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学院のミツ事。6

『はぁ〜落ち着いた☆ 待たせてごめんねベータクン☆』


ようやく落ち着いたファルは再びヘルメットを被り、ベータがよく知っている口調に戻す。


「いやそれより大丈夫なのファル。人間ってゲロ吐いたら体が悪い証拠らしいけど。」

『大丈夫い☆ それよりもほら☆ この状況をなんとかしよ☆』

「うん。…本当に大丈夫?」

『大丈夫だって☆』


ヘルメットを被ってからファルはトリモチガンによって倒れている少女達から顔を逸らしている。先ほどといい今といい明らかに様子がおかしい。


『よぅし通報完了☆ もう少ししたらディヴァイクン達が来るからそれまで出来る限りのことをしよ☆』

「それってこのヒト達を助ける事?」


トリモチガンによって拘束されてもなお動こうとする少女達を見るベータの言葉にファルは首を横に振りウォッチを操作している。


『ん〜ん☆ そっちは専門家に丸投げする予定だからそのまま☆』

「じゃあおれ達はこれから何をするの?」

『回収☆』

「回収?」


ベータがファルが言った事を疑問に思った時、小さな金属音を拾った。それも複数であり段々とベータ達の方に近づいてくる。咄嗟にファルを守る体制を取るベータだったがファルは笑顔を表示したままだった。


『大丈夫だよベータクン☆ 敵じゃない☆』


それどころか音の正体を知っているようだ。


「じゃあなんなの?」

『今回1番の働き物だよ☆』


音がはっきりと聞こえた頃にはその正体もはっきりと見る事が出来た。

片手に乗るほどの大きさであり、8本足で地面を歩くロボットが合計20体、ベータの足元を通り過ぎファルに近づき取り囲む。


「うぇっ?! 本当に敵じゃないの?!」

『違うよ失敬な☆ これはボクが作った偵察ロボ☆ 地面はもちろん壁や天井に張り付ける足☆ 遠くからでも高画質な映像を送ってくれる上に警報装置のボタンを押せるくらいの小細工も出来ちゃう☆ それに色んな方法で充電が出来るとっても働き物なんだから☆ これのおかげでこんなにスムーズに事を運べたんだよ☆』


内の1体がファルの体を登り手のひらに乗る。ロボはベータに向かってお辞儀をするような仕草をする。


『その名も偵察ズロボ3.0だよ☆』

「へ、へぇー。」


まじまじと見るベータはふとある疑問を覚えた。


「あれ? 監視カメラ付けてなかったっけ?」

『あぁあれ? あんなのダミーだよん☆』

「えっそうなの?!」


それを知ってベータの中で新たな疑問が生まれた。


「なんでそんな物を付けたの?」

『騙す為だよ☆』

「誰を?」


その疑問に対してファルは不気味な笑みに変えて答えた。


『不敬な奴をだよ☆』



◆◇◆◇◆



急いで逃げようとした。

大事なものだけを抱えて逃げようとした。

ナンバシティの外に逃げようとした。


「外に出してくれ。緊急事態を観測したんだ。」

『そのような事実は確認されておりません。不許可。ただちに指定の位置にお戻りください。』


しかし外へ通じる入り口は全てAIによって固く閉じられている。


「連絡がまだいっていないだけだ。手遅れになる。早くここを開けてくれ。」

『不許可。ただちに指定の位置にお戻りください。』

「だから! 急いでいるんだ!!」

『不許可☆ ただちに指定の位置にお戻りください☆』


心臓が止まるかと思った。

耳障りな口調と電子声に聞き覚えがあった。


「ファ、ル。」

『そだよん☆ 君達の尻拭いをしにやって来たファルだ☆』


ゆっくりと振り返ればファルが立っていた。その後ろにはベータとディヴァイディッドゥバイが控えている。

逃げられない。


『君のお仲間は全員捕まえた☆ 残りは君1人☆ だからもうおとなしく捕まって』


ファルが喋っている間にディヴァイディッドゥバイが犯人に近づき首根っこを掴む。


「ぐぇ!」

「よし捕まえた! これで事件解決だな!」

『もうディヴァイクンのせっかちサン☆ 後始末がたくさんあるよ☆』


おちゃらけて話すファルに犯人はファルがセイジョウ区に来てからの記憶が一気に甦り、それによって怒りが爆発する。


「ファル! お前のせいで何もかもめちゃくちゃだ!」

『えぇ〜☆ 八つ当たりぃ〜☆』

「なんでお前だけが優遇されているんだ! AIの奴隷のくせに! 支配者を気取るあの壊れたAIの」


話の途中でディヴァイディッドゥバイは口を開く。


「お前ソウルカラー様の悪口言ったな。」


その直後、掴んでいた保安部職員を地面に叩きつけた。整地された地面が陥没するほどであり、辺り一面赤い体液が撒き散らされた。


「…え。」


死んだ。ヒトが死んだ。ベータの目の前で呆気なく死んだ。


『あ〜あ☆ 死んじゃった☆』


にも関わらずファルはいつも通りの口調で話す。


「ん? 死んだのかこいつ。」

『死んだよ☆』

「えぇ! やっぱり人間脆いな!」


目の前でヒトが死に呆然と立ち尽くすベータと違いファルとディヴァイディッドゥバイは平然とした態度だ。


「なん、で。」


ようやく絞り出せた小さな声をファルは聞き逃さなかった。いつも通りの笑顔を映して会話に繋げる。


『なんで? どうしてって? ディヴァイクンがヒトを殺して平気かって? それはねA9級限定の特権でヒトを独断で殺せるの☆』

「え、は? え。」


ベータの思考が上手く動かない。叩きつけられた保安部職員の遺体から目を離せない。

そんなベータの視線を遮るようにファルが前に出て顔を覗き込む。


『そんなに気にする事は無いよベータクン☆ このヒト達は与えられた仕事をせずに悪事に加担した悪いヒト達なんだよ☆』


ファルの言う通り、先ほどディヴァイディッドゥバイが殺した保安部職員はスーシ女学院で行なわれていた違法な行為の助力をしていたのだ。他にも協力者がおり、セイジョウ支部に所属している者の半数が加担していた。ディヴァイディッドゥバイが殺した者を除いてすでに全員確保されている。


『悪者を倒すのがヒーローなんでしょ?』

「だからって、殺さなくてもいいじゃんか。」

『なるほどなるほど☆ ベータクンにとってヒーローはヒトを殺さないんだね☆』


目の前でヒトが死んだ事で大きなショックを受けたベータに対してファルは笑顔を映し続けた。


『ならこれで分かったでしょ☆ ボクはヒーローとは程遠い存在だって事が☆』

「なぁまだ話続くのか?」

『ちょうど終わったところだよんディヴァイクン☆ 特殊清掃部を呼ぼっか☆』


呆然と立ち尽くすベータを咎める事も慰める事もしない。そのままファルはウォッチを操作して悲惨な遺体の回収を専門家に頼むべく連絡を取った。



◆◇◆◇◆



今回の事件の詳細をまとめよう。


まずスーシ女学院の地下での淫交はナンバシティが出来る前から行われていた。学院関係者達は後ろ盾のない少女達を脅し、富裕層や権力者にあてがう事で富と権力を手に入れてきた。

しかしナンバシティに吸収されてから状況は一変した。

まずナンバシティの外にいる権力者達との繋がりを断たされ、残った権力者達も厳しい監視の目によって迂闊に動けなくなってしまった。その上定期的に保安部職員が学院の様子を見に来る為生徒達が喋らないよう見張ったり過去の出来事を誤魔化し地下へ続く階段を隠すのに精一杯。とても以前のように動く事は出来ず、手に入る収入は目に見えて下がった。

このままではまずいと学院長が次に取った行動は保安部職員を抱き込む事だった。S.C.Sに従う事に不満を感じている者達を選び、分け前を条件に売春行為の助力をさせた。

こうして再び裏稼業での収入が増え始めた時、ファルとベータがやって来た。

違法行為がバレないようなんとか邪魔な2人の行動を制限しようとしたがファルとベータは聞く耳を持たず動き回る。2人をどうにかしようと考えていた時にディヴァイディッドゥバイもやって来てあっという間にスーシ女学院の地下で行われていた行為は暴かれ、それに関わっていたヒト達はほとんど検挙されていき、自由を奪われ搾取されていたスーシ女学院の生徒達を保護した。


そうして誰もいなくなったスーシ女学院は


『点火!』


爆破した。


「おぉ! 派手だな!」


少し離れた場所で爆破されて崩れてくるスーシ女学院の校舎を楽しげに眺めるディヴァイディッドゥバイ。

その隣にはウォッチを通して校舎を爆破させたファルがいた。はしゃぐ笑顔を表示させて片腕を掲げる。


『そりゃあもう! 火力はもちろん派手な色になるよう調整したからねん☆ 忌まわしい母校よさらば!』

「ん? ファルあそこに通ってたのか?」

『そだよん☆』

「あれ? でも女しか通えないんじゃなかったか? ファルは男だろ。」

『前世の話だよ☆ 2度目の人生の時に通ってたんだ☆』

「出た! ファルの前世話! 本当にあるのか前世って!?」

『本当だよ☆ その証拠に地下の秘密の部屋を見つけたんじゃないか☆ 元々あった地下の体育館に続く階段が全部塞がれてたから気になってた調べたら見つけられたんだから☆』


煙が上がる校舎だった瓦礫の山を眺め、次に楽しげに会話をするディヴァイディッドゥバイとファルを少し離れた所で見ていたベータは会話に参加する気が起きなかった。

今回の事件でベータは様々なものを見た。

平和な日常を送っていたと思っていた少女達が肥えた大人達によって消耗品のように扱われ、本来ならそんな輩を取り締まる保安部職員が加担した。そしてその内の1人がディヴァイディッドゥバイの手によってあっけなく死に、それを間近で見ていたファルはいつも通りの日常を送っている。


数日経った後もベータの思考は上手くまとまらず、立って色とりどりの爆煙をぼんやりと眺めるので精一杯だった。

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