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コンビ結成。

人の形をした機械、ヒューマロイド。

元々は人間の道具として作られた物だったのだが、ある時人間と同じ様に感情や意志を持つ個体が現れた。それが原因か人間とヒューマロイドの関係は悪化していきあわや戦争が起きそうになった。

が、ある出来事のせいでその争いは不発に終わった。


ある出来事が終息してから数十年後。


都心では人間とヒューマロイドが同じ職場で働く事は当たり前の事になった。

だが。

ある出来事が起きる前と比べれば人間とヒューマロイドの関係性はかなり改善されているとはいえまだまだわだかまりがある。

今だにヒューマロイドの事を道具として見ている人間もいるし、人間よりも自分達が優れていると見下しているヒューマロイドもいる。

そんな考えを持つヒトビトのせいか、あるいは別の理由か。都心を中心に各地で様々な事件や問題が発生している。


それをどうにかする為に結成された組織の名は保安部。

ヒトの文明を発展、維持を目的としている。

構成員としての適性があれば人間、ヒューマロイド関係無く入る事が出来る。適正は能力面を重視している為、性格はあまり考慮されていない。

保安部を結成させた支配者曰く、人格など平時であればいくらでも取り繕う事が出来る。調和が乱れている時にこそそのヒトの本性が見える。その時に見極め改めて相応しい場に送ればいい、と言う。


つまり。

保安部に入るだけならば意外と簡単であり、そのせいで保安部内では問題児と呼ばれるヒトだったり犯罪を犯すヒトがそこそこいるという事だ。



◆◇◆◇◆



「ベータ! お前また壊したな! 今度は窓ガラス。それも2枚!」

「仕方ないだろ。ひったくり犯を捕まえる為だ。」

「だからと言って窓ガラスを割る必要ないだろ! その上犯人に必要以上に怪我を負わせて!」

「いいだろ別に。悪い事したヒトなんだから。」

「いい訳あるか!」


人間の男性に叱られているのは少年のような見た目をした、しかし人間には無い機械の部分が見えている。人肌に似せてはいるが血色が無い。

彼はヒューマロイド。名前はベータ。保安部に所属している。


「そもそもお前は治安維持部に所属してるだろ。ひったくり犯を捕まえるのにそこまで出張る必要は無い。」


保安部には数多くの部署がある。治安維持部はその内の1つだ。

治安維持部の主な仕事はパトロール。もし不審なものを見つけたら本部に報告するのが決まりだ。


「けど捕まえた方がカッコイイだろ!」

「出たよそれ。」


カッコイイ。その言葉を聞いてベータを叱っていた男性はため息を吐く。


「あのな。お前の言うカッコイイは知ってるよ。何度も聞いたから。だけど仕事中にそれを持ち出すのは」

『伝達!』


話の途中で男性が身につけている腕時計のような形をした通信機、ウォッチから緊急連絡が入る。


『リン区にて事件発生! この通信を聞いている者で手が空いている者は直ちに現場へ急行せよ!』


それを聞いた男性は即座にウォッチの画面を操作し、宙に立体映像の地図を表示する。地図には赤い目印のようなものが表示されている。


「近いな。お前は先に本部に」


男性がベータに目線を向けた時、そこにはもうベータの姿は無かった。まさかと思いある方角を見ると遠くにベータの後ろ姿を見つけた。ベータが走る先にあるのは先ほど連絡があった事件が起きた現場だ。


「待て待て待て待って!? 1人で行くな!」


男性は慌ててベータを追いかけた。



◆◇◆◇◆



「はーなーせー!」


事件が起きたビルの前に着いたベータは早速中に踏み込もうとして、すでに現場に到着していた保安部職員に止められた。今はベータよりもはるかに背の高いヒューマロイドに抱え上げられている。


「す、すみ、すみま、せん。」


遅れてやって来た男性は息を切らしながらベータを抱えているヒューマロイドに頭を下げる。それは謝罪の為か、あるいは疲労のせいなのかは本人以外には判断はつかない。


「大丈夫かサブロー。」


男性の知り合いである保安部職員が名前を呼んで未開封の容器に詰められた冷えた水を男性、サブローに差し出す。


「子守りを任せられるなんて大変だな。」

「おれは子供じゃない!」

「確かお前作られてから数年しか経ってないだろ。まだまだ子供だ。」


保安部職員に子供として扱われるのがよほど不服なのかはベータは機嫌を悪くする。

呼吸を整え水を飲んで落ち着きを取り戻したサブローはベータに言い聞かせようと努力する。


「いいか。今回の俺達の仕事は野次馬や報道部の奴らが必要以上に事件現場に近づかせないようにする事だ。」

「おれだって強盗を捕まえる!」

「駄目だって! 今起きてるのはヒューマロイドと人間による銀行強盗と立てこもり事件だ。中には人質がいる。こういう事件の場合は機動部とかの仕事だ。」

「おれだって戦える。そういう風に作られたんだ!」

「お前はC級だ。中に突入できるのは最低でもA級じゃないと」

『報告!』


2人が言い争っている時、ウォッチから新たな通信が入った。


『被疑者からの要求が入った。』


それを聞いた保安部職員達の間で緊張が走る。無論、ベータとサブローも例外ではない。


『被疑者からの要求は人質の解放である。』

「…は?」


聞き間違いか?

誰もがそう思った。


『繰り返す。被疑者からの要求は人質の解放である。意味の分からない要求だが確かに被疑者はそう言っている!』


聞き間違いではなかった。

何故立て籠っている犯人達から人質を解放しろと要求されなければならないのか保安部職員達は大いに混乱した。


『…重ねて報告する。』


通信越しから聞こえてくる声が先ほどの緊迫したものから打って変わって呆れた様子が伝わってくる。


『被疑者からの話によると人質の内の1人が銀行の防犯システムを乗っ取り被疑者と人質達を隔離した後、我々に突入経路の情報を転送してきた。それによって防犯システムを乗っ取った者が判明した。正体は』


名前を言おうとしたが、そこで言いにくそうに一瞬言葉が詰まる。それでも仕事だからかはっきりと名前を告げた。


『ファルだ。』


その名前が出た瞬間、保安部職員のほとんどが嫌そうな声を上げたり頭を抱えた。


「えっ何? みんなどうしたの?」


この場の保安部職員の中で唯一ファルの事を知らないベータは皆の反応を見て不思議がる。


「そうか知らないか。なら教える。ファルは」


そこでサブローは言い淀み、頭の中で言葉を選ぶ。


「…変人だ。」

「へんじんって変な人って事?」

「そう。保安部職員の1人でめっちゃ優秀らしいが、それ以上におかしな事をしたり変な格好をしてるって有名だ。」

「何それ。」


サブローの説明を聞いてまだ会った事が無いファルに対してベータがドン引きしている時、新たな通信が入った。


『1班と2班、被疑者の確保完了。3班、人質の保護に成功。』


その報告を聞いたサブローは安心する。


「良かった。犯人捕まったのか。」

「えー!」

「残念そうにするな! 不謹慎だろ。」

「おれの活躍の場が!」

「だからお前は」


2人が再び言い争いを始めた時、また通信が入った。


『緊急! 被疑者の1人が逃走! 特徴は違法改造されたヒューマロイド!』


武装をした犯人の逃走。

それを聞いて周囲に再び、しかし先ほどよりも緊迫が張り詰める。


「あっ。やべ。」


そんな時、サブローは近くにいたヒューマロイドの漏れた声を聞き取った。嫌な予感がしたサブローが見た時にはもうベータの姿は無かった。

先ほどの声はベータを捕まえていたヒューマロイドのものであり、どうやら腕の拘束から逃げ出したようだ。


「ベータァァァァァァ!」


サブローはの名前を叫んだが、返事は返ってこなかった。



◆◇◆◇◆



「どこだろ。」


逃げ出したベータは逃げた犯人を1人で捕まえてサブローを見返してやろうとやる気になっていた。

周囲の保安部職員達は逃げ出したものとすでに捕まえた強盗未遂の犯人達の対応に忙しい為ベータに気づく余裕が無い。


「まだ遠くに行ってないよな。」


そんな時、すぐ近くで大きな音が響いた。銃声と怒号。

犯人のものだと思ったベータはすぐに音がした方に向かった。向かった先にはベータの思っていた通り強盗未遂の犯人達の内の1人が保安部職員達相手に向かって暴れていた。


「迂闊に近づくな! 新型兵器を装備している!」

「あれ多分ゴウガシャ製だぞ!」

「マジかよ! 厄介だな。」


対応に追われている保安部職員達。

犯人であるヒューマロイドに組み込まれている大型の銃の破壊力が脅威となり迂闊に動けない。


「よっしゃあ!」


だが、ベータは前に飛び出した。


「誰だ?! 危険だ戻れ!」


静止の声を無視してベータは駆け出し携帯していた小型の銃を取り出す。すでに安全装置は外してある為ベータはすぐに引き金を引いた。


「何しやがる!」


弾は当たった。

が、ベータの持つ銃には殺傷能力がほとんど無い。ベータが保安部から支給されたのは相手をほんの少し痺れさせて動きを鈍らせるテーザー銃だ。防御力の高い装備をしているヒューマロイドには効かない。せいぜい相手に不快感を与える程度だ。


「やっぱりこれしょぼい!」


犯人の攻撃をかわしながらベータは手持ちの武器に不満を漏らす。


「何だこのガキ!」


犯人の攻撃を難なくかわしているベータに犯人は苛立つ。


「このクソガキが!」


犯人はベータに集中弾撃を与えようとした。ベータに意識を向けている為周囲の事を疎かにした。背後から来る音すらも強力な武器や頑丈な装甲からくる慢心とベータへの苛立ちによって大して気にしなかった。


だから犯人の背後から突進して来た装甲車を避けられなかった。


「ぎゃん!」


これには犯人も堪らず吹っ飛ぶ。


「うわ!」


そして飛んできた犯人をベータは避ける。


「クソ! 何がどうなって」


頑丈な装甲のおかげで犯人の意識はある。立ち上がる余裕もある。


『はいさっさと押さえる!』


しかし数の利は保安部にある。


犯人を轢いた装甲車から聞こえた声に驚いて動きが止まっていた保安部職員は一斉に犯人に飛び掛かる。武器を無理やり外して押さえ付け無力化していく。

犯人は必死に抵抗するが、数の暴力に負け最後はしっかりと全身を拘束された。


『これで全員捕まえたね☆ お疲れさ〜ん☆』


装甲車から聞こえてきたのは機械音声。その機械音声の持ち主が車から出てくる。

ベータは出て来た相手の姿を見て驚いた。


液晶画面が着いたフルフェイスのヘルメット。

保安部の制服の上にサイズが合っていない為肩にかけず両腕だけで白衣を身につけている。足元まで丈のある身の丈に合わない大きな白衣の後ろを途中まで縦真っ二つに裂きリボン状に結んでいる。


『や〜人質を頑張った甲斐があったよ〜☆』


そしてこの口調。

ベータがこの人間を変人と認識するには充分だった。


この人間がファルだ。


そしてこれがこの後相棒になるベータとファルの初めての対面である。

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