「…天使さま」


「…さっきはなにを歌っていたの……?」

「そうだね…」


赤い瞳が—否、黒く塗りつぶされた瞳が、赤く染まっていくのに、僕は気付かなかった。


「安らかな眠りを願う歌かな」



気付けば朝になっていて、一晩中守ってくれた神殿には誰の姿もなかった。

朝際の冷えと孤独が恐ろしくなって、慌てて家に走って帰ったのを憶えている。




私を迎えたのは酷く静かな町だった。








ロゼリー「は、はくちッ!!」

セノ「どうした、今度はお前が風邪なのか?」

ロゼリー「いや今絶対誰かが僕のことウワサしてるってぇ」



キャラ設定


・亡霊の騎士

名前:陰火青火

種族:怪異>亡霊>地縛霊

解説:どこかの神殿にいる幽霊騎士。天使像を守り続けてX年。自分がとっくに死んでいるのに気付いていない。幼少期の天使にあった頃は生きてる。幼少期に1回だけあった天使に永遠に囚われ続けてる男。正直、某天使の方はというと出会った人間の一人なんて覚えていないと思う。あの時逃げ出して街の人と同じ末路を歩むのと、天使の気まぐれによって永遠に囚われ続けるの、どっちが彼にとって幸せだったのだろうか。実際、天使様は天使でもなんでもない。



余談:後半の話は、暗月の星の一話に投稿する予定だったものである。

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