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初仕事。2

ベータを作業台に拘束し終えた後、イセンは近くに置いてあった撮影機を使って様々な角度で怯えているベータの表情を撮っていく。


「あー。期待以上。」


少々興奮した様子で撮影機越しでベータを見るイセン。その勢いで1人で喋りだす。


「やっぱり思ってた通り怯えた表情可愛い。」


そう言って持っていた撮影機を置き、別の撮影機の準備に入る。今度は写真ではなく映像を撮るつもりだ。イセンは今日の日付を言うと撮影機をベータに向ける。


「今日は遂にベータを解体します。」


解体。

それを聞いてベータは全身が凍りつくような恐怖に支配される。事前に見てしまった周囲の成れの果てを見たベータは解体の意味に気がついてしまった。逃げ出したくても直前に飲まされたもので体が動かない。


「イセン、何を言ってるの? ねぇ。やめて。」


声は出せた。ベータは必死にイセンを止めようとする。

イセンは怯えているベータに笑顔を向ける。いつもベータに向けるものではなく、欲望に塗れて興奮が抑えきれない笑みだった。


「やめないよ。ベータのためにたくさん練習したんだから。でも飲み物の方ももっと練習すれば良かったかな。味覚、鋭いんだね。痛覚もそうだといいな。」


イセンは心底楽しそうにベータの腕を優しく撫でる。


「道具は何が良いかな。ベータは何が良い?」


そう言ってイセンが見せてきたのはベータを壊す為に用意された道具の数々。


「やだ、いやだ。離して。」


どうしてこうなったのか。

優しい先輩であるイセンに助けられたと思っていたのに、そのイセンに殺されそうになっている。ベータの中で恐怖が支配されている。


「これかな? それともこれ? これにしよっと。」


1人で道具を選び、選んだ物を掴んだイセン。それをベータの指先に当てる。


「まずはここから。」


ベータは抵抗しようとした。必死で体を動かそうとする。

必死な形相のベータをじっくりと見た後、イセンは道具でベータの指を切り落とそうとした


が、来訪者を告げる呼び鈴が鳴る。


「誰?」


邪魔をされた事に苛立ちながら対応すべきかイセンは迷った。しかし再び呼び鈴が鳴らされた為、イセンは渋々道具を置く。


「ベータ。ちょっと待っててね。」


そう言ってイセンは部屋から出て行った。

逃げる最後のチャンスと思ったベータはもがくが、今だに身体を動かす事ができない。


「動いて。動いて!」


それでも死にたくなかったベータは必死にもがき苦しむ。


『やっほ〜☆』


だからファルに声をかけられるまで気がつかなかった。


「…え? ファル?」

『おっ☆ 名前覚えてたんだね☆』


液晶画面の表情を笑顔にしているファルはベータに近づく。その時に撮影機の存在に気がつき録画中のそれに映り込み手を振る。


「なんで、ここに。」


目の前にファルがここにいる事に今だに信じられなかったベータが聞こうとした時、別の場所から大きな物音が立て続けに起きた。今度は何だとベータが思っている時、勢いよく入ってきたのは息を取り乱したイセンだった。


「は?!」


イセンはファルを見て驚愕する。


「どうしてここに?!」

『相棒を取り戻しに来たの☆』


そう言ってファルはベータの拘束具を外していく。


「ちょっと触らないでよ!」


それを許せなかったイセンはファルに勢いよく近づき突き飛ばそうとした。


『あっぶな〜い☆』


かわしたファルはイセンと間合いをとる。


『怖いな〜☆ それが君の本性?』

「ベータに触らないで。」


イセンはベータを守るように立ちファルに睨みつける。近くにあった道具を掴み鋭く尖った先端をファルに突きつける。


『ベータクンをボクから守ってるつもり? ベータクンを殺すくせに☆』


ファルは周囲にアンドロイドやヒューマロイドの残骸を見て嘲笑の顔マークに変える。


「うるさい。」


先ほどまでベータに向けていた優しげな笑みは消し今度は怒りで顔を歪めファルを睨みつけている。


「それよりもお前、どうやってここに入った!」

『窓ガラスをガッシャ〜ンって割ったよ☆』


そう言ってファルはポケットから何かしらの工具を取り出した。おそらくそれで窓ガラスを割って侵入したようだ。


『次はそっちの番☆ この子達を殺したの、君?』

「はぁっ?!」


この子達。

周りにある残骸の事だと分かったイセンは苛つきながらも質問には答える。


「殺した? 何を言ってるの。これは練習台。ベータを壊す為に持ってきた練習台!」


そこでイセンの表情が少し和らぐ。


「でも、良い悲鳴だった。」


過去の残虐な犯行を思い返しているのだろう。イセンはうっとりとした様子だ。


『うわキッショ☆』


それに対してファルは笑顔を表示したままおちゃらけた様子を保ったまま。

それがイセンの癇に障った。血走った目でファルを見据える。


「殺す。」

『人殺しは初めて? ボクを殺せるかな?』

「お前1人余裕で殺せる。」


凶器となった道具を持ってイセンはファルに近づいて行く。

対してファルは先ほど見せた工具を白衣のポケットにしまってあり、今はウォッチの画面を操作している。


「今頃助けを呼ぶつもり?」


それを見てイセンは鼻で笑う。


「無駄無駄! だってここには」

『ジャミング装置があるんでしょ☆ だけどあの程度じゃあボクのは妨害出来ないよ☆』


ファルを追い詰めたと思ったイセンが意気揚々と語ろうとした時、ファルが遮る。


『それとボク、1人でここに来たって言ってないよね☆』


ファルが送信ボタンを押した直後、大きな物音と大勢の足音が聞こえてきた。ただ事ではないと分かったイセンはすぐにこの場から逃げよう部屋から出たがもう遅い。


「被疑者発見!」

「確保ー!!」


保安部職員が部屋に雪崩れ込む。訓練された動きにイセンは抵抗する間も無く捕えられた。


『はっやーい☆』


保安部職員がイセンを捕らえている最中、ファルはベータの拘束具を全て外す。


『はいおわり☆ もう動いて良いよ☆』

「…動けない。」

『え、何かあった?』

「変なの飲まされた。」

『ん〜多分ヒューマロイド用のウイルスかな☆ 最近出回ってるやつ☆ 何飲んだ?』

「エネルギードリンク。」

『了解☆ ちょっと待っててね☆』


どたばたしている中、ファルは一旦ベータから離れる。そしてすぐに戻って来た。手元にはベータの飲みかけのエネルギードリンクの入れ物。


『お待たせ☆ これ?』

「それ。」

『よし☆ 中身残ってるから帰ったらすぐ調べるね☆』


ベータは複雑な心境になった。

出会ってすぐに行動不能にさせられた事は許してはいない。今でもファルの事は嫌いだ。だが、こうして助けに来てくれた。せめてお礼は言おうとベータがほんの少しファルに気を許しそうになった時


「ファル!!」


イセンが怒鳴る。


「何で私は駄目なの! 私、知ってるんだから! あんたがコンビのヒューマロイドを壊したの知ってるんだから!」


保安部職員数人で抑えられ引きずられるように連れて行かれてもなお抵抗を辞めないイセンは声を張り上げる。


「ベータも壊すんでしょ! だったら私が壊す! 私が!」


イセンは連行される間、今まで隠してきたものを曝け出すようにずっと怒鳴り続けた。

イセンが連れて行かれた後、家の中はほんの少し間静かになる。豹変したイセンに驚いて他の保安部職員が黙ってしまったからだ。


「…あの、ファル?」

『何?』


そんな時にベータはファルに聞く。


「イセンが言ってたの、本当? ヒューマロイドを、その」

『殺したよ☆』


ファルはあっけらかんと言った。


『犯罪者の他にも前に組んだヒューマロイドも殺したよ☆』


それを聞いたベータは新たな恐怖を感じた。


『言ったでしょ☆ 殉職1名と退職1名と懲戒3名と処刑5名だって☆ 処刑5名は全員ボクが殺したんだよ☆』


そこまで言ってファルは画面の表示を変える。笑顔だが、相手の恐怖心を煽る不気味な笑顔のマークだ。


『君はどうなるのかな?』


それを見てベータの中でわずかに芽生えたファルへの感謝の気持ちが吹っ飛んだ。


「やっぱりヤバい奴じゃん!」

『さぁ帰ろうねベータクン☆』

「嫌だぁぁぁぁ!!」

『残念☆ ファルからは逃げられない☆』


絶叫するベータを見て辛い気持ちを抱く保安部職員達。ファルが操作するアンドロイドに抱えられて移動するベータの悲痛な姿を見ても誰も手を差し伸べず見て見ぬふり。出来るのは黙って自分達の仕事に集中する事だけだった。



◆◇◆◇◆



車の後部座席に乗せられたベータ。身体はまだ動かせない為横になったままの状態だ。

ベータを運んだアンドロイドを近くにいた保安部職員に返した後、ファルは運転席に座り扉を閉めて車を発進させる。

車を走らせてからしばらく経った後、車に乗ってから最初に話し始めたのはファルだ。


『今日はお疲れさん☆ 初めてにしては上出来だったよ☆』

「嫌味?」

『違う違う☆』


停車信号が見えたのでファルは一時停車し、発車信号の合図が来るまでの間に後ろを振り返る。


『囮捜査、ありがとね☆』

「…え?」


ファルからの思いがけない言葉にベータは一瞬思考が止まる。


『実は前々からイセンチャンの事は調査されてたんだ☆ ヒューマロイド連続誘拐殺人事件の容疑者の☆ 元々は別の部の仕事だったんだけど☆』


そこまで言った所で発車信号に切り替わりそうだった為ファルは前に向き直り、信号が切り替わったと同時に車を発進させる。


『でもイセンチャンってば結構用心深くて☆ 証拠隠滅されてたのかなかなか決め手が見つからなかったみたいでさ☆ これ以上犠牲者を出さない為にもボクの方にも回ってきたの☆』


一定の速度を保ったまま運転をしながらファルはベータの反応を気にせず話し続ける。


『イセンチャンは特殊治療部に所属だったから接触は割と簡単に出来た☆ でもここからどうしよっかな〜って時にたまたまイセンチャンのウォッチの待ち受け画面がチラッと見えたの☆』


そう言ってファルはバッグミラー越しでベータを見る。


『君だよ☆ ベータクン☆』


鏡に映っているベータは呆然としていた。


『もしイセンチャンが犯人だったら次のターゲットは君だと思った☆ だからこれ見よがしに君をボクのものって感じで連れ回したの☆ そしたら大当たり☆ こんなに早く接触してくるなんて相当焦ったんだろうね☆ ボクにベータクンを盗られちゃう〜って☆』


画面の表示を笑顔にしたまま話すファル。

それをずっとバックミラー越しに見ていたベータは話を聞いている内に段々とある感情が込み上げてきて、遂に爆発させた。


「最初っからおれを利用する気だったのかよ!」

『コンビは予想外だったけどね☆』


利用した事は否定しない事にベータはますます怒りが込み上がってくる。


「もう無理! もうやだ! 治安維持部の方がマシ! コンビ解消する! イセン捕まえたんだからもうコンビはいいだろ!」

『残念ながらボク達のコンビ結成はS.C.Sサマからの命令だからむっりで〜す☆』

「ぬあぁぁぁぁ! 絶対やだ絶対やだ絶対やだ!!」


イセンが飲ませたウイルスが無ければ車内であろうとベータは暴れ回っていただろう。それがもどかしかったのか保安部本部に着くまでの間、ベータは感情任せに声を出し続けた。


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