これは私じゃない誰かでやった、私の意思【Ⅱ】
「どうやら、チェックメイトのようね…」
あの時と姿が重なる。同じ宇宙色の瞳。あの子もこの景色を見ていたんだろうな。
なんとか上体だけ起こしたパチーカは、マホミルを睨めつけた。彼等をここまで陥れたのは、彼女が繰り出した『ブラック・ホール』という広範囲に及ぶ火力に特化した攻撃魔術だ。その名の通り、魔法陣の範囲に入ったありとあらゆるものを吸い込む一般攻撃魔術の一級の技の一つ。逃げる暇さえ与えられず吸い込まれたパチーカ達は、膨大な魔力が渦巻く空間で防ぎようのない程禍々しく、刃物の様な魔力で傷を負わされた。作り出した個人空間は絶えなく相手を刻み付け、『ホワイト・ホール』と唱えると同士に、空間に穴が空き地面に放り出された。しかし、魔術の威力や自身の状態よりも彼女に聞きたい事があった。
「…なんで……こんなこと…したの…?…全部嘘だったの…?一緒に過ごした…思い出も…全部……」
躰を庇う様に起き上がったパチーカは問いかける。弱々しい声だったが彼女には聞こえたらしく、ニヤニヤと微笑っていた。
「答えてよ!!」
荒い息を上げながら叫んだパチーカの心は、戸惑いと不安が混ざっていた。
横向きに生えたキル・ニードルの針に座り、冷淡で殺意の籠もった冷たい目で見下ろす。彼女はゆっくりと口を開いた。
□
魔法の様な嘘吐いてあげる 空の色した嘘吐いてあげる
幾つだって
魔法の様な嘘吐いてあげる 君の好きな色の嘘をあげる
何度だって
優しい夢を知りながら 何故どうして
その目を開けてしまったの?
君の好きな空の色は変わってしまうけど、ボクのあげる嘘の色はずっと変わらないよ。だから認めてよ。友達として認めてよ。
…きっとあの子は、そう思ってたんだろうな……
青い光で満たされた空間。遠くで淡い蒼色の炎が揺らぐ。そこらに転がっている4つの死体は、かつての友達のものだ。もう動かなくなったそれのフードを、両手で掴む。フードを掴んだ両手は、小さく震えていた。まるで、今にも泣き出しそうな小さな子供の様に。
「…オイ、起きろヨ」
ああ…あの時を同じだ
□
「何回も言わせないでよ。もうネタバラシしてやったでしょう?全部嘘に決まって「そんな訳ない!!全部嘘だったとしても、思い出までは嘘にならないよ!」
「……バッカみたい
昔アンタと同じようなヤツがいてさ、ソイツも同じような事言って、結局は死んでいった。
私に殺されてね」
殺意を演じた冷たい殺意の籠もった瞳。手元に魔法陣が現れ、たっぷりと魔力を溜め込むとそこに紫色の稲妻がバチバチと音を立てながら集まり、その右手に魔力球が現れる。魔力球に魔力が集まるのを感じる。恐らく、今までのどんな攻撃よりも強力だろう。パチーカにはもう抵抗する力は残っていない。
「…本当にそっくりだよ。バカな所まで」
■
「私、君達の事知ってたんだ」
いつものように皆で昼食を食べている時だった。マホミルが実はパチーカの事を以前から知っていたのだと話し出した。以前あの子が話していたのと同じ様に。
「君達ってとっても有名人なんだよ」
後でサインでも貰っちゃおっかな、と言葉を続けたマホミル。だかその言葉にカロンは黙ってはいなかった。
「私のは…?」
「…え?」
ズイッとマホミルに詰め寄り、そんな事を呟くカロン。勿論マホミルは因惑する。ナルシストかお前は!?とマホミルは心の中で呟い…いや、叫んだ。世間話みたいに話してただけなのに、突然話に入ってきたのだから驚いて当然だった。
「私のサインは要らないのか?」
「え、えーっと……」
要らねぇわよ、とは口が裂けても言えない。そもそもパチーカにサインを貰おうなんてのも社交辞令だ。(まぁ、パチーカに社交辞令なんてものは通用しなのだけど)何とか話をそらすために何か別事を話さないと。
「まぁ、それはともかく…?…ワタシがここに来る前の話でもしよっかな。実はワタシ、前にこの星に来た事があるんだ。フロラリアのほうだけど」
「それは本当か!?」
「? うん。そうだけど…」
(偵察先の情報を知っているのは当たり前として、まさか訪れた事まであったとは…しかもフロラリア)
―天空の花の都フロラリア。この星の上空に存在するとされる浮遊大陸。虫の民と花の民が住まう花園。ドリームランドとフロラリアとの交流は途絶えており、そもそも上空にある為、殆ど訪れる者も居らず、そもそも存在自体を知ってる者も限られている。独身の文明が広がる未開の地。
「とっても素敵な所だったよ。一応ドリームランドの方にも来た事はあるんだけど、少し前だったからか分からないんだけど、ワタシが来た時はボロッボロだったんだ。…今は見違えるほど綺麗だよねぇ」
(この星は昔からずっと変わってないが…?)
おまけ:NGシーンPart2(出演:マホミル、カロン)
「どうやら、チェックアウトのようね…」
「それを言うならチェックメイトだ…」
「あ゙……。こっ、これはッ、その…今のは、ほらっ…アレよっ!この‘戦い’という部屋からチェックアウトする的な…そんな感じのアレよっ!!」
「誤魔化し方が強引では…?」
「五月蝿いわね!!とにかくアレよっ!…えーっと……ルームメイトよっ!!」
「チェックメイトでは…?」
その後色々話し合って、なんか悪い敵幹部じゃないっぽいので、本当にルームメイトになりました。いや、こんなこと、本当にあるんですね〜
「おせんべいおかわりー」
おまけ さっきの続きのやつ:1話の同一人物について
「少し食べ過ぎじゃないか?何枚目だそれ」
「えー、だってこの体太らないんだもん。本当に使い勝手が良くて助かるわねー」
「誰かからその体を奪い取った様な言い分だな」
「…間違ってはないわ。それにこれは自分の…マナの死体だって前言ったでしょうに」
「其方がマナなのではないのか?」
「マナはあの時、あの場所で死んだの。私は‘あくま’でマホミルであって、もうマナではないのよ」
ふと、手のひらいっぱいに広がった痣を見つめた。
あの子を救えなかった私は…
もうそう名乗る資格もない
それが運命だったとしてもね
ただの憎悪と執着だけで
今も現世に留まっている
怨霊なのだから
死後は生前の続きではない
あの日の続きは来ない