高慢かあるいは徒花【 Ⅰ 】〜主人公敗北if〜
広い銀河の中、どちらかといったら端っこの方。小さくて、けれどキラリと優しい煌めきを持つ、平和な星。人工の理想郷があった。
ここは、その中でも群を抜いて穏やかなで、むしろ呆れるほど平和な国ドリームランド。
―それは、一つの世界線、小さな星で起きた些細な異変から始まった
いつもと変わらないぽかぽかとした春の陽気。
その中を優雅に飛ぶ真っ黒の死の色を映した黒揚羽蝶を目尻に、喧しく3つの影が走り回る。
「コラーーーーー!!!私のケーキを返せぇ!!」
「や〜だよーー」
「…二人とも……それ、元々私が買ってきたやつだからね…」
ショートケーキを高々と頭上に抱えたパチーカを先頭に、激怒して剣を振り回しながら追いかけるカロン、そして一番後ろから呆れた様子で二人を追いかける、魔女の妹、シルビア・ペインティアこと通称シルビアの三人組は小さな丘へと続く道を駆け登る。これからも永遠と続くであろう、一人の犠牲によって払われた暖かな春の陽だまり。
実に長閑な一日だ
原っぱで寝ていたはずが、いつの間にかそんな三人の様子をぼーっと眺めていたクレイはふと思った。
というものの、‘呆れるほど平和’が二つ名のはずなのに、今まで「この星を我が手に…」とか「全て無に返してくれよう」とか、なんやかんやで矢鱈と侵略してくる輩がいたものの、最近はまさに平穏そのもので、穏やかなな日々が続いているからだ。春の陽気に誘われて、つい、うとうととしてしまっている自分がいる。正直、このところ平和続きで少々退屈なところである。
…まぁ、平和が一番なんだけどな
異変解決するのも面倒くさいし…。
そう言えば、妹のクレアは元気だろうか。アイツ、スランプになると周りが見えなくなって、急に性格荒くなるところあるから不安なんだよなぁ。
そんな事を考えていた丁度その時だった。上空から、眩い光が発せられたのは。
「…?」
暖かい太陽の光とか違う純白の光に目を瞬かせ、のんびりと空を仰ぎ見た。
「ん…?何あれ」
どうやら、のんびりしている場合ではなかったらしい。
ヴゥゥン、と低い音を立てて空高くの空間歪むと、そこから白と青の優しい空色をした船が現れた。
要するに、船が不時着してきたのである。
煙と煌めきを放ち、船の部品らしき物が煌めきを放ちながらボロボロと溢れ、向こうの原っぱへと徐々に高度を下げていく。
「あれ?」
突然、ケーキを抱えて走り回っていたパチーカが足を止め、そこに勢い余ってカロンが勢い良く衝突し、苺のショートケーキは蟻への豪華なご馳走に早変わりした。なお、シルビアは二人の少し後ろを走っていた為ぶつかる事はなかった。
「ああ゙私のケーキがぁあ」
カロンがパチーカに詰め寄る。
自分のおやつが文字通り巻き込み事件によって、蟻のおやつになってしまったシルビアは未だに恨めしげに、少しずつ黒くなっていく物体を見つめていた。(尚、新しく絵で実体化させれば良いのだが、それに気付いていない)
「私のケーキ…」
「そもそも、何故急に止まったんだ!」
「ほらあれ」
そう言って、パチーカは手を空に向け、船の方を指を差した。
その光景に一同が唖然としていた。
口にはしていないものの、居合わせた全員、直感的に何かとんでもないものに遭遇している事を確信していた。
「あれは一体?」
空を向いたまま大口を開けているシルビアとパチーカを、カロンは先程とは打って変わった表情で促した。
「行くぞ」
シルビアとパチーカはこくりと頷き、カロンを先頭に原っぱの方へ、落ちていく船を追っていった。
一方
原っぱでぼーっとしてたら急にこっちに向かって船が墜落してきて、このままだと潰されそうなクレイ。おせんべいみたいにぺちゃんこになるもんかと必死に逃げた
らギリギリ間に合った
「え〜、潰されたほうが面白かったのに〜」
「心配しろや(怒)」
「それよりさ、ヤバくない…?」
そこには空色をした船がありありと地面に埋もれていた。
船は墜落までに前後左右、おまけに上下に激しくふりまわされたようで、船内は混沌…はっきり言って散らかっていた。
だか、刹那、そんな事に気を取られている場合ではなくなった。
船内の更に奥の方、大画面のスクリーンが点滅しており、その手前にヒトが倒れていたのだ。
地面に黄色味がかった茶色い髪が垂れる。青いフード付きの白いマントを羽織っており、青、黄色の線が入った猫耳の様なものがあった。
―ここらの星では見ない格好だ
「ねぇ、きみ大丈夫?しっかりして」
慌ててパチーカがそのヒトに駆け寄った。気を失っているそのヒトは、多分、15~16歳ぐらいだと思う。揺さぶるとうぅん、と一つ愛らしい声を零し、その後ゆっくりと琥珀色の瞼を開けた。
「…ココは……?
!!
キミたちはダレ!?
!!
アッ、ソウダ、ノア!!
ノア大丈夫!?」
自己紹介しようとしたところでそのヒトは「大変!」と、ビクンと跳ね上がり、パチーカをそっちのけ、パネルを荒々しく操作する。
「…」
ポチポチとパネルをいじった後、ピロリン、とおよそその場に似つかわしくない効果音を立てて、今の船の現状を表すデータであろうものが、スクリーンに表示された。
『0/127』
「!!」
そのヒトの目が縦に大きく見開かれる。琥珀色の瞳が、零れ落ちてしまいそうなほど。完全にフリーズしてしまっているのか、パチーカ達も何も話さない沈黙が続いた。少し経ってやっとハッ、と我に返ったそのヒトは恐る恐るな様子で別のパネルを押す。すると、今度はこの船であろう図が画面いっぱいに広がり、それにバツ印がつけられていく。多分、この船は全ての部品がなくなってしまった事を表しているのだろう。
―つまり、この船は壊れてしまったということだ
「あぁ、ノア…!
ボクのせいで、ゴメンネ…」
身体を丸め、床に視線を落としてしまったそのヒトに、シルビアはたまりかけて声をかけた。
「あの〜…
あなたは一体…?」
そこでまた、ハッ、と視線を上げた。
「!!
ゴメンナサイ!!
ボク船の事で頭がいっぱいデ…
エエット、助けてくれてアリガトウ。ボクはルマってイウンダ」
来訪者は自分の胸に手を当て、自身の紹介をした。
「よろしくね、ルマ。私はシルビア、絵画の付喪神」
ちら、と隣にいる人物見る。
ハァと大きなため息を一つ吐き出し、続けて挨拶をする。
「俺はクレイ」
その陰からスッと姿を現した。
「カロンだ」
最後は一歩踏み出し、ピンクと青の可愛らしい子が、手を差し伸べながら笑顔で自己紹介を始めた。
「ぼくはパチーカ、よろしくね。
ねぇ、ルマ。一体何があったの?いきなり空から船が墜落してきたから、ぼくたち慌てて見に来たんだけど…」
各々の自己紹介が終わったところで、パチーカは改めてルマに聞いた。
―そうだったのか
随分と長い間気を失っていた気がしたが、まさかノアが墜落していたとは。それでパーツが全部なくなってしまったのか。
一人納得しながらルマは刻々とパチーカの問いに答え始めた。
「この船はノア。ドウヤラ船のパーツが全部なくなって、墜落しちゃったミタイなんダ…。パーツがアチコチに散らばっちゃったミタイデ…ドウシヨウこれじゃあ、おウチに帰れないヨォ…」
「じゃあ、ぼくが船を直してあげるよ」
「エッ!?イイノ?アリガトウ!!」
「もちろん、みんなも手伝ってくれるよね?」
ちらっ、と隣にいる人物達を見た。
「うん、もちろん♪」
「じゃ、俺も」
「…全く、仕方がないな」
そして、突如空から墜落してきたルマの船、ノアのパーツ集めの旅が始まった。
『パーツなんて集めなきゃ良かったのに…』
記憶の傍観者は誰にも届く事ない独り言を吐いた。
高慢⋯自分の容姿や能力が優れていると思い込み、他人を見下す事。傲慢。
徒花⋯咲いても実をつけない花、または、儚い花の事。比喩的な意味では、物事の本質が見た目騙しで外見と釣り合っていない事や、一時的な成功や栄光などすぐに終わってしまう儚い様子の事を意味する。
これが何を意味するか
おまけ↓ 没組の皆さん
「実は、この中に我が隠れておるぞ!探してみるが良い」
「君そんなキャラだっけ。
そもそも、殆ど僕達の情報出てないのにそんな言ったらダメでしょ…」
「完成された者達への干渉は禁じられております。どうかお引き返りを…
従わない場合、武力行使させていただきます」
「何急にかっこつけてんのソド」
「いやなんか言ってみたくて…」
「お主こそ何やってるんじゃ…」