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むしょう提供。3

ファルに指示されて渋々と指定された場所で待機していた保安部職員達はウォッチに届いたファルからの新たな指示を見て訝しんだ。


「大量の虫? 何だそれ。」


指示の他にもイチイの事や犯行の事が記されていたが、誰もすぐには信じなかった。そんな事をするヒトなどいないと決めつけようとした。ファルの悪ふざけだと思っていた。

だから本当に虫の大群がやって来た時は保安部職員達はパニック状態となった。


「何なんだこれはぁぁぁぁ??!」

「え。マジだったの? マジで本当だったの??!」

「イテテテッ! 噛んできた!」


虫の大群に翻弄される保安部職員達の姿を上空で飛ばしているドローン越しで見ていたイチイはほくそ笑む。


「やはり旧支配者は愚か。さっさと掃討せねば。」


イチイは本気で自分が繁殖させた虫達が新たな世界の支配者になると思っていた。


「ファルを食った個体を大至急保護せねば。」


イチイは本気で優秀な頭脳を持つ者を食った虫がヒトと同じように、あるいはそれ以上の知能を持つようになると思っていた。

自分の行動と考えに何にも疑問と躊躇いが無かった。

廃工場の深部を改造した研究室で外の様子を伺っていたイチイには余裕があった。確信があった。自分の行動を邪魔出来る者は誰もいないと思っていた。


『お邪魔しま〜す☆』


だからこれはイチイにとって予想外。


『邪魔するなら帰って〜はナシね☆』


ファルを乗せた装甲車が研究室の高窓を破って突っ込んで来た。


「…は??!」


予想外の事で驚きのあまり一瞬思考を止めていたイチイ。

装甲車はしばらく宙に滞在した後、割れたガラス片と共に轟音を立てて着地し、そのまま壁に激突するまで勢いよく滑って行った。


『うおっえ。…さすがに調子に乗りすぎたか。』


装甲車の運転席にいるファルは無事だ。

予め装甲車の内部を改造して外部からの衝撃を和らげるものにし、制服の下にも耐衝撃装備を身につけている。その為怪我は無いが、多少の衝撃を受けた為強い吐き気を感じていた。


その隙にかろうじて思考を再起動させたイチイは声を上げる。


「どうやって、どうやってここに!」


廃工場の奥にある研究室まで短時間で、しかも高窓を突き破って来る事はイチイは想定していなかった。加えて大量に放った虫の騒動でまともに動く事は出来ないと判断した。だからつい先程までイチイは余裕だったのだ。

今は狼狽しているイチイに答えを言う為にファルは外にも声が届くようウォッチを操作してヘルメットに内蔵されているマイクの音量を調整した。


『どうやって? じゃあまずは、ここに来るまでの道のりから話そっか☆ まずボクは虫が放たれた後、保安部のデータベースからここの工場の地図を手に入れたの☆ そして次にこの工場の持ち主を調べた。そしたら君の名前が出てきた☆ 君がヒューマロイドで本当に良かったよ☆』


ファルの言う通り、イチイの姿は白衣をちゃんと着た男のヒューマロイドだ。


『そのおかげでボクは君の反応と地図を照らし合わせてここまで来れたの☆』

「反応? …まさか、そんな!? レーダーで私の位置を特定したと? あり得ない! だって」

『ジャミング装置があるんでしょ☆ だけどあの程度じゃあボクらは止められないよ☆ 保安部の権力とボクの技術をなめちゃいけないよ☆』


ファルは自信満々という表情を映していたが、車内にこもっている為イチイには見えていない。


「…予想外だが、だが好都合! このままお前を餌に」

『なんでボクがこんな危険な事をしたと思う?』


イチイが手持ちの武器を手に取ろうとした時、全身が痺れた。


「な、に?」


何が起きたのか分からないままそのまま倒れるイチイ。

イチイが倒れた後、姿を現したのはベータだ。手にはテーザー銃が握られている。


『ナイスナイスベータクン☆』

「うっわ。また車壊れてるじゃん。」

『また直すよん☆』


虫の大群に悪戦苦闘しながらもなんとか廃工場に侵入した2人は途中で別れ、ファルは装甲車でイチイの元に向かい派手な行動をとってイチイの気を引いている隙に物陰に隠れて様子を伺っていたベータがテーザー銃でイチイを行動不能にさせた。


ベータはイチイの武装を全て外し、両手両足をしっかりと拘束する。

その間にファルはヘルメットの音量を下げた。


「これで終わりだね。」

『まだだよ☆』

「え?」


ベータがほっと気を抜こうとした時、ファルは待ったをかける。研究室内にある稼働中のパソコンを見つけるとそれを操作して中のデータを見る。


『…あー☆ こりゃあひどい☆』

「何が?」


ベータは画面を覗き見る。


「え。」


そして驚愕した。

画面に映っていたのは虫の飼育の経過記録だ。その中には虫の食事について細かく記録されていた。

ベータが画面から目を離せない間にファルはイチイに近寄り顔近くにしゃがみ込む。


『ねぇねぇイチイクン☆ 攫ったヒト達をどこにやったの?』


イチイは喋らない。


『えい☆』


ファルは銃を取り出すとそれを躊躇なくイチイに向けて発砲した。


「ぎゃぁあ!?」


特注の銃でヒューマロイドに激痛を与える電気銃だ。

気絶をしているふりをしていたイチイは声をあげ悶え苦しむ。


『ねぇねぇイチイクン☆ 攫ったヒト達をどこにやったの?』


痛みで顔を上げたイチイの額にファルは電気銃を突きつける。


『早く言いなよ☆』

「は、廃棄場だ!」


イチイの悲鳴を聞いて振り返ったベータは目を見開く。


「廃棄場って。じゃあ攫われたヒト達は」

「死んでるに決まってるだろ。新たな指導者の糧となったのだ。誉ある死だ。」


イチイの言い分にベータは動揺を隠せない。


『ふ〜ん☆ そんなに大事に育ててたんだ☆』


精神的に大きなショックを受けているベータに構わずファルは少しの間何かを考えている仕草をした後、ヘルメットの画面に電球のマークを表示する。


『よしいい事思いついちゃった☆ ベータクン☆ …しっかりしてベータクン!』

「え!?」


放心していて返事をしなかったベータに向けて再度大きな声で呼びかける。


『こいつ運んでちょ☆』

「えっ。あっうん。分かった。」


そう言ってイチイを指差したファル。

まだ動揺していたがベータは言われるがままにイチイを担ぐ。


「何を、する気だ。」


体は動かないが口は動かせるイチイはファルが何をしたいのか全く分からず疑問を口から出す。


『お片付け☆』


そう言ってファルは装甲車から何かを持ち出した後目的の場所へどんどん進んで行き、ベータはその後をついて行く。

そして着いた先を見てベータは怖気じく。


「これ、全部虫?」

『そだね☆』


目の前には大量の虫が飼育されている部屋がある。そこでは最適な環境下で虫が動めいている。それも飼育部屋は複数あり、それぞれ様々な虫が育てられておりよく見えるよう強化ガラスが嵌め込まれている。


「あれで全部じゃないのかよ。」


強化ガラス越しで見てしまったベータは思わず後退る。

ファルは荷物を一旦床に置き機械のパネルに触れてこの場所の装置の仕組みを調べている。


「本当に何をする気だ。新たな指導者に無礼を働くな。」

「…あんた本当に虫が人間の代わりになれると思ってるの?」

「代わりではない。人間とは違う視点が見れる全く新しい存在だ。」


まともな会話は出来ない。

改めてそう思ったベータは気不味い気分を誤魔化すようにイチイと比べて遥かにまともな会話が出来るファルに話しかける。


「ねぇファル。ここで何をするの?」

『ちょっと待っててね☆ はい出来た☆ イチイクンを窓に近づけてちょっと待っててね☆』

「え?」


そう言ってファルは荷物を持って移動してしまった。


「何なんだよ。」


文句はあるが逆らう理由は無い為、渋々言われた通り強化ガラスに近寄る。群がる虫を見てしまう為ベータは顔を背ける。


「…ん? まだ時間じゃないぞ。」


しかしイチイが言った事が気になりほんの少し視線を向けると虫の飼育部屋の天井に設置されているスプリンクラーが作動しているのが見えた。そしてスプリンクラーが止まった後、飼育部屋に設置されている餌を投入する為の穴からボールのような物が入ってきた。

そして次の瞬間、それが爆発した。

それが火種となり飼育部屋の中は一瞬で火の海に包まれた。強化ガラスのおかげで火の手がベータ達に届く事はない。


「…あ。うわああああああああああああああ!!?」

「うわっ?!」


最初は現実を受け止められず放心していたが、徐々に目の前の出来事を理解していき衝動のままに叫び声を上げるイチイ。

目の前が突然燃え、至近距離でイチイの叫び声を聞いたベータは驚く。


『あははっ☆ うまくいった☆』


困惑するベータと半狂乱のイチイの元にファルが戻って来た。


「ファル! 何が起きてるの。」

『これを使ったんだよ☆ じゃんじゃじゃ〜ん☆』


そう言ってファルが取り出したのは液体燃料が入っていた空のボトルと球体の手榴弾。


『やり方は簡単☆ スプリンクラー装置を弄って水の代わりにこれを散布☆ そして爆弾でドカン☆』

「ファル! キサマ! キサマァァァァァァァ!!」

「うわっ!」


拘束され痺れてもなお暴れるイチイを支えきれなくなったベータはイチイを取り落としてしまった。落とされてもイチイはファルに向ける怒りを止めない。


「お前はなんて事を!」

『はぁいよく見て☆』


そう言ってファルは手を広げる。映る表情は笑顔だ。

ファルの背後は先ほどよりも明るい。赤い光が照らしている。


「あっ。まさか。」


ベータはファルの背後にある他の飼育部屋を覗くと先ほどの飼育部屋と同様中が燃えているのがよく見えた。よく見れば全ての飼育部屋の中が燃えていた。


「ああああああああああああああいあぉあっ!!!」


背後からイチイの叫び声が聞こえてくる。損傷を気にする事なくのたうち回っている音も聞こえてくる。


『よく燃えるね☆』


振り返って見たファルの映す表情は悪どい笑顔だった。


「うっわ。」


この状況とファルのヘルメットの液晶画面を見てベータは改めてファルの言動にドン引きしていた。

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