ウェディング・バースト。2
いつの時代でも周りと違う事をすれば目をつけられる。
ナユタコーポレーションの社長と、社長が幼い頃から共にいる世話係のヒューマロイドとの結婚は大きな注目の的だった。
ニュースや大半の世間の声は祝福するものだったが、批判の声も当然上がる。それだけでなく社長や伴侶となるヒューマロイドに危害を加えようとする者までいる。
こんな風に。
「おりゃあ!」
ベータが引き金を引く。相手に怪我を負わさずに動けなくする為にファルが開発したトリモチガン。着弾すれば弾薬に詰まった粘度のある薬品が瞬時に相手の動きを抑える。
ベータは外す事なく全て着弾させていくが、襲いかかってくる暴徒は後を絶たない。暴徒達は叫び、喚きながら各々武器を持って式場に乗り込もうとする。
「もう! 多すぎる!」
『まぁまぁ☆ がんばだよベータクン☆』
装填済みのトリモチガンと先ほどまでベータが持っていた弾切れのトリモチガンと交換し、空になった方のトリモチガンに素早く新しい弾を込めているファルはいつもの様子で笑顔を表示している。
「なんでこんなにヒトがいるんだよ! ダミーがいっぱいって言ってたじゃん!」
ベータの言うダミー。それはナユタコーポレーションの社長が用意した策。
限られた者だけが参加している結婚式の会場の他に他数カ所で誰もいない式場が用意されている。一般人はおろか今回の作戦に参加している保安部職員のほとんどがどこの会場で式が行われているのか知らされていない。
にも関わらず、暴徒達はまるでここで結婚式が行われているという確信を持って押し入ろうとしている。
『あ☆ どうやらネット上でここで結婚式が行われているっていう誤情報が広まってるみたいだよ☆』
「え。」
『暴徒達のほとんどがここに集結してるみたい☆』
「え?!」
ウォッチを見ていたファルから知らされた情報にベータは思わずファルの方に振り向く。
「じゃあまだまだ増えるって事?!」
『かもね☆』
「だぁぁぁぁぁもうっ!! なんだって他のヒトの幸せを壊そうとするのかな?!!」
怒り心頭といった様子でベータはトリモチガンの引き金を引き暴徒達を無力化していく。
他の保安部職員達も暴徒達を取り押さえていくが、暴徒達の数と勢いが衰える事はない。
『まぁまぁ☆ もうすぐ応援が来るってさ☆ それまでがんばれがんばれ☆』
「いや持たないだろこれたぶん!」
そうこうしているうちに暴徒達の中の数名が包囲網を突破し会場へと向かっていく。
「あぁ!」
『待った☆』
ベータは慌てて追いかけようとするが、ファルが止める。
「なんだよファル! もしかしたらここで結婚式をしてるかもしれないんだろ!」
『だぁいじょぶ☆ ここはダミーだよん☆』
「え? そうなの。」
『うん☆』
そこまで言ってファルは白衣のポケットから今の時代ではかなり旧式の携帯ゲーム機の形をした機械を取り出す。
『だ・け・ど☆ 暴れて不法侵入した報いは受けなくちゃね☆』
悪巧みをしている笑顔を表示したファルは機械を起動させた。
◆◇◆◇◆
「誰もいねぇじゃねぇか!!」
会場に侵入した暴徒の1人が苛立ちに任せてその辺にあった物を蹴り飛ばす。
「デマだったのかよ。」
「急いで皆に知らせるぞ。」
暴徒達が次の行動に移ろうとした時、何かが走行している音が聞こえてきた。車が走ってくるような音と音楽。それがだんだんと暴徒達の方へと近づいてくる。
「何だ?」
誰かが呟いた時、それは姿を現した。
足の代わりにキャタピラ。
腕はマジックハンドのような形状。
頭部はヒトの顔を模しているようだがかなり簡略化されている。
「なんなんだあの変なアンドロイド。」
そう。暴徒達の前に現れたのは1体のアンドロイド。キャタピラを鳴らして近づいてくる。
「ほっとけ。どうせくだらないイベントのおもちゃだろ。」
ヒト並みの大きさがあるのだがデザインのせいか脅威として認識されなかった。
「なんかムカつくから壊すわ。」
「おい。やるならさっさとしろ。」
暴徒の1人がアンドロイドに近づき持っている武器でアンドロイドを壊そうとした。だが先に動いたのはアンドロイドの方だ。
「ぐへぇっ?!」
アンドロイドがアームを動かし鞭のようにしならせて暴徒を吹っ飛ばした。
見た目に反して強い一撃をまともに受けた暴徒はあっさりと吹っ飛ばされ床に倒れ伏せる。
「おい大丈夫か!」
「何だ暴走か?!」
ようやくアンドロイドを脅威と見做した暴徒達は武器をアンドロイドに向けて攻撃するが、見た目に反して頑強なアンドロイドの装甲に歯が立たない。
アンドロイドは暴徒達からの攻撃をものともせずに再びアームを振るう。
「ぐふっ!」
「がはっ!」
1人目と同じように吹っ飛ばされていく暴徒達。
アンドロイドは会場に侵入していた暴徒達を吹っ飛ばした後、外に向けてキャタピラを回す。
◆◇◆◇◆
「ファル弾交換、って! なにゲームしてるんだよ!」
トリモチガンの弾を込めてもらおうと振り返ったベータが見たのは携帯ゲーム機で遊んでいるようなファルの姿。それに苛立ったベータは大股でファルに近づく。
「悪者を倒してよ。」
『倒したよ☆』
「ウソつけ!」
『あ〜☆ 決めつけは良くないんだぞ☆』
「だってこうしてサボって、…何の歌?」
ベータはとある音を察知した。
歌と曲と、キャタピラの音。それがだんだんと近づき、式場の扉を破って現れたの。
「なにあれ?!」
現れたのは先ほど式場に入った暴徒達を吹っ飛ばしたアンドロイド。アンドロイドはキャタピラを鳴らして物凄い速さで暴徒達に向かっていく。
『ポッンッコーツといわせなーい♪ ボクは♪ あくの♪ かいぞうロボー♪』
軽快な音楽と共に歌を流しながらアンドロイドはマジックアームをしならせ次々と暴徒達を薙ぎ倒していく。
「ちょっファル?! なにあれ? なにあれ?! なにあれ??!」
詰め寄りアンドロイドに向けて指をさすベータに対してファルは笑顔を表示したままあっけらかんと答えた。
『あぁあれ? ぽっぷくんだよ☆』
「誰だよ??!」
『ポンコツポップコーンマシーン! ぽっぷくんっていうショートアニメの主人公でね☆ 元々はただのポップコーンマシーンだったんだけど科学者の悪ふざけで改造されたの☆ それで悪の秘密結社によって改造されたと思い込んでる悲しきロボットなんだ☆ 毎回ひどい目にあうの☆』
キャラクターの説明をしながらファルはコントローラー越しでアンドロイドを操作し、暴徒達を鎮圧していく。時々他の保安部職員達を巻き込みそうになっているが、今のところ巻き添えは喰らっていない。
「そうじゃなくてなんでアニメのキャラクターがここで暴れてるんだよって事!」
『ボクが作って操作してるの☆』
「えぇ?!」
『マジだよ☆ ほら☆』
そう言ってファルが見せたゲーム機の画面には暴徒達が吹っ飛ばされていく映像が流れていた。ポップくんという名のアンドロイドの方を見れば同じように暴徒達を吹っ飛ばしている。
ファルがゲーム機のボタンや十字キーを押せばそれに連動してアンドロイドも動く。
どうやらこのゲーム機がアンドロイドを動かすコントローラーのようだ。
「え? まさかあれ、ファルが作ったの?!」
『そだよ☆』
「なにやってんだよ!」
『え? …あぁ☆ 著作権ならとっくの昔に切れてるから訴えられたりしないよだいじょぶだよ☆』
「知らないよそんな事!! なんであんなの作ったんだよって事!」
『ん〜☆ …深夜テンション、かな☆ 埃被せたままは勿体無いし、持ってきちゃいました☆』
「なにそれ!?」
ベータの突っ込み、暴徒達の怒鳴り声と悲鳴、そしてアンドロイドぽっぷくんから流れてくる曲と歌、そして保安部職員達の悲鳴と困惑の声。
辺りはそれが混じって祝いの場に全く相応しくない騒音が響いていた。




