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むしょう提供。2

『で? なんでボクに助けを求めたの?』


何とか男ヒューマロイド、クロクを落ち着かせたファルとベータは先ほどまで座っていたベンチに逆戻りしベータとファルがクロクを挟む形で座って話を聴く事になった。


「そうだよ。よりにもよってなんでファルに助けを求めたんだよ。」

『おいこらベータクン☆』

「その、ファルに捕まればもう駄目だと思い、それならいっそ知ってる事全部喋って自首して命だけはと思いました。」

『おいこらクロククン☆』


ベータとクロクの発言に不満げな表情を映すファル。

それを無視してベータはクロクに話しかける。


「何か犯罪やったの?」

「…はい。」


クロクはベータの言葉に暗い表情で頷いて肯定した。


『また万引きしちゃった?』


ファルの言葉には首を横に振って否定し、途切れ途切れではあるが理由を話し始めた。


「その、釈放された後、仕事が長続きしなくて。でも働かないとお金が無くて。だから短期で稼げる仕事がないか探して、そしたらある仕事を見つけたんです。車を運転するだけで結構な額が。それに応募したらあっさりと採用されて。だけどいざやってみたら一緒に乗ってたヒト達が人間を攫ってきて。保安部に通報したら殺すって脅されて。死ぬのは嫌だから今日まで車を運転してて。だけど、だけど乗ってた人達が捕まって。俺、俺、もうどうしたら。」


話していくにつれて動揺してきたクロクは目線を下にして全身を震わせる。


『あらら☆ 闇バイトに手を出しちゃったの☆ 車に同乗してたヒト達の目的知らないのね☆』

「はい。本当に俺は車を運転してただけです。信じてください!」

『信じる信じる☆』


顔を上げて必死な様子で弁解するクロクに向けてファルは笑顔の表情を映し、何かを考えているのか少し黙り込む。


「あの、俺保護されますよね。悪い事はしたけどちゃんと保護されますよね。」

「いやおれに聞かれてもよく分からない。ファル。どうなの?」


ベータが声をかけてきた時に何かを思いついたのかファルは人差し指を立て、ヘルメットの画面に明かりのついた電球のマークを映し出す。

ベータはそれを見て何をしているのだと思いながらもクロクの処遇はどうなるのか再度聞く。


「どうするの? このヒト何も知らないんだよね。」

『いやいや☆ 知ってるじゃない☆』

「え?」


きょとんとするクロクとベータに構わずファルは自分の考えを口に出す。


『ボクを運ぶ場所をさ☆』

「…は?」

『理由は分からないけどあいつらはボクを狙った☆ そしてどこかに運ぼうとした☆ だったら行こうぜその場所に☆』

「は?」

『場所どこ? 位置情報教えてくれたら逮捕と保護してあげる。』

「は?」

「えっ? えっ??」


ファルを信じられないものを見る目で凝視するベータ。

困惑するクロク。

それに構わずウォッチを操作するファル。


『ほら早く☆ 教えて教えて☆』

「えっあ。はい。」


勢いに流されて言われるがままにクロクはファルのウォッチに地図の情報を送る。


「えっ。待って。」

『さぁ行くよベータクン☆』

「えっ。本当に行くつもり?!」

『そだよ。あっ。そこのヒト。クロククンをよろしくね。引き継ぎ情報は今送ったから。』


ファルは近くにいた保安部職員にクロクの事を任せさっさと装甲車の方へと歩いて行く。


『何してるの早く行くよ☆』

「いやいやいや行くなって! ちょっ待てって!」


ベータの静止は効かず2人を乗せた装甲車は目的地に向かって発車した。



◆◇◆◇◆



『ここか〜☆』


ついた場所は今はもう使われていない廃工場。敷地が広く大きい建造物だが街から離れている上長年人の出入りが無いのか周囲は不気味なほど静かだった。


『よし☆ 行くか☆』

「待って!」


ファルが錆びていて鎖や鍵のついていない門を開けようとした時、ベータが止める。


「いくらなんでも無謀だよ! この前みたいに応援をよんだほうがいいって。」

『そうだね☆』


そう言いながらファルは門を開けて奥へと進んで行く。


「ちょっと!?」


思わず駆け出しファルの腕を掴むベータ。


「話聞いてる? 危ないからおとなしくしてって言ってるの!」

『もうベータクンってば強引なんだから☆ ボクはA2級☆ 君はC級☆ 命令するのはボクだよ☆』

「おれはあんたの護衛なんだろってえ?! A2級なの?!」


ベータが驚いていた時、小型のアンドロイドが2人に近づいてきた。当然ベータはそのアンドロイドに警戒するが、アンドロイドは2人から少し離れた場所で停止する。


『なにこれ?』


ファルが首を傾げた時、アンドロイドに内蔵されている機能が起動する。


『ご機嫌よう!』


アンドロイドから軽快な男の声がした。


『だぁれ〜?』


ファルの質問に男はアンドロイド越しで答えた。


『我が名はイチイ! 新たな世界の支配者を産み出す使命を持った者!』


アンドロイドの通信機能を使って2人に話しかけてきた男、イチイは声高らかに語る。


『よくぞここに来たファル。君の存在でようやく究極の完全な生命が誕生する!』

「…あいつ何言ってるの?」

『分かんない☆』


ベータとファルはイチイが何を言いたいのかさっぱり分からない。


『分からないか。ならば教えてやろう。私の崇高なる使命を! 産まれて間も無く、私はこの世界に疑問を感じていた。旧支配者である人間でも現支配者であるAIでもこの世界を正しく導く事が出来なかった。』

『あっ☆ これ長くなるパターン☆』


イチイは2人に構わず1人で喋り続ける。


『だからこそ正しい指導者が必要だ。人間でもAIでもアンドロイドでもヒューマロイドでもない。新しい指導者が! それに相応しいのは何だと思う?』

「え? えっと」

『それは虫だ! 昆虫だ! どんな環境でも生き延び繁殖する虫こそがこの世界の新たなる支配者に相応しい!』

「…なにこいつ。」


イチイの話についていけずどん引きしているベータ。


『しかしそんな素晴らしい虫には足りないものがある。それが何か、分かるかな? それは知恵だ! 世界をより良くする為にはどうしても知恵が必要だ!』


熱弁するイチイにファルは冷めた目をした表情を映す。


『その為に最後にお前が必要なのだファル。わざわざここに来てくれて助かったよ。』

『ふ〜ん☆ ボクに何をして欲しいの?』

『お前の死体を寄越せ。』

「は?!」


驚くベータに気に止める事なくイチイの熱意は上がっていく。


『数は増やした。後は知恵を授ける為の餌を必要だ。いくらか与えたがまだまだ知恵を受けるには至っていない。そこで! そこでお前の、お前の脳みそが必要なのだファル。保安部の中でも一際知恵を持つ人間のお前を新たな世界の支配者の糧にしてやる。』


ベータはゾッとした。

イチイが言っている意味を理解出来ず、理解したくなかった。あまりにも無茶苦茶な言い分にイチイとはまともに会話する事が出来ないと理解した。


『このボクの脳みそを狙うなんて☆ そんなの君で3人目だよ☆』


ベータはギョッとした。

自分の脳みそを狙う相手に少なくとも3回は会っているファルの異常なエンカウント率に驚く。


『それでそれで? どうやってこのボクの脳みそを奪う気なの☆ 保安部を敵に回して逃げられるとでも思ってる?』


ファルの言う通りだ。

イチイの発言が真実であればイチイが殺人を犯している可能性が高い。少なくも拉致の命令をしている。保安部に捕まる理由は充分にある。


『すでに準備は整った。後は愚かな旧支配者には新たな指導者の食料となってもらう。』


イチイの発言の後、何やら音が聞こえてきた。

カサカサと何かがされる音。

ブブブと何かが揺れるような音。

一体何の音だとベータが辺りを見ようとした時、ファルは走り出した。


「ファル?」

『車に乗って。』

「え?」

『早く!』


困惑しながらもベータは言われるがままにファルと共に装甲車の中に乗り込む。

その直後、装甲車の正面窓に何かが飛んで来た。

虫だ。


「うわぁー!!」


それも1匹だけではない。2匹3匹とどんどん数を増やしていき、あっという間に窓を覆うほどの虫が車外に群がる。


「何これ?! 何これ?!」

『イチイクンが言ってたでしょ☆ 虫を大量に繁殖させたって☆ それを外に出しただけだよ☆』

「だけってこれ大惨事だよ!」

『そうだよ☆ このままじゃ生態系は崩れるし、近辺の植物が食い尽くされるかも☆ 場合によっては怪我をしたり死んじゃうヒトが出るね☆』

「何とかしないと!」

『その通り☆ 取り敢えず離れた所で待機していると思う保安部のヒト達にはこの事を連絡、今したから☆』

「早っ。」

『問題はこの大量の虫だね☆ 予想よりもかなり厄介なのに当たっちゃった☆』


状況は最悪。

虫に囲まれ閉じ込められたこの状況にも関わらず、ファルの調子は崩れない。


『取り敢えず主犯のイチイクンの確保をしないとね☆ その為にボク達も動くよ☆』


そんなファルの姿を間近で見たベータは負けじと恐怖を押し込めて声を出す。


「そうだ。おれ達が何とかしないと、誰かが死ぬかもしれない。」

『ちなみにボクが死んだら首輪の爆弾が稼働してボカンッといくから注意ね☆』

「はぁ??!」

『さて☆ イチイクンを捜さないと☆ 怪しげなヒト影をチェックチェック☆』

「ちょっと待って!! 今なんて言った?! 今なんて言った??! ねぇ!!!」


これ以上悪化はしないだろうとベータが無意識に思っていた状況がファルからの情報で最悪が更新してしまった。

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