これは私じゃない誰かでやった、私の意思
「まさか、こーんなに早くバレちゃうなんて、思ってもいなかったわ!」
上空に浮き上がり、黒い笑みを浮かべた。真っ黒な服と、夜の色に染まった翼が顕になる。
「…嘘、よね…?」
「…何言ってんの?もうネタバラシしてやったじゃない。私は最初からコッチ側」
酷く冷たい顔で言った。背筋が凍り付くような鋭い目付き。残念ながら、私の本性は最初から何処にもなかったの。全て違う誰かを演じていただけ。貴方達が知ってるマホミルは、ただの虚構の人格。最初から何処にも存在してなかったのよ。今も素ではない。
「…ひどいわ!ずっと私達の事騙してたのね!」
「騙す?人聞きの悪い。私は最初から誰の味方でもないわ。アンタ達が勝手に信じてただけじゃないの?」
「まぁ、知ってしまったからには此方側に来てもらわないと、ね…」
黒い笑みを浮かべ、相手を罵るように嘲笑う。私と貴方達との位置では結構の高低差があるから、自然とそう見えるけれど、そんな訳ではなく、本当に相手を冷たく見下した。これは誰の笑みだったのか。そして、発した言葉も相手を見下していた。そう、私は最初から誰の味方でもない。私は私の為だけに動く。ただの自己満足だって分かってる。でも私はあの子を救いたかった。自分の事なんてどうでもいい。あの子を独りにさせたアイツが許せなかった。ただそれだけ。他に理由なんていらない。その為ならなんだって…
「!?」
「何処よそ見をしている?」
剣が飛んできた所をギリギリで躱し、直撃は免れたがフードの布が少し切れてしまった。マナの形見が…!。少し思考が引っ張られてしまった。反射的に避けなければ正直危なかった。そうだった。コイツは強いんだっけ。けど、この話昔何処かで聞いたことが…
「あらごめんなさい。少し考え事をしてたわ
…さあ、改めて始めましょうか…。円舞曲を」
□
「燐火の迎え火!」
淡い青色に燃える炎の球の雨が、次々と上空から降る。マホミルは上空から一方的に攻撃を続けた。
「ガーゴイルの件で、貴方達に上空の敵への対抗手段がないのは確認済み。…さあ、どうする?」
貼り付けの笑みを浮かべた。そう、あのガーゴイルは魔物なんかじゃない。ただの石の石像。私が遠隔で操ってただけ。全部自作自演だったのよ。流石にホース使うとは思ってなくて、集中力途切れて終わったけど…。警戒するのはあの堕星者の剣士だけでいい。
「このままでは一方的に体力を削られて終わる!此処は我が…「そうはさせないわ!」
手元に魔法陣が現れ下に手を振り翳すと、上から勢いよく強風が吹いた。
「これでは飛べぬ!」
「風も操れるのか!?」
カロンが苦情の表情を浮かべた。
「いいえ、正確には操作系の魔術で空気中の分子を利用して、空気の流れを作ってるだけ。魔術は万能ではない。そう何でもかんでも出来る訳じゃないわ」
「…随分と口が軽い様だな……」
「そうねぇ…。私は貴方達の事なめてるから」
ニコッと偽りの笑顔を浮かべ、微笑みながら言った。これは誰の言葉だったんだろう。やっぱり、複数の人格を混ぜ合わせて自分の分かってることまでぼかすと、どうしても情緒が安定しない。
「仕方ないわね。このまま一方的に攻めるのも面白くないから、降りてきてあげる」
上空から一気に急降下し、一瞬で目の先まで迫る。貴方達は突然の事に目を丸くして驚きながら、咄嗟に身を構えた。
「これなら当てやすいでしょ?」
「お前正気か…?」
「ええ、正気よ。
…何?文句があるなら傷一つぐらいつけてみなさいよ」
「なら遠慮なく…「!?」行かせて貰うね!!」
突如背後から何者かが声をあげ、マホミルに剣を振り下ろす。そのままマホミルの肩に直撃した。マホミルに一撃を与えたのは、パチーカだった。傷口から赤黒い血が垂れる。マホミルは抵抗的な目線でパチーカを見つめた。
(クッソ…)
反応が遅れてマジックバリアが間に合わなかった。一応ダメージが大きい場所は避けたけど…
ちなみに調子に乗るとボロが出るのは、マホミルとマホミルの言うあの子の悪い癖でもある。
転移バニッシュで一体体制を持ち直す為に上空に逃げる。早く回復魔術を…
「そうはさせぬ
ダークエナジーソード!」
ツルギは闇から6つの剣を形成し、マホミルに向かって飛ばした。
(チッ、これじゃ回復する暇もないわね…。…まあ、それくらいで…)
手を軽くクロスし、一体手を引いて斜め下に手を運ぶ。すると、地面に辺り一帯を覆い尽くすような巨大な魔法陣が現れた。
「私の体はくたばる様にはできてないけど!」
そのまま手を上に突き上げた。その瞬間無数の鋭い巨大な針が勢いよく不規則に地面から飛び出し、辺り一帯を地獄絵図と化す。
「避けろ!!」
ツルギときなこは飛んで回避したが、他の者は飛ぶことがない。パチーカ達は次々と襲いかかる自分の何倍もある針を掻い潜るように避ける。
「みんな!キャンバスの後ろへ…!」
シルビアが針の影になって見えなくなった場所で、キャンバスの後ろに皆を避難させた。相手にバレないように息を殺す。
(この攻撃、前に見た事がある…)
ふと独りカロンは思った。
■
―数百年前
「キル・ニードル!」
その時は本当に終わったと思った。ある、星々の破壊を繰り返す魔女が使っていた魔法。私が負けた二人の内の一人。緑色の髪に、紫と白のローブが揺れる。まさに悪魔のよう…いや、悪魔そのものだった。リフ・バリアの完全なる鉄壁防御に、圧倒的な魔力と力量で押し潰す創造の魔法。あやつが通った後は血の雨が降る。比喩などではなく本当に血の雨が降る。魚の鰭の様な耳に、描いたもの全てを実体化させる魔法の絵筆。真っ赤な瞳には、狂気的な嫉妬が宿っていた。あやつはこう呼ばれ、恐れられてきた。絵画の魔女…と。
「カロン!大丈夫か!?」
「ああ…」
「…」
「一体引くぞ!」
仲間が来たことで戦意を失い興味がなくなったのか、相手はその場を後にした。あの時、仲間が来なければ本当に不味かったと思う。けれど、何故あやつは戦意をなくしたのだろうか?今でもたまに疑問に思う事がある。もしあの場に仲間がしたとしても、あやつならばそれを一瞬で一掃するほどの力があったはずだ。戦っている時も、面倒くさそうに手を抜いていたのは何故のだったのだろう。まあ、考えても仕方が無い事。私はこの事についての考えるをやめた。
□
上空から下を見下ろすが、さっきから何の変化もないし、誰も出くる気配もしない。
「…中々出てこないわねぇ。…じゃあ、これはどうかしら!?」
運んだ手を胸の前で合わせ詠唱を始める。薄黄色の瞳がゆっくりと閉じられた。
『万物の淵源…』
普段とは異なる感情の全くこもってない冷淡な声色。そこの空間だけ時間が止まっているかのような少し神秘的な空気を纏う。
「大技が来る!逃げろ!!」
パチーカ達は密かに逃げようとしたが、もう遅い。ゆっくりと目を開き、胸の前でくるりと大きな円を描くように手を運ぶ。両手を空に翳すと、手元に魔法陣が現れた。
『深淵より出ずる災禍。開け、異界への扉』
空中に現れた魔法陣がくるりと周り、そこから空間に裂け目が開いた。
『ブラック・ホール』
・マホミルは偽名である
燐火⋯霊や怨念が形になったもの。鬼火。
迎え火⋯死者が迷わず帰って来れるように焚く火。
これが何を意味するか