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学院のミツ事。5

街灯が全く無い真っ暗の中、車のライトを頼りにぎりぎり車でも通れる狭くて舗装されていない道を走って到着した先はスーシ女学院から少し離れた場所だ。

ベータの目では辛うじて自分の体が認識できるくらいでその先は何も見えない。しかし車から降りる前にファルから渡されたサイバー型のウォッチを身につけると今度は色彩が無い代わりにはっきりと周囲の景色が見えた。


「暗視ゴーグルにもなるんだ。」

『そうだよ☆ 声を潜めてボクに着いて来て☆』

「えっ。ファル見えるの?」

『見えるよ☆ このヘルメットは高性能なのだからね☆』


暗闇の中を歩くファルに言われるがままについて行くベータ。しばらく歩いていると山壁が見えてきた。


「行き止まり?」

『ん〜ん☆』


ファルは首を横に振りウォッチを操作する。それを終えると小走りで山壁に近づき再びウォッチの操作を始める。

ファルが何をしているのかさっぱり分からないベータが離れた場所で黙って見ていた時、どこからか音が聞こえてきた。山壁の方からだ。ベータが身構えた時、山壁の一部が動き出す。まるで自動ドアのように開いた山壁の先には車が余裕で通れる明らかにヒトの手で整備された道が続いていた。


「隠し通路?!」

『速く来て! 監視カメラは長時間誤魔化せないの☆』


慌てて中に入ったベータに続いてファルも入り、ウォッチを操作すると再び山壁は動き出し閉まる。

閉まった後もウォッチを操作しているファル。

ベータはきょろきょろと周りを見回す。


「ここ、どこ?」

『秘密の抜け穴だよ☆ はいお待たせ☆ これでしばらく監視カメラは使い物にならない☆』


ウォッチの操作を終えたファルは立体映像を消し、通路の先を見据える。


『よし行こうか☆』

「どこに?」

『きったない大人の世界へ☆』


そう言ってファルは前へと進んでいき、ベータもそれに続いた。

しばらく進むと徐々に明るさが増していき、駐車場らしき場所に着いた。車がいくつも並んでいる。

着ける必要が無くなったサイバー型のウォッチを外して制服のポケットに仕舞ったベータは近くにある車をまじまじと見る。


「これ、車? 見た事無い形。」

『いわゆる高級車だね☆ よくもまぁこんな骨董品を☆』


2人は駐車場を通り過ぎようとした時、複数の足音が聞こえてきた。それもかなり慌ただしい。


「げっ! ヒトが来るよ!」

『はい☆』

「え?」


ファルがベータに渡したのは相手を拘束する為に開発した銃、トリモチガンだ。


『全員よろしくね☆』

「えー!」


丸投げである。


「ひぃ、ひぃ。」

「なんだあいつら!」


そうこうしている内にヒトが大勢やって来る。


「あぁもう! しょうがないな。」


ベータは自分のとファルから渡されたトリモチガン2丁をそれぞれ持ち構え、引き金を引いた。


「えっちょ!」

「ぷげっ?!」

「なんっ??!」


ベータは1発も外す事無く命中させていき、駐車場にやって来ていた者達全員の身動きを封じた。


「勢いで撃ったけど、誰こいつら? しかもパンツだけのヒトが多い。」


弾が空になったトリモチガンの片方をファルに返し、ファルから替えの弾を受け取り装填する。


『これがきったない大人達の姿だよ☆』

「確かに、なんか汚い。」

「失礼だなお前ら!」


トリモチガンの餌食となって地面から離れられない中年の人間の男は2人に怒鳴りつけるがファルとベータは気にせず通り過ぎて行く。


『避難訓練ってやっぱり大事だね☆』

「なんの話?」


進んでいる内にけたたましいベルの音が鳴り響いているのが伝わってくる。音がする方から誰かが走って来た。先ほどの男達よりも若いスーツ姿の男数名だ。


『はいよろ☆』

「はーい。」


ファルから再びトリモチガンを受け取ったベータは走って来る者達が喋る前にトリモチガンの引き金を引き先ほどと同様全員の身動きを封じていく。全員をトリモチガンの餌食にした後、2人は広い空間に着いた。薄暗く、どこか退廃的な場所だ。あちこちにベッドがあり、どれも使用済みの痕跡がある。


「え? 女の子?」


そしてほとんどのベッドの上には少女が寝かされていた。ベルの音が大音量で鳴り響いているにも関わらず誰も起きあがろうとしない。

ベータは少女達を助けようとしたが、すぐにファルに腕を掴まれる。


『あんまりボクから離れないで☆』

「えっでも女の子達が」


それでも少女達を助けようとベータは動こうとしたが


『いいから離れないで。』


余裕の無いファルの言葉に止まるしかなかった。


「お前らの仕業か!」


その時、恨みと怒りが込もった怒鳴り声がベルの音に負けじと辺りに響いた。


「あっ! お前は」


ベータにはその顔に見覚えがあった。支部内部で何度もファルに苦言を申していた保安部職員の1人だ。


「…なんだっけ?」


しかし名前は忘れていた。


「お前! お」

『いいから撃って☆』


ファルは指差して命じ、ベータはそれに従った。結果、男は名乗る間も無く床に倒れ伏せた。


「あぁぁぁぉぁ何なんだ本当に! お前達が来てから何もかも台無しだ!!」


まともに動けないが、口と片腕と頭は動く。男は腕を動かして動けなくされた方の腕側の手首に装着されているウォッチを操作する。


「ただで済むと思うなよ!」


少女達が起き上がった。しかし目は虚で操り人形のように動かされているような動き方だ。


「女ども! こいつらを捕まえろ!」


男が命令すると少女達が一斉に襲いかかってきた。


「うわ!?」


驚きながらもベータはトリモチガンの引き金を引いて少女達の動きを止めていく。


『はい替え☆』

「ありがと!」


途中で弾切れを起こした直後にファルから替えの弾を受け取り素早く装填する。あっという間にほとんどの少女達の動きを止めてしまった。


「! ファル!!」


ファルの背後から襲ってきた少女は背中からファルにしがみつく。少女の力は凄まじく簡単には引き剥がせそうにない。


「どうだ! 女とそこのヘルメットを傷つけられたくなければお」


男は少女ごとファルを人質にしようとしたが、その考えが実行に移される前にファルは命令した。


『ボクごと撃て!』


ベータは躊躇無く撃った。

少女ごと身動きが取れなくなって倒れたファルは急かすように声を上げていた。


『早く、早く薬品かけて!』


いや、急かしていた。


「分かった、分かったからちょっと待ってて。」


ベータはファルに近づき制服のポケットから薬品の入った容器を取り出すと蓋を開けてファルについているトリモチ部分に薬品をかけた。すると空気に触れた瞬間に固くなって取れなくなっていたトリモチが柔らかくなり、ファルは急いで引き剥がした。

その間少女の方はベータが取り押さえていた為どうにかなり、ファルが離れた後は改めてトリモチガンで拘束し直した。


「これでよし。」


その様子を見ていた男の怒りが更にたぎる。


「お前ら! 何を考え」


男が何かを言おうとした時、ファルは男の顎を蹴り上げた。人体の急所の1つである顎を強い力で蹴られた事で男の意識は朦朧とする。


『このっ! このっ!! このっ!!!』


顎だけでなくファルは男の体を何度も何度も踏みつける。


「ちょっ、ファル?!」


さすがにやり過ぎだと慌ててファルを止めるベータ。


「やり過ぎだよ! どうしたんだよ。」


ファルはいつも犯人を捕まえる時、ここまで執拗に痛めつける事はしなかった。

いや、ここに来てからファルの様子がおかしかった。冷静さが欠けている。

男から引き離してその理由を聞こうとするが、ファルは黙ってしまった。


「ファル! 本当にどうし」

『ぅひっく。』


が、ファルは即座にベータから離れ、ふらついた足取りで数歩ほど進んで止まる。


『…うっぷ。』


そして勢いよくヘルメットを脱ぎ顔を下に向けると


「ゔぉぇっ。」


吐いた。


「ファル?!」


突然の嘔吐に驚いたベータは駆け寄る。


「具合が悪いの?!」


心配そうに見てくるベータにファルはある程度吐いた後、袖で口元を拭った。


「いや、気分が悪いだけ、うっ。」


部屋の臭いにまた吐き気を感じたファルの肉体が胃の中のものを吐き出そうと反応する。ひとしきり吐いた後、ファルは片手で白衣を脱ごうとしたが、すぐに思い止まり白衣を掴んでいた手を下ろす。


「あぁクソ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。」


初めて見るファルの本当の表情は嫌悪感からくるものだった。それでも初めて見るファルの素顔にベータはじっと見つめる。


「…何?」


眉間に皺を寄せて睨みつけてくるファル。

それでもベータは不思議と怖くはなかった。


「や、本当に人間なんだなーって。」

「ジロジロ見る、うっ。」


胃の中は空なのにえずくファルを見てベータは思わず背中をさすった。

一瞬驚いた顔をしたファルだったが、吐き気に負けて顔を下に向けた。


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