高慢あるいは徒花【Ⅻ】〜お化け屋敷攻略〜
ところがまだこれも予兆にすぎなかった。ゴゴゴゴゴと地響きの様な音が周囲に響き渡る。その音は通路の向こう側から、徐々にこちら側へ近づいてきているように思えた。様々なオバケに扮した人達が、大群を成して走ってくる恐怖の音であった。
「ウソォーーー!!!!早く逃げ…」
逃げようとしたのとほぼ同時に一体のゾンビに足を捕まれ、身動きが取れない。焦りと恐怖で背筋が冷つく。その間に様々なオバケが寄って集って次々へとルマにくらいついていった。
「イヤァァァーーー!!!!!」
単体では非力なオバケ達も、群を成せばとてつもない力になる。ベルトを掴まれマントを引っ張られ、頭に乗られる。もはやどんなに藻掻いても自力では脱出不可能なほどに抑え込まれてしまった。それだけでも十分恐怖なのだが、至近距離で見るオバケ達はそのリアリティも相まって、衣装の数々がとにかく怖すぎる。フランケンシュタイン、ジェイソン、四つん這いの女、首の無いマネキン、貞子、とあるお屋敷の鬼畜妹吸血鬼、デーモンな閣下、某ファーストフード店のピエロ、青鬼、etc…
マジで泡吐いて失神してしまいそうだ。
「こらーー!ルマから離れろー!!」
「ルマ、しっかりしろ!今助けてやるからな」
パチーカ達がルマを助けに入り、オバケの山からルマを引っ張り出そうと試みる。オバケ達も離さんといかんばかりにルマを引っ張る。ついには、綱引きならぬルマ引きにまで発展した。
「「ういしょ!よいしょ!」」
「「「「「そーれ!!よいしょ!!こらしょ!!」」」」」
「ギャーーーー!!!痛い゛痛い゛痛い゛千切れる!!ボク千切れるってえええ!!!」
だったの5人で大勢のオバケ達と張り合っているのは凄いが、それだけルマの苦痛も非常に長引いている。
イタイ゙イタイ゙イタイ゙、これ以上続けられれば本当に真っ二つになってしまうかもしれない。はっ、はやく、この小説がR‐18G指定のグロい作品になる前に、全年齢対象のままでも【見せられないよ!】の展開になる前にハヤク、もうどっちが勝ってもいいから早くこの対決を終わらせてくれヨォーーー!
「このままじゃラチが明けねぇ。せーので一気に引っ張るぞ!」
「せーの!」
「「わ〜〜〜!!??」」
大王の号令で力を一点に集中させた4人は、ついにルマを引っこ抜くことに成功。勢い余って吹っ飛ばされたオバケ達は、びっくりして散り散りになって逃げていった。ようやく、ルマリンチタイムは終了したのだった。
「ルマ大丈夫?ちぎれてふたりになったりしてない?」
「千切れてないケド身長は伸びたかもね…」
「これで少しは反省したか?」
「エッ誰!?」
パチーカに背中をさすってもらっていたところ、不意に誰かの声がした。大王でもアテナでもカロンでもない。アトラクションの入口の所にいた部分金髪おかっぱだった。確か名前は、えっと…
「パルーザ・パルムスイート!!」
「違う!私は人工甘味料でもアイスクリームでもないわ!…まぁいい、私の名前など取りに足りない話だ。それよりお前ハイリン様のこと趣味ワルとぬかしただろう!どうやら本当に八つ裂きになりたいようだな?」
「マダ人生ヲ謳歌シタイデス…。」
首元に食い込みそうなほど三又槍を突きつけられ、ルマは今度こそ命の危機を感じた。ルマは弱々しい声で乞いの言葉を連呼するしかなかった。
「……ふんっ、もう次はないぞ」
そう言ってパルーザは槍を収め、「アトラクションを中断して悪かったな」と言い残し、その場をあとにした。その後もエリア1の探索は続いたが、パルーザを超える恐怖はなかったという。




