玩具の中の隠し事。2
『文句は言ってもお仕事はしなくちゃね☆』
「でも今回のはかなり無理なんじゃ。話すら出来ないんだろ。」
『まぁまぁ☆ 異例案件部に来るお仕事は基本厄介なもので他のヒト達が出来ないと判断したものばかり☆ S.C.Sサマもそれが分かってるから期限は定められてないよ☆』
「そうなの?」
『そうだよ☆ 今回も無いので急かされる事はないから気長にやろうぜベータクン☆』
ファルの話を聞いたベータはほんの少し気が楽になった。
『じゃあ着替えてきてベータクン☆』
「え?」
が、ファルの突拍子のない発言にベータは目を丸くする。
「えっ何? どういう事。」
『私服に着替えてきてって事☆ その格好じゃすぐに保安部だってバレちゃうでしょ☆』
「あっ。確かに。」
ファルの言う通りベータが着ている保安部の制服を見ればすぐに保安部職員である事がバレる。
『あとこれ☆』
そう言ってファルがベータに差し出しのは片手で持てるほどの大きさのケース。中を開けて見るとそこに入っていたのはバイザー型のウォッチだ。
「サングラス?」
『ウォッチだよ☆ それもつけてね☆』
「え。何で?」
『君の視界を共有する為だよ☆』
「いや必要ないだろ。」
『あっ☆ ボクは行かないよ☆』
「え。」
いつものようにファルと共に行動すると思っていたベータは一瞬動きと思考が止まってしまう。
『だってだって☆ ボクは超有名人なんだよ☆ ボクと一緒に行ったら調査出来ない☆』
「…あー。確かに。」
再起動したベータは先日の違法賭場の出来事を思い浮かべる。客やスタッフ達がファルを恐れて逃げ惑う姿がはっきりと思い出せる。
『だから今回はベータクン1人でダンシ区に行って来て☆』
「あれ。でもファルは人間なんだからそのヘルメット外せるんだろ。そしたら正体を隠せるんじゃないのか?」
『だから今回はベータクン1人でダンシ区に行って来て☆』
「いや、ヘルメットを外せば調査に」
『だから今回はベータクン1人でダンシ区に行って来て☆』
「…分かった。行ってくる。」
『行ってらっしゃ〜い☆』
ファルに説得は無理と判断したベータはダンシ区に1人で行く事になった。
◆◇◆◇◆
一旦帰宅して私服に着替えた後にバイザー型のウォッチを装着したベータは公共交通機関を利用して1人でダンシ区へと向かった。
「おぉ。」
ダンシ区に到着したベータは思わず感嘆の声が出てしまった。
右を見れば有名なゲームの広告が。
左を見れば流行りの漫画の広告が。
正面を見れば現在放映されているアニメの宣伝映像が流れている大型のモニターと一体化している巨大なビルが目に入った。
「凄いな。」
そして見渡す限りのヒト、ヒト、ヒト。
楽しげに会話をしたり大量の買い物袋を抱えて嬉しそうに歩くヒト達の姿で周囲は溢れている。
「それで? おれは何をすればいいの?」
興味津々で辺りをキョロキョロと見回しながらベータはウォッチ越しでファルに話しかける。
『ベータクンの行きたい所に行って来ていいよ☆』
最近技術によって作られたバイザー型のウォッチに内蔵されている音漏れがしない小型スピーカーやノイズキャンセル―――によって人混みの中でも問題なく会話が出来る。
「えっいいの?」
『うん☆ 2、3時間くらい遊んできなよ☆』
一瞬心が揺らいだベータだったが、すぐに気を引き締める。
「いや調査するんでしょ。さすがに遊ぶのは駄目だろ。」
『え〜☆ でも違法捜索部のヒト達が総出で探しても見つからなかったんだよ☆ 行動が制限されてるこの状況でボク達2人だけで見つかるわけないじゃん☆』
「いや、でも。」
『お仕事してますって姿勢を見せればいいの☆』
「…いいのかなぁ。」
『これもお仕事☆ パァッと遊んじゃってる風に見えるけどこれはお仕事なの☆ 不審なものがないか確認する為のパトロール☆ 後ろめたい事は一切ないよ☆』
流石に遊ぶのはちょっと。でもダンシ区で遊ぶの楽しそう。
そんな罪悪感と好奇心で揺れ動く心のベータにファルは言葉で突き崩していく。
「本当に、遊ぶよ。」
『色んな箇所回って来てくれればボクの方で何とかするよ☆』
ファルの最後の一押しでベータは決心した。
「よし、パトロールに行ってくるよ!」
『行ってらっしゃい☆ くれぐれも正体がバレないようにね☆』
「うん!」
ベータは弾んだ心のままにダンシ区へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆
ベータがダンシ区で調査としてホビーショップやゲームセンターなどで遊んでいる頃、ファルはその様子をヘルメットを通して眺めながら仕事をしていた。
ベータのウォッチから送られてくるリアルタイムの音声や映像データはファルのヘルメットに転送されるようにしている。
だから今ベータがゲームセンターにあるシューティングゲームで新記録を叩き出した瞬間もバッチリとファルに見られている。
『おっ☆ 凄い☆』
素直に感心しながらファルは手を動かして雑務を片付けていく。
『はい終わり☆』
ファルが仕事を終えた頃にはベータは休憩しているのか店内でエネルギードリンクを飲んでいた。
『そろそろ撤収させよっかな☆』
時々ベータをダンシ区に向かわせる予定の為長居させて飽きさせないようファルはベータに帰ってくるようにと言おうとした時、気になるものをベータのウォッチ越しで見つけた。
違法捜索部に所属している保安部職員だ。
1人だけではない。店の窓から私服姿で数人で歩いている姿を目撃する。
『ベータクン店から出て☆』
気になったファルは早速ベータに違法捜索部の者達を追いかけるよう命令した。
◆◇◆◇◆
「いきなりだな本当に。」
ちょうどエネルギードリンクを飲み干した直後にファルから外にいた違法捜索部の職員追いかけるようウォッチ越しで命令されたベータは慌てて会計を済ませて店の外に出て気がつかれないよう尾行する。
「あの人達も遊びに来てるんじゃないの?」
『まぁまぁ☆ 尾行続けてよ☆』
しばらく尾行していると大きな建物の前に着いた。違法捜索部の者達は周辺を歩き見回した後、そのまま何もせず立ち去って行った。
「追いかける?」
『ううん☆ ベータクンも周辺を見て☆』
言われるがままにベータも建物周辺を見回していくと壁に貼られたポスターが目についた。
「《第22回人形展》?」
『あ☆ やるんだ☆』
ベータの目の前にある建物内で近日イベントが行われる事を知ったファルはベータのウォッチ越しからポスターをじっくりと読み込む。
人形展とはフィギュアやぬいぐるみなど人形というカテゴリに当てはまる物の品評会だ。開催地は決まってダンシ区で行われる。しかし去年は違法捜索部との騒動があった為中止となっていた。
『へ〜☆ 今年は飛び入り参加出来るんだ☆』
「みたいだね。」
『よし出場しよう☆』
「は?」
ファルの唐突な言動に未だに着いていけないベータだったが、自分が巻き込まれる事だけははっきりと分かっていた。そしてそれが厄介で面倒な事になる事もわかっていた。
「うへぇ。」
だからベータはファルの発言の後、心底嫌そうな表情を浮かべた。




