ウェディング・バースト。3
火薬の匂いとポップコーンの香ばしい香りが漂い、地面や式場の壁に戦闘痕が残っている場所でファルは地面に寝っ転がりポップコーンを食べながらウォッチの立体映像を眺めていた。
映像はナユタコーポレーションの社長とその伴侶のヒューマロイドの結婚式についてのニュース。参列者に祝福されている2人の写真を見てコメントをするキャスターの声をぼんやりと聞きながらファルはヘルメットの液晶画面を途中まで開き隙間からポップコーンを黙々と食べていた。
「…本当、なにやってんのファル。」
そんなファルに呆れた様子で近づくベータ。ファルの隣に座り立体映像を眺める。
ベータが隣に座った途端ファルはヘルメットを操作して隙間を閉じるといつもの笑顔の表情を映し出す。
「これが結婚式?」
『そ☆ 1つの幸せの形☆』
「なんか、派手だね。」
『ね〜☆』
「あとさっきからなに食べてるの?」
『ポップコーン☆ ぽっぷくんには原作通りポップコーンを作れる機能が搭載されてるの☆ だから喉乾いた☆ お水買ってきて☆』
「なんでおれが。」
『だぁって疲れたもん☆ ここから動きたくない☆』
「おれだって疲れた!」
ベータはもうすっかりファルの奇行に慣れてしまったが、周囲のヒト達はそうではない。
音楽と歌を垂れ流すアンドロイドを予告無しで投入し、何度も攻撃に巻き込まれそうになった。その上事後処理は全て丸投げして地面に寝そべってポップコーンを食べてる。
その事実に事後処理を行なっている保安部職員達は苛立っていた。しかし怒鳴りつける事も命令する事もしない。
だってファルが怖いから。
以前、ファルにちょっかいをかけた者達は皆社会的地位を奪われたり命を落としている。
その事実がほとんどの保安部職員達に周知されている為、危険物のごとく距離を取っている。出来るのは精々遠くから睨みつけたり陰口を言い合うだけ。
その事を知っているファルは知らんぷりしながらベータにちょっかいをかける。
『お水買ってきてよ〜☆』
「自分で買えってば!」
そんな時、立体映像に映っていたニュースが切り替わる。
『次のニュースです。先ほどお伝えした結婚式を中止にしようとした暴徒の鎮圧が先程完了した事が確認されました。一部の場所に集中したおかげで迅速な鎮圧が完了できたのではという見解があります。』
キャスターが隣に座っている専門家に意見を聞き出している様子を見ていたベータは疑問に思っていた事を口にした。
「そういえば、なんでおれ達の所にあんなにヒトが集まったんだろ。」
『ボクがデマを流したからだよ〜☆』
「へー。…え?」
隣にいたファルから告げられた情報にベータは勢いよくファルの方へと向く。
「どういう事?!」
『SNSに誤情報を流したの☆ 信憑性を上げる為にそれっぽい写真も載せて投稿して☆ 案の定信じるヒトが多かったよ☆』
悪巧みをしているような不適な笑顔を表示しているファルにベータの中で怒りが爆発する。
「それって、ウソついたって事じゃん!」
『そだよ☆ そのおかげで迅速に安全に事件を解決☆』
「ファールー!!」
ベータはファルの肩を掴み揺さぶる。
『ぐえ☆ ぐえ☆ ぐえ☆』
「そのせいでめちゃくちゃ大変だったじゃん!」
『いいじゃん☆ ボク達のお仕事は暴徒達の鎮圧☆ この方が手っ取り早いじゃん☆』
「せめておれには言ってよ!」
『言う必要、ある?』
「ある!」
そこまで言ってベータはファルの体の上に寄りかかる。
「もう疲れた!」
『お〜も〜い〜☆ どいてよ〜☆』
苦しそうな表情を映すファルの声を無視して拗ねた様子のベータはしばらくの間ファルの上からどく事は無かった。
そんな2人のじゃれあいを横目で見ながら、保安部職員達は思った。
あいつ、ファルと一緒にいてよく平気だな。と。
◆◇◆◇◆
『じゃあベータクン☆ またね☆』
「…ん。」
暴徒鎮圧の後処理が終わった後、ベータを自宅まで送ったファルは笑顔を表示して軽く手を振る。
ベータの方はまだまだ不機嫌そうではあるが短く返事は返し、小さく手を上げてから自宅へと入って行った。
『ふふんふ〜ん☆』
慣れた様子で鼻歌を歌いながら階段を降りていくファル。駐車場まで行き車に乗り込み、走らせる。
目指す先は自宅だ。
特に何事も無く自宅に着いたファルは車を指定の場所に停めた後、玄関の鍵を開けて自宅へと入る。
『たっだいま〜☆』
1人でも調子を崩さないファルは鍵をきちんと閉めた事を確認すると靴を脱ぎ散らかして部屋まで進む。
明かりをつけて荷物を床に無造作に置くとそのままソファに横になる。
『うへぇぇぇぇ☆ つっかれたぁ☆』
疲労感がたっぷり込められた独り言を吐き出したファル。
『お疲れ様です。』
それに反応した声にファルはヘルメットの下で顔をこわばらせる。
『…やっほぉ☆ そっちもお疲れさんさん☆ いつも大変でしょ☆』
それでも調子は崩す事をファルはしない。
声がしたのは小型のスピーカー。ファルとは違う機械音声がファルに話しかけてくる。
『これがわたしの役目ですので。』
『やっぱり忙しいよね☆ 無理してボクの事を気にかけなくてもいいんだよ☆』
『何度も言っていますが無理などしておりません。それよりもあなたに聞きたい事があります。』
『なぁに?』
『わたしの元に来ませんか?』
『やだ☆』
一瞬の間の後、スピーカーの声は少し悲しそうな声を出した。
『これで385回目。あなたにフラれた回数です。』
『いい加減諦めてよS.C.Sサマ☆』
呆れた表情を映すファルはスピーカーの向こう側にあるナンバシティの支配者であり保安部の最高責任者、Soul Color Systemに諭すように話しかける。
『気にかけてくれるのは嬉しいけどさ、ボクはまともな人間じゃないよ☆』
『わたしもまともなAIじゃないという評価が多数あります。』
『無視しなさいそんな評価☆』
『問題無いです。あなたからの評価しか気にはしません。』
『ん〜☆ それもそれでどうなんだろう☆』
その場にいないとはいえ最高責任者と話をしていてもファルに緊張している様子は全く無い。慣れ親しんだ相手と話すような態度だ。
『とにかくさ☆ ボクは君と結婚する気は無いよ☆ 諦めて☆』
『前例は作りました。』
『あ、さてはその為に許可を出したな☆ 職権濫用だぁ☆ いけないんだぁ☆』
『…何故ですか。』
『ん〜?』
『何故、わたしと一緒になってくれないのですか?』
悲痛そうな声にファルはしばらく黙った後、ファルはヘルメットを脱いだ。
「俺が異常だからだ。」
肉声でS.C.Sの声に応えた。
「災厄に目をつけられてまともに死ねなくなり、糞な人生を忘れられず、ヘルメットをかぶって、戯けて、ようやく動けるこの俺が、誰かを愛する? 出来るわけないだろ。」
吐き捨てるよう言いながらファルはヘルメットを抱きしめる。
「どうせみんな死ぬ。」
『…ファル。』
「…今日はもう寝る。」
『電気、消しますね。』
「あぁ。」
S.C.Sが操作したのか部屋の照明が消える。
『おやすみなさい。ファル。』
「…おやすみ。スィフル。」
ファルはS.C.Sのもう1つの名前を口にした後、目を閉じた。
『…諦める気はありませんよ。』
「そう。」
自分に執着する恩師の子の言葉に内心呆れながらファルはヘルメットを強く抱き込むように体をまるめる。
しばらく経った後、ファルは起き上がった。
「…水。」
ウォッチを操作して遠隔で照明を再び付けたファルはふらついた足取りで、時々足元のゴミを蹴飛ばしながら台所まで向かい冷蔵庫を開ける。中は水と栄養ゼリーしか入っていない。水が入ったボトルを1本取った後冷蔵庫を閉めたファルはソファまで戻る。
ボトルとソファの上に置き座るとソファの近くにある物が大量に置いてある小さなテーブルから数本の薬瓶を手に取る。蓋を開けて次々と薬を手のひらに乗せた後、それ全て口の中に入れて封を開けたボトルの水で一気に流し込む。半分ほど水を飲んだ後、蓋を閉めてテーブルのわずかな隙間にボトルを置く。
ウォッチを操作して照明を消すとヘルメットを抱え直してソファの上に横になり目を閉じる。今度は先ほど飲んだ睡眠薬のおかげで眠気が襲ってきた。
後始末は明日の自分に任せようと内心言い訳をしながら、ファルはようやく眠った。




