玩具の中の隠し事。4
人形展には展示の他に物販が行われている。ここでしか買えない物がある為人気だ。その中にはハンドタオルがあり様々なバリエーションがあり使い勝手が良い為人気商品の内の1つだ。
「あ!」
そのタオルが誰かの作品である木の形をした巨大なオブジェの上にかかる。
「誰のだこのタオル!」
慌てて近くにいたこの作品の出展者の1人がタオルを取った時、声と手を挙げた者が現れた。
「ごめん! そのタオルおれの。」
「危ないだろ。気をつけろ!」
「本当にごめん!」
怒られながらもタオルは返してもらいその場からそそくさと退散して行った。
「これでいい?」
タオルを持ってウォッチ越しでファルに話しかけるベータ。先ほどの動きは全てファルによる指示だ。
『いいよいいよ☆ それを袋に入れて帰って来て☆』
「分かった。」
◆◇◆◇◆
「で? そのタオルがなんなの?」
シチシと話し終えた後、ベータはファルの指示に従って動きファルの元へと戻って来ていた。
『物は試しってやつ☆』
ファルはベータが持ち帰ってきたタオルを受け取るとそれを作業場にある機械の中に入れる。
「これ何の機械?」
『物に付着している成分を調べる機械だよ☆』
しばらく待った後、機械についている液晶パネルにタオルに付着していた成分を示す文字が表示された。
「…えっと。何これ?」
ベータには単語の羅列に含まれる意味がさっぱり分からなかった。
『あらら☆ そういう事ですか☆』
ファルはというと表示されている分析結果を見て呆れた様子の表情を表示する。
「ファルには分かるのこれ。」
『分かるよそりゃあ☆』
機械からタオルを取り出したファルは別の袋に入れる。今度は密閉がしっかりと出来るやつだ。
『さてさてベータクン☆ 明日は人形展2日目で最終日☆ 君には明日も行ってもらいます☆』
「分かった。」
『ただし人形展が終わってヒトがいなくなる深夜に☆』
「え?! 何で?」
困惑するベータに向けてファルはにんまりとした笑顔を表示する。
『潜入といえば真夜中でしょ☆』
「は?」
ファルの発言にベータはさらに困惑し、そして頭の中の回路が軋む感覚に痛みを感じた。
「また変な事をする気だ。」
これから起こるであろうファルが引き起こす荒事を考えて痛む頭にベータは誤魔化すように手を当てた。
◆◇◆◇◆
人形展の公開時間が終わり、客達がいなくなっていき、出展者達は後片付けをしていく。外からは夕方の様子が見えもう間も無く暗くなるだろう。
シチシもニハも友人達と共に片付けをしていた。
「あっという間に終わったな。けど楽しかったなニハ。」
「そうだな。」
「でもビービ君結局最後まで来なかったな。こんな事なら昨日のうちに連絡先交換しておけばよかった。」
シチシは知らないがビービことベータはファルからの指示によって急遽その場から離れてしまった為ちゃんと別れの言葉をかける事も連絡先を聞く事も出来なかった。
2日目も会えると思っていたが終了時間になってもやって来なかったのでもう会えないと思いシチシは少し落ち込んでいた。
「来年も人形展があるからその時に会えるかもしれないだろ。」
「…そうだな。」
「それより色々と疲れただろ。後はやっておくからみんなと先に帰っててくれ。」
「えっ。でも」
「後はスタッフに確認をとるだけだからすぐに終わるさ。」
「じゃあお言葉に甘えるな。」
シチシはニハからの提案を受け入れて他の場所で作業をしていた友人達にもその事を伝えた後、ニハに礼を言いながらその場を後にした。
残ったニハはその後ろ姿を見る事なく作業を終わらせる為にその場から移動した。
シチシにはすぐに終わると言っていたにも関わらず、ニハは日が沈み深夜の時間帯になり照明が落とされて真っ暗闇の会場内に暗視ゴーグルをつけて留まりある作業をしていた。
ニハだけではない。
他の参加者達や本来ならば深夜まで残っているニハ達に注意する立場であるはずのスタッフ達も全員暗視ゴーグルをつけて会場内で作業を行なっていた。
やっている事は今回の人形展には出展していた作品の梱包だ。だが、やっているのは大型のフィギュアや模型のみ。
「あっ。」
梱包をしている時、隣にあった乗り物の模型に体が当たり落として壊してしまった。
「何やってんだ。」
「悪い悪い。」
しかし落とした本人も近くにいた者も落とした事についてたいして気にしている様子も悪びれる様子もない。落とした誰かの作品を片付ける事も触る事もせずに梱包を進めていく。
「これで全部か?」
「いや。向こうにもう1つあるな。」
「俺がやる。」
「分かった。じゃあ梱包が済んだやつから運んでいくぞ。」
ニハは梱包材を持って目的の巨大なフィギュアの前に立つ。
「ん?」
その時、隣にあったものを見て違和感を感じた。
「何だこれ。」
ヘルメットを被り上は背中部分をリボン結びにしたオーバーサイズの白衣。下には保安部職員の制服を着用している人物がチェーンソーを持ってポーズを取っていた。
「…どっかで見た事あるな。どこだっけ?」
「どうした。」
動きを止めたニハを見て近くで作業をしていたスタッフの格好をした者はニハの様子を見る為に近寄った。その時にニハが見ていた者を見る。
「げっ。誰だよファルのフィギュアを作った奴。」
「そうだファルだ。確か保安部の頭のおかしい奴だよな。」
『え〜何その評価☆ 知ってるとはいえもっと素敵な褒め言葉が聞きたかった☆』
フィギュアだと思っていた者が喋った。
『ヒトの悪口を言うなんて許せない☆』
フィギュアだと思っていた者が動き、ヘルメットの液晶画面が光る。
『そんな悪いヒトは装備開発部兼特殊治療部兼整備点検部兼娯楽発展部兼異例案件部に所属しているこのボクがオシオキしちゃうよ☆』
ウインクをした表情を映し新たなポーズをとる。
フィギュアだと思っていた者が喋り動いた事で声には出さなかったが心底驚いたニハ。
そしてその隣にいた者も驚いて硬直していたが、やがて目の前にいる者の正体に気がついた瞬間
「ファ、ファルだぁぁぁぁぁっ!!?」
悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。
その悲鳴を聞いた周りの者達もファルの姿を見て悲鳴を上げたり見た瞬間逃げ出す者までいた。
「ファル?! ファルだと??! 何故ここに!?」
『1時間くらい前から待機してましたん☆』
チェーンソーを持っていない方の腕と肩をぐるぐると回した後にファルは別の決めポーズをとる。
『さぁてここでしっつもんで〜す☆ みんなはこんな真夜中に何をしているのかな?』
ファルの登場に皆驚いていたが、会話をしている間に少し落ち着いてきた1人がスタッフとしてファルの質問に答える。
「それはもちろん作品の梱包ですよ。出展者に送り返す為に。」
『なるほどなるほど☆ でもそのわりには雑じゃない?』
そう言ってファルがチェーンソーの先を向けたのは先ほど落として壊された誰かの作品。あの後誰かに蹴り飛ばされたのかさらに酷い状態となっている。
「いや、その。それは」
「いやいやいや! それよりも今はあなたの事ですよ!」
言い訳を考えている間にもう1人冷静さを取り戻し大声を出す。
「あなた、ファルっていうんですか。誰かは知りませんがどこから入ってきたんですか。不法侵入ですよ!」
声を荒げて怒りを見せて話を押し通そうとしファルをこの場から追い出そうとする。
それに対してファルは何も言わずに不気味な笑みを表示させてチェーンソーの電源を入れて稼働させた。
「えっ? はっ? ちょっ」
ファルの行動に対して理解が追いつかず先ほどの勢いはどこへやら。困惑の声しか出せない。
『ひゃっは〜!』
困惑と恐怖で動けない周囲を置いてファルは稼働するチェーンソーを使って隣にある作品を横から両断する。
「あ!」
誰かが声を上げた。
そして誰かが顔を青ざめた。
理由は作品を壊された事ではない。作品を切られた事によって中身が漏れ出てしまったからだ。
『あれあれ〜? なんか出てきたぞ〜☆』
わざとらしくそう言ってファルはチェーンソーを止めてウォッチを操作してライトを点けるとその光を地面に落ちた作品に向けた。
作品の切り口から怪しげな白い粉が大量に出てきた。




