伝説の剣はメイドに変形しますが使えません 3
三部作、完結編です。
その日ギルドは混乱した。
火龍からの依頼が来たのだ。
最初は誰かのいたずらか、冗談だろうと思っていた。
依頼書は突然燃え始め、炎の文字が浮かび上がる。
「お前達の土地で矢を受けた、この矢を引き抜き、治療せよ」
そして裏面には業火文字が浮かび上がる
「断ったら、火の海ね」
もはや上位魔法使いしか扱えない、燃える依頼書。
「これマジ、本物っす。どうします?ギルマス?」
「どうしますって、どうにかなるのか?」
「どうにもっす、なりませんっす」
「国王に連絡。騎士団がどうにかするだろう」
二日後、宮廷魔法使いがギルドに確認に来る。
二日後?
ギルマスは怒りを覚える。
王宮への呼び出しは、一時間前に集合を要求する。
遅刻は鞭打ちである。
自分達は?
やって来たのは宮廷魔法使い。
魔法石や宝石をじゃらじゃらと打ち鳴らし、まるで歩く騒音。
指には指が見えないほどの指輪である。
遠く離れて依頼書を見る。
「本物ですねぇ、どうしましょう?」
他人事である。
「どうしましょう?どうにかしてくれ!」
「え?わたしが?」
まさに他人事。
「宮廷魔法使いだろ!」
「あ、それ、ただの役職名ね」
固まるギルドメンバー。
そして思う。
この国大丈夫か?
「とにかく、それ、引き取ってくれ。俺達じゃ触れん」
「え?私も無理ですよ?火龍の業火文字なんて触れるわけないでしょう!」
宮廷魔法使いとは?
こんな奴のために、俺達は高い税金を払っているのか?
「おいおい、役職名だけだろうと、宮廷魔法使いだろう、あんた」
「炎の文字なら触れますが、業火文字なんて初めて見ましたよ、無理無理!」
「んじゃどうすんだよ?」
「どうしましょう?」
誰か、国王呼んでこい!
ギルマスは、心の中心で哀を叫んだ。
「話の内容は分かりました」
何が分かったんだ!本当か?理解したのか宮廷魔法使い!
ギルマスは、心の中心で怒を叫んだ。
「!」
「しゃ、喋ったぞ!?こいつ!」
お話ししたのは宮廷魔法使いではなく、何と、依頼書くん。
「お城に行けばいいのですね」
依頼書は紙飛行機に変形し、ひゅーんとお城を目指し飛んでいった。
そして大混乱は、お城に移動する。
しかし、ドケチで有名なこの国の王は冷静だった。
「報酬はどうなっておる?」
「おおさすが王さま、報酬は大事ですぞ。龍の鱗1枚とあります」
「龍の鱗か……」
「盾に加工すればあらゆる厄災、攻撃を防ぎ、剣に加工すればあらゆる厄災、敵を切るそうです」
「我が王家に相応しいのう、欲しいものじゃ」
頑丈な龍の鱗、そんな簡単に剣や盾に加工できるわけがない。
そもそも加工できる者などこの国にはいない。
竜の鱗を加工できるのは、ドワーフの王とその一族だけである。
「わが騎士団を向わせましょう」
大臣が下がろうとする。
「まてこら、大事な騎士団、怪我でもしたらどうする?あの高価な鎧に傷を付ける気か?そもそもなんで龍の鱗に、矢が刺さる?おかしいではないか?」
意外と賢い国王。
そうなのだ、そんな固い龍の鱗に、なぜ矢が刺さる?
説明しよう!それは弓のメヘイドケインの存在。
弓、矢、材料から、加工、弓の鍛錬まで弓のメヘイドケインが指導しているからなのだ。
(作者注*このことは別に作者が、書き忘れたわけではない。決してそうではない)
「説明をするのだ!どういうことだ?大臣?」
「それは、とてもとても面白い『伝説の剣はメイドに変形しますが使えません1及び2』をお読み下さい」
~読書中~
「つまらん、星、一つだな」
「星?ですか?」
「いや、付ける価値なし。それより、こっちの、XXXしたらXXXだった件とかが面白そうだ」
(んだとおおおお?ごらああああっ!おぼえておけよおおおおおおおおおっ今のセリフウウウウウウッBy MAYAKO)
「このD.ルイワに依頼せよ。そうだな、報酬は龍の鱗1枚と超法規的報酬金、金貨10,000枚じゃ」
「よ、よろしいので?」
「火龍は復讐がしたいのであろう?ルイワには死んでもらおう」
「帰還いたしましたら、どうするのです?」
「帰還はせんよ、途中事故で死亡する。龍の鱗、そして伝説の剣、メヘイドケインもワシのコレクションに加わることになっておる。よいな、大臣?」
「ははっ」
「ん?どうした大臣?」
「もし、もしですよ、このD.ルイワが火龍を倒したらどうします?伝説の剣ですよ?」
「無理なのだ、この伝説の剣はレベル設定がある。こんな設定、誰もこの剣を使えんよ。正に、ワシのコレクションにこそ相応しい。作ったヤツは世間知らずのそーとーな馬鹿者だ!ぐはははははははっ!笑っちまうぜ!レベル50?人類史上いるか?この世にこの剣を使える者などおらん!ぐははははははっ!」
(んだとおおおお?ごらああああっ!おぼえておけよおおおおおおおおおっ今のセリフウウウウウウッ By神代武具管理センター 制作部門 社員一同)
「し、しかし、この者、D・ルイワ、侮れません!」
「ぐはははははっ、物語は作るもモノなのだ!好きに作れ大臣!D・ルイワは必ず命を落とすのじゃ」
「ははつ、そのように」
「アサシン・麗子!」
すっ、と現れる網タイツ(紫)のハイレグのくノ一。
「……」
「話は聞いたな?」
「……」
「D.ルイワを監視せよ、そしてお前の判断で殺せ、確実にだ、よいな?」
「……」
「それから逃げぬよう、お目付役を一人付けよ、誰かおらぬか?死んでもいい騎士」
「ならば、ルンダル家の者はどうでしょう?あのデカ物は周りからも、一族からも邪魔者扱いですが?」
「よきにはからえ!では大臣、ワシは今日より植民地の視察に出かける。後は任せたぞ」
「ははっ……えっ!?」
「別に、龍との交渉に失敗して、国中が業火で焼かれるのを予測して逃げるのではないぞ?」
「……ははっ」
「ああ、それから元老院メンバーと、お前以外の大臣、全員ワシと一緒に視察だ。では国のため励めよ」
「……………………………はい」
そして、荒々しく開く酒場の扉。
「ここにルイワはいるか?」
ビックリするサキュバスの雪子(源氏名)
「き、騎士さま?」
「ルイワはと聞いておる!」
「まだ営業前の準備中でして」
バキィイイッ!
殴られるサキュバス雪子。
店内の椅子を吹飛ばし、ゴッと分厚いテーブルにぶつかる。
「な、なにしやがるっ!」
サキュバス雪子は反射的に魔眼を使おうとしたが、ぎりぎりで踏みとどまる。
騎士団相手に、そんなことをしたら、職務妨害で殺されるからだ。
綺麗な赤い唇は裂け、鮮血がポタリポタリと落ちる。
「ルイワはいるのか?いないのか?と聞いている」
「……い、いないよう、見れば分かるだろう……うう」
「ここにいるぞ」
開いた扉の先に、花束を携えたルイワがいた。
「ルイワ、テメーなにやったんだよ!もう二度と店に来るなっ!」
怒りの目が、ルイワを射貫く。
え?
なんで?
俺、なにかした?
「お前がD・ルイワか?顔貸せ、俺様は騎士団の……」
ドバキッイイイイイイイイッ。
と、殴ろうとしたが、ルイワは我慢した。
ここで騒ぎを起すと、雪ちゃんに更なる迷惑が、と思ったのだ。
ルイワは腰に下げていた薬袋と、有り金全て、花束を店のカウンターに置くと、黙してその場を去った。
おわた。
ルイワは遠い目で、旅に出たい、と思った。
大通りに出ると、ルイワは騎士団12名に囲まれる。
「ギルドまで来てもらう」
ルイワは動かない。
「なんだこいつ?反抗的だなぁ」
徐にルイワを蹴りつける騎士。
ドバキッイイイイイイイイッ。
「んげぇ痛いですウウ!なななななんですか?なんですか?」
「メヘ、寝ていただろう?」
騎士の臭い足は伝説の剣、メヘイドケインによって阻まれた。
「……」
「どうしたメヘ?」
「この人、足臭いです」
「きききききききさまぁ騎士を侮辱するかぁ」
すらりと剣を抜くフルアーマーの騎士達。
次々と剣が抜かれ、辺りは騒然となる。
抜いたな、これで安心してぶちのめせる、とかルイワは思わない。
鎧、重いのによく動くなぁ、汗とか凄いんだろうなぁ川とか落ちたらどうするんだろう?あと、トイレは?見た目ほど重くないのだろうか?
「ご、ご主人さまぁき、きます!」
魔法で強化された鎧は、大抵の攻撃を受け付けない。
矢は通らないし、剣では切れない。槍も弾丸も無効である。
そして、なんと、強化魔法でこの鎧は軽く、素早さ、力、体力もアップされているのだ(25%UP当社比)
勿論、中級レベルの魔法攻撃も無効である。
鎧破壊係数27、通常の鎧が5で、先日の火の龍の鱗が60である。
そして竜の逆鱗は100、雷帝の雷すら弾くという。
前記でおわかりと思うが、全て、剣レベル3のルイワでは傷つけることも出来ない。
王が大金をつぎ込んでドワーフ達に作らせた、この国自慢の鎧である。
「メヘ、巨大化」
ぷち。
騎士団は全滅した。
……剣とは?
「メヘ、ギルドに行くぞ」
「はい、ご主人さま」
とことこ。
「……あのう……ご主人さま?」
「なんだ?」
「国家騎士団相手に、だ、だ、だ丈夫ですかね?」
「さあ?」
「さ、さあって、指名手配とかされませんか?反逆罪とか?」
「剣を抜き、騎士として戦ったのだろう?そして負けた。それだけのことだ。修行不足、一人対12人、罪にはならん(はず)」
「そ、それはそうですが表向きでしょう?世の中には、表と裏がありますです!」
「俺は大丈夫だ」
「?」
「潰したのは伝説の剣だし」
「え、えええっ!?そ、そんなぁご主人さまぁ!」
「女性を殴るヤツを、騎士とは言わない……カス共に挑まれたから潰したまで(伝説の剣が)」
「!」
「そんなクズ共に、指名手配されても負ける気がしない。来るなら来い、全て返り討ちにする(伝説の剣が)」
感動するメヘイド・ケイン。
「あん」
「おい、メヘ?変な声がしなかったか?お前か?」
「いえ?酔っているのですか?」
その姿を見つめるアサシン・麗子 (紫の網タイツ)
その切れ長の冷酷な目は、D.ルイワを射貫く。
(レベル50の剣、発想で敵を倒している。だが本人は弱いな?剣技3?笑わせる!)
瞳に宿るは暗殺者の狡猾な光。
……と、小さなハートマーク。
アサシン・麗子はまだ気が付いていない。
自分の瞳に、ハートマークが宿ったことを。
そしてD.ルイワの言葉に胸を打たれ、思わず声が出たことも。
とことこ。
ぎーっ、バッタン。
「ギルマス、呼んだか?」
「ん?騎士団はどうした?」
「騎士団?」
D・ルイワはもう忘れていた。
サキュバス雪子との別れの記憶が100で騎士団は0なのだ。
そしてサキュバス雪子は脳内で静かにフェードアウトして行き、新たにダークエルフ留美ちゃん(源氏名)が浮上する。
「まあいい、ルイワ、お前ご指名の依頼なんだが?」
「俺?指名?薬草か?そいつから指名料はもらえるのか?」
「指名料制度は廃止した!今はない!トラブル防止だ!今は一般競争入札、もしくは早い者勝ち!」
「復活、導入しようぜ?仕事、丁寧にならないか?ここのギルド、仕事荒くていい加減だし、依頼人、選んでいるだろ?」
「……よくギルマス相手に酷いこと言えるな?」
「事実だ。誰も言わないから俺が言ったまで、クビにするか?」
「いや、正直な意見を言うヤツを遠ざけたら企業は終りだ、貴重な意見ありがとよ」
「どこからの依頼だ?」
「国王」
「誰だ?コクオ?黒雄?知らんぞ?」
「……報酬は龍の鱗1枚と超法規的報酬金、金貨10,000枚」
「がはははははっ!引受けよう!」
「ご、ご主人さま!内容を確認してから、お返事してくださぁい!怪しすぎます!お使いに国家騎士団使うような人物ですよ!?」
「大丈夫だメヘ、ホントに危険な騎士団は、胸に付けている流れ星マークが目印の対ドラゴン国家騎士団だけだ。俺指名だ、俺しかできないことだ、で?どこの金持ちだ?」
「国王だ、国の王さまだ!」
「どこの?」
「ここの!」
「またまた?冗談キツいぜ?ギルマス?あの国王が1,000,000枚の金貨など出すわけないだろう?」
「おい、桁が、だいぶ違うようだが?」
「そうか?」
ルイワは報酬金額をちょっとだけ盛った。
「ご主人さま!?」
警戒の声を上げるメヘイドケイン。
「なんだ?」
「魔法生物が接近……!」
開け放たれた窓から飛び込んでくる燃える紙飛行機。
紙飛行機は形を変え、自ら名乗る。
「聞け!愚民ども!我は火龍の依頼書、我が主の声を拝するがよい!『お前達の土地で矢を受けた、この矢を引き抜き、治療せよ、褒美に我の鱗、一枚を授ける』返答やいかに?」
そして裏面には業火文字が浮かび上がる。
『断ったら、火の海ね』
そして炎に浮かび上がったお顔が、どやっ、と自慢顔をする。
「どう?どう?決まった?決まった?上手く言えたかしら?お返事は?火の龍さん、もう待ちくたびれるよ!ねえ!お返事は!?」
「ご主人さま、これがギャップ萌えとか言うヤツですかぁ?」
返事をしたのはギルマス。
「いや、違うだろう?で、どうする?ルイワ?国王指名だが?」
「引受けよう」
ギルマスが、一言告げる。
「あの国王が、素直に金を出すとは思えん、龍もお前を恨んでいるのではないか?」
「あの龍には子供がいる。親が弱っていると、ハンター共が群がるかもしれん、メヘ……急ぐぞ」
「あん」
「メヘ?どうした?」
「え?私じゃないですよ?」
「じゃ、ギルマスか?」
「俺じゃねー!全力で否定させてもらう!」
「取敢えず、支度する。支度金に半分もらいたいが?」
出発は明日の朝一番で、支度金で、今夜はダークエルフ留美ちゃん(源氏名)と、がははははっとは考えていない、はず。
なぜなら、子供のドラゴンがいるからだっ!
「そんな金、ギルドにあると思うか?」
「ないの?」
「ない」
あっても、帰還しそうに『ない』ヤツに、渡す金などない、とは言わない。
「今回のギルドの取り分は?」
「30パー」
「3割?取り過ぎでは?」
「ご主人さま!」
「なんだメヘ?」
コツコツコツ。
高級そうな靴音が響く。
ぎーっ、バッタン。
「話は全部聞きましたぞ」
「ストーカーか?」
「大臣だ!」
身なりからして、偉そうではある。
「ここに金貨100枚ある、これを支度金にするがよい!」
「はい、ありがとうございます」
さっと手を伸ばすルイワ。
さっと手を引く大臣。
「支度金、ください」
「この金貨、渡して、そのままドロンでは困るのだ」
「いえいえ、そのためのギルド。ギルドが間に入っていますが?信用ありませんか?」
キリリとした顔で宣わくD・ルイワ。
「……」
「どうした?メヘ?」
「いえ、ご主人さま、別人みたいです」
「そうか?」
ぐりぐり。
「……痛いです」
「そこで、この騎士を一人付けたい」
「信用していないと?」
「火龍が一度暴れれば、街一つ簡単に滅ぶ。この王都の危機、一人に任せるわけにはいかぬ」
「ならば、今後の憂いを絶つため、流れ星騎士団を向わせればどうですか?」
「かの騎士団は、国王と一緒に植民地視察じゃ!なに、矢を抜けばいいだけのこと、残りの報酬は帰都後じゃ、よいな?」
「はい」
「騎士!サンダル・ルンダル!」
ガチャガチャ。
「ここに」
重そうな鎧を纏った騎士が一名。
身長は軽くルイワを越える。メヘイドケインよりも高い。
とても大柄な騎士である。ゴツい兜は顔全体をおおい、その表情は見えない。
声も低くくぐもり、異様な威圧感を身体全体から滲み出している。
「この者を付ける、名はサンダル・ルンダル、ルンダル家の騎士じゃ。ではD・ルイワ殿、頼みましたぞ!」
ドッチャリ。
と重い革袋が、ルイワの手に渡る。
ルイワは大きな革袋を、握り締めた。
「……確かに、金貨100枚、ではギルドに30枚だな、しかしトマト王国の金貨とは……」
そういって徐に手を革袋に突っ込み、ジャラジャラと金貨を出した。
「これで30枚だ、ではギルマス、行ってくる」
「おい、数えなくていいのか?手掴みであろう?これだから下々の者達は……」
ルイワの行動に呆れる大臣。
「……27、28、29、30。はい確かに30枚一応金庫に保管しておくぜ」
ルイワは軽く手を振り、ギルドを出ていく。
その後を慌てて付いていく騎士サンダル・ルンダル。
がっちゃんがっちゃん。
「え?おいおい、確かに30枚あったの?」
大臣が驚き尋ねる。
「ええ、あいつは見ただけでも何枚か分かりますよ、金貨の年代まで言い当てます」
「なんだそのスキルは?……D・ルイワ……職業間違ってね?」
「大臣さまもそう思われますか?これはトマト王国時代の金貨らしいですね?」
「そ、そうなのか?」
「5段階金貨ランクの5位、100枚ですが、価値は80枚ですよ、大臣」
「え?……き、金貨は金貨であろう!」
「ご存じ無かったと?」
「……」
んぁあの財務大臣!知っておったなぁああああああっ!
大臣は知らなかった。
そんな会話を聞き流し、ルイワは颯爽と王都を出ていく。
「ご主人さま、本物の騎士さまですよ!」
「ああ?」
すたすた。
ガチャガチャ。
「あの装備で歩いて付いてくるなんて、凄いですねぇ」
「誰が?」
「騎士さまですよ!」
「騎士?」ルイワは忘れていた。
ふんふんっ!あはははん!金貨100枚!でもこれ実質80枚!
あ、30はギルドか、それでも70!
これだけあればあああああははっん!
とは考えていないはず。
「ご主人さま、これだけ支度金があれば……お馬さん、借りて行きましょうよ?」
「減る」
メヘイドケインの提案は一言で終わった。
支度金とは?
とことこ。
ガチャガチャ。
「メヘ、馬は貸してくれないぞ」
「え?」
「あのドケチで有名な国王が、全額払うとは到底、思えん。おそらく帰途、俺は事故で死ぬ」
「!」
ガチッ。
立ち止まる騎士。
「ご、ご主人さま!?」
「メヘ、お前が言った言葉だぞ?世の中には裏と表がある、正にその通りだ」
「そ、そのようなことは無い!こ、国王は広い心で国民を愛しておられるっ!」
「誰だこいつ?」
「……ですから、お付きの騎士さまです」
「誰の?」
「ご主人さまのですっ!」
「なんで?俺、そんなに偉くないぞ?」
「D・ルイワ!訂正しろ!わが主君を愚弄すること、許さん!王は民と国の発展を望み、一心に日々励まれておられる!」
「そりゃ税金増えるし、富も増えるだろ?生かさず、殺さずだ」
「きさま、きさ……ま……」
ドガチャッ。
倒れる騎士、サンダル・ルンダル。
「ご、ご主人さま!?き、騎士さまが!?」
「……熱中症かな?よくここまでフルアーマーで付いてきたな」
(逃げるか?D・ルイワ)
アサシン・麗子の瞳が、冷酷に光る。
「そこ木陰に運ぶぞ、メヘ、モードチェンジ!」
日傘代わりに、背中に乗せていた大剣を、大地に刺すD・ルイワ。
ガチョンガッチョン。
剣は、メイド姿にその身を変える。
その変形変身工程をじっと見つめるD・ルイワ。
不思議だなぁ、よくここまで変わるモノだなぁ。
「あの……ご主人さま」
「なんだ?」
ルイワは騎士の鎧を外しに掛かる。
「あまり、変形時は見ないでください……その、恥ずかしいので……」
「唯一、お前の見せ場ではないのか?」
「見世物ではありませんっ!」
「鎧を外すぞ」
「さ、さわるな!」
騎士が弱々しく抵抗する。
ぱっちん、ぱっちん。
「さ……触るなといっているっ!」
「元気いいな?だが熱中症は危険だ、甘く見てはいけない」
ムニュ。
「ん?」
むにゅ。
「……メヘ、交代、お前が脱がせろ、俺が手伝う」
「ええ、いいですけど?」
「この騎士、女性だ」
「えええええっ!?」
「抵抗できない女性の鎧を外すのは、抵抗がある」
「うううっ」
「ご、ご主人さま!?騎士さま泣き出しましたけど!?なにをされたですか!」
「うう、お嫁にいけない……」
「!!!!!ご主人さまぁ!この短時間に、お嫁に行けないようなことをしたですか!」
「ちょっと待て!お前、横で見ていただろう!?」
「問答無用!そこになおれ!D・ルイワ!我が主の資格無し!その首はねて、我も自爆するなりっ!」
「わ、わざとではない!2ムニュしただけだ!筋肉にしては大きいかなぁ、と思って右と左を……」
「えええっ二回も!乙女を!乙女をなんと心得る!」
「一回目は偶然だ!二回目は確認だ!」
「か、確認とは!?」
「……ごめんなさい、騎士さん。わざとじゃないです」
瞬時に、D・ルイワは素直に謝った。
「……か、かまわぬ、倒れたのは私の不注意だ……シクシク」
D・ルイワ、飲み屋やいかがわしお店では散々ムニュをする。
しかしお店内だけである。
外ですれば、犯罪。
D・ルイワは女性の嫌がることは絶対にしない、したくないのだ(お店は別)。
従って、この騎士の涙は、少なからずD・ルイワを動揺させた。
「お、俺は水を汲んでくる、それまで水筒の水で首、脇の下、内腿を冷やしておけ」
「……わかりました、ご主人さま」
「あん」
「ん?どうかしたか?メヘ?」
「……そう言って、覗こうとしているんじゃないでしょうね?」
「おい、俺はそこまで飢えていないし、せこくもないぞ!」
すっかり信頼を落としてしまったD・ルイワ。
水を汲んで足早に帰ってくると、騎士サンダルとメヘイドケインはすっかり仲良しになっていた。
笑い声まで聞こえてくる。
「D・ルイワ、この鎧は売る、そして軽装備に切り替える、足りない費用をだしてもらっていいか?それでチャラにする、どうだ」
「……わかった」
早速次の街で装備を揃え、龍の元へ向うルイワ。
「いいのか、このような装備?」
「かまわん、お詫びだ」
「しかし、金貨をほとんど使ったであろう?私サイズの女性防具、全て特注……」
「あん」
「メヘ、最近メンテ不足か?」
「私ではありません!」
チラッ。
「わ、私でもないぞ!間者がいるのではないか?」
ギク。
「……ご主人さま、気配はしませんが?」
「そうか」
冷めた目で騎士、サンダル・ルンダルを見るルイワ。
高身長で、スレンダーな身体。
薄い唇に切れ長の目、髪は黒く、その瞳と同じ色である。
鍛え抜かれた上腕二頭筋、見るモノを圧倒する僧帽筋。
本物の騎士はやはり違うな。
ルイワはこの長身の女性騎士に、少しだけ憧れた。
そして何事もなく火の山、登山口に到着する3人、と一人。
本来ならば、ここまでの旅で、ゴブリンやらオーク、魔法生物などとのバトルがあってもよさそうなのだが、一度も戦闘シーンなく、このパーティーは到着した。
なぜか?
それは短編だからである!
文字数の都合上、全てカットした。
悪しからず。
「このまま道を直進すれば隣国の首都だ、我々は右の登山道を進む、今日はそこの山小屋で宿泊だ、俺は一服したら、火龍治療の薬草を摘んでくる、いいな?」
「はい」メヘ。
「ああ、分かった」サンダル・ルンダル。
「あん」?
「ん?」ルイワ。
山小屋に着くと、宿泊者がいた。
雪子(源氏名)である。
「雪ちゃん?なんでここに?」
「ルイワ!?チッ」
「ご主人さま舌打ちされました!」
「歓迎の挨拶だ」
「いや、絶対違いますって!」
「雪ねえさま、この方は?」
小さな女の子が、奥の部屋から出てくる。
ルイワと目が合うと、ささっと雪子の後ろに隠れる。
「ああ、こいつ?こいつが原因さあ」
何故か、頬を染めるD・ルイワ
「ま、まさか、このこが……あの時の!?」
ドゲシッ!
「あほ!キサマとは『清い関係』だろうだろうがっ!」
「……きしょい姦計……?」
「お前の耳は飾りか?この子はサトミが置いて行った子だ」
「サトミ?ああ、あの腹筋が割れている剣士みたいな女性か?」
「剣士だ!ヘルプで店に入ってもらったんだが、そのまま子を置いてドロンだ!」
その言葉を聞き、悲しそうな顔をする女の子。
「メヘ、詳細を聞いとけ、それからこの二人に食べ物と水を。俺は薬草摘みに行ってくる」
「はい、ご主人さま」
サキュバス雪子は騎士団全滅の遠因とされ、王都を追われたのだ。
全滅した騎士団、関係者を許すはずがない、雪子は隣国を目指した。
女の子の親、サトミについては何も分からない。
女の子も母親は傭兵の剣士、としか知らないし、父親のことも知らないらしい。
「俺達は明日、火の龍の治療に向う、それが済めば、隣国まで送るが?」
「断る、もう、トラブルはごめんだよ!簡単に済むとは思えないし、ルイワ、あんた、あの国王が金をちゃんと払うと思っているのかい?殺されるよ!」
むっ、とする騎士サンダル・ルンダル。
「一国の王だぞ!約束は守られる!違えることはない!」
「はん!あんたら皆、頭の中はお花畑かい?私はごめんだよ!この腫れ上がった顔か見えないのかい!?」
「雪ちゃん、その時は逃げるさ」
「逃げれるものか!」
彼女は吐き捨てるように言った。
薬草も摘み終わり、明日の準備をするルイワ。
陽は沈み始め、東の空は黒く闇に覆われている。
「変わった草ですね?」メヘイドケインが珍しそうにルイワの手元を覗き込む。
「これは龍の怪我や病気を治す薬草だ、不思議なことに、龍の住むところには必ずある。これで龍を治療する」
その風景を、遠くより眺めているアサシン・麗子。
(ほう、毒龍草は龍にとっては薬なのか……さすがに詳しいなルイワ。サンダルは素振りか?騎士団からは疎まれているが、私はお前を認めるぞ。事実お前はその辺のヤロー騎士より強いからな……だから疎まれているのだが……この国の騎士は、女を下に見る最低のゲロカスヤローばかりだ!)
監視を続けているうちに、いつしか彼女は、自分もこのパーティーのメンバーであるような気がしてきた。
「メヘ、頼みがある」
「はい、なんでしょうご主人さま?」
(……なにごとだ?ここまで来て、逃げるのか?やはりその程度の者か?いやこいつはそんなヤツじゃない!)
「雪ちゃんは今夜、子供を置いて、金を盗んで逃げるだろう」
「!」
(!)
「ご、ご主人さま!?」
(始末するか、そのような女、生きていても仕方あるまい)
「いいか、見逃せよ、捕まえるな」
「!」
(!!!!!!!!!!!!!!)
「金は彼女が必要だから、俺が渡したと思え、子供は俺の方が安全だから預けたと思え、いいなメヘ?」
「え!?で、でも……」
「いいなメヘ」
「はい」
「それともう一つ」
「……はい」
「あん」
「明日の龍の治療で、俺が死んだ場合のことだ。あの女の子の保護を頼みたい。できればシスタールジーの孤児院へ無事送ってもらいたい。できなければ隣国の孤児院でもいい、俺の名前を出せば、受け入れてくれるはずだ。俺が死んでも頼めるか?どうだメヘ?」
「はい、できます。ご主人さま生前の命令ですので……で、でもいやです!死ぬなんて言わないでください!」
(このお人好しの馬鹿者っ!)
アサシン・麗子は本気で怒った。
そして巨大化する瞳のハート。
「そこ、聞いているだろう?」
(なっ!バレた!?)
「ああ、聞いていた」
(サンダル・ルンダルか……)
「騎士サンダル、見逃してもらうと助かる」
「なぜそこまでする?」
「俺が孤児で、俺を育てたのが……街の……夜の女達だからだ」
「!」
「そうか、だが、死ぬとか言うな」
「サンダルが、俺を殺すのではないのか?そういう命令を受けているだろう?違うのか?」
「いや、私は受けていない。私をそんな目で見ていたのか?」
「いろんな目で世界を見ないと、生き残れないからな」
「ご、ご主人さま、死ぬのはなしです、この伝説の剣、メヘイドケインがお守りいたします」
「泣きそうな顔するな、進んで死にはしない」
しかしメヘ、お前はレベル50じゃないと使えないだろう?とは言わない。
意外と使えるからだ。
そしてアサシン・麗子は心を打たれた。
(そ、そこまでして……子や女を助けるのか?この馬鹿者!)
アサシン・麗子は知っている、国家権力に睨まれて、生き残るのは難しいと。
「……ならば、私も捨て石ってことか……」
死を覚悟するサンダル・ルンダル。
「私は結局、誰からも認められなかったのか……騎士として頑張ったつもりだったのだが……私の道は、ここで終りかぁ」
「サンダルさま!簡単に終りとか言わないでください!」
祈るような声を吐き出すメヘイドケイン。
夕日に浮かび上がる三つの人影。
その姿を見て、呆然とするアサシン・麗子。
私のパーティーが、明日終わるのか?
私が、あの二人を殺し、いや、あの子供も口封じに殺めねばならぬ。
そして伝説の剣を奪い、王に献上するのか。
ルイワを殺す?サンダル・ルンダルを?あの親に捨てられた子を殺すのか!?
私が!?
……いや、いつものように、剣を刺すだけだ。
死んだ事すら分からないだろう。
だが、今回は……。
アサシン・麗子は道中、危険なオークやゴブリン達を先回りして始末していた。
勿論、早く火の山に導くためだ。
それだけだった?
必要以上にあのパーティーの安全を、考えてはいなかっただろうか?
いつも通りに動くのだ!そして、仕事を早く終わらせ、次の仕事を待つ。
普段なら決してしない行動をするアサシン・麗子。
彼女は、王とルイワを比べた。
あの王のため、どれだけの人を、エルフを、妖精を殺めてきた?
剣技レベル3?
レベル26のアサシン・麗子からみればゼロに等しい。
そのゼロがレベル50の剣を従え、火龍に挑み、騎士団に挑み、我が王をケチと愚弄する。
アサシン・麗子は泣きながら、笑った。
笑わせてくれる、D・ルイワ!
そして何かが壊れた。
(……そ、そうだな、死ぬなんて言うなっ!ぐすっ、わ、私がこの麗子が守ってやるぞ!)
アサシン・麗子はもはやパーティーの一員、ただの麗子になった。
次の朝、ルイワの言うとおりになっていた。
金は無くなり、雪子も消えていた。
シクシクと悲しそうに泣く女の子。
メヘイドケインは優しく髪を撫で、サンダル・ルンダルはその小さな手を取る。
そして山小屋前に降り立つ、火龍の親子。
「遅い!遅い!遅いっ!」
「やあ、火龍、治療に来たぜ」
「ははははっ、やはりキサマかルイワ!」
「お、これが子供か?」
そこには2m程の龍が小首を傾げ、ルイワ達を眺めていた。
「鱗の具合はどうだ?酷い目にあったな、今度からは注意するのだぞ」
臆すること無く子供の龍に近づき、鱗の具合を見るルイワ。
「ご、ご主人さま?怖くないのですか?」
「ああ、龍の逆鱗が緑色だ、リラックスしているか、何かに興味があるときの色だ」
「く、詳しいのだな、ルイワ殿は」
「あん」
「?……青色になったらおしまいだ、氷の鱗といって、激怒している時だ。この子は問題ない、メヘ、今なら撫でてもいいぞ。さて、どこに刺さっている?」
ルイワは首を上に向け、恐ろしい龍の顔に問いかける。
「……翼の付け根だ」
「背中に登るぞ」
平然と、龍の背を登るルイワ。
「あの時の矢だな……」
他の矢は抜け落ちたみたいだが、1本だけ、深々と刺さっている。
「この矢か……」
「知っておるのか?」
「ああ、俺もメヘも一度、こいつに射られている」
「はああ?人族が?普通、死ぬぞ!?」
「運悪く三本も刺さってね、運良く生き延びた。メヘ、やはりあの矢だ、お前なら抜けるだろう?」
きゃっ!きゃっ!
「なんだ?」
その声を探してみると、女の子とメヘ、サンダルが、子供の龍と走り回って遊んでいた。
おい……かなり危険な治療をしているのだが?遊んでいる?手伝おうとか思わない?
俺、呼んだよね?呼んだよね?それに、親が痛い目に会っているのに、なに遊んでんねん?心配では無いのか!?
とは思わない。
「人族の子も龍の子も、遊んでいる時は変わらないな。あの龍の子、孤児院遊びに来ないかな?人気者間違いなしなんだが。あ、どこかの龍がブレスで皆殺しにしようとかしたよなぁ同じ子供なんだが……チラッ」
「……早く矢を抜け」
「メヘ!登ってこい!」
「はーい!ご主人さまぁ」
とことこと登ってくるメヘイドケイン。
「あ、大徳の矢ですね」
「特殊な矢だが、お前なら抜けるだろう?」
「はい」
メヘイドケインが触ると、矢はしゅっ、と球状に形を変え、その手に収まる。
「ぐっ!」
一瞬声が漏れる火龍。
その声に立ち止まり、上を見上げる子供の龍。
「大丈夫だよ!ぷーちゃん!もう矢は取ったよ!」
「「ぷーちゃん!?」」
「はい、鼻からぷっ、ぷって息が漏れるのです、ですからぷーちゃんと名付けました」
「メヘ、お前が名付けたのか?」
薬を塗りながらルイワがさりげなく尋ねる。
「はい、可愛いでしょう?」
「ああ、そうだな……火龍、諦めろ。もうあの子はぷーちゃんだ」
「……くっ」
「名を聞いてもいいか?私の名はデスティニー・ルイワ」
「我が名はレーデイナ・ブラウ……ぷーちゃん・ブラウだと?今より天に召されるその日まで、数千年の間、あの子はぷーちゃん……と呼ばれるのか……」
「……ぷ」
「おい、きさま!今笑ったであろう!?」
「いや?ほれ、治療は済んだぞ!報酬の鱗、もらおうか?それとも殺すか?殺すのなら俺だけにしろ、他はゆるせ」
「……」
火龍は何かを考えているようだ。その目に映るは、女の子と遊ぶ、ぷーちゃん。
「ならば王都、エルフの里は焼いても構わん、だが孤児院は見逃せ、駄目か?」
「あん」
「?」
「伝説の剣を所持しているが、レベル3では命が幾つあっても足りないであろう」
「……ああ、今、一個目が消えようとしている所だが?」
昨日の夕方、テメーらシクシクモードだったくせに、なに無邪気に龍と遊んでいる!
まずは女の子、逃がせよ!おめーだサンダル!このままじゃ皆ブレスの餌食だろーがっ!
おめーもだメヘ!龍の名付け親にしれーっとなりやがって!何が生前の命令だ!横に突っ立ってないで、女の子保護しろよ!なに龍と遊んでいる女の子みつめて、微笑んでいるんだよ!たすけないといけないじゃああああああん!と、一瞬は考えたが、その考えは消された。
どのみち、この状況なら、メヘ以外、皆助からん。一番後悔しているのはメヘであろう。
ルイワは、振るえるメヘイドケインの手をそっと握った。
龍が合図をする。
ルイワとメヘイドケインは背中を降り、サンダルと並ぶ。
「……報酬の鱗だ。この龍の鱗は回復の鱗だ」
「?」
「瀕死の時、この鱗を傷口に当てよ、一度だけ回復することができる。その時、龍の力もその身に宿るだろう。どうだ?お前に相応しい鱗であろう?」
「……ありがとう」
「報酬じゃ、礼はいらぬ。では我らは旅に出る。もう会うこともあるまい、さらばだ。行くぞ、ぷー」
「ぷー」
「……」
「どうしたメヘ?」
「この鱗、自分に使えば簡単に回復できたのでは?」
龍の目が、メヘイドケインを捕らえる。
ニッと笑う火龍。
「そうであったな、だがそうすると、お前達に出会えなかったであろう?」
そう言って火龍は舞い上がった。
飛び去る火龍の後ろ姿に、女の子はいつまでも手を振り続けていた。
「どういうことだ?」サンダルが聞いてくる。
「罠だったのさ、殺すつもりだったのだろう……そして途中で気が変わった……どうしたメヘ?」
「問1はクリアーです、生き延びることができました。次は問2です。ご主人さま、どちらに向われます?王都に帰られますか?それとも隣国に向いますか?」
「サンダルは、王都に辿り着けない、おそらく途中で殺されるだろう。それは俺も同じか」
「では隣国へ?」
「そうだな、どうする?サンダル?お前は王都の騎士だ、帰るか?」
「……騎士は廃業する。ルイワさえよければ一緒に隣国へ行きたい」
「では、隣国へ行くか、途中、必ず襲撃がある。メヘ、いざとなったら女の子を孤児院まで送れ、いいな?」
「……はい」
隣国を目指すルイワ一行。
しかしその日は何事も起きなかった。
「……」
「どうした、ルイワ?」
「見逃したのかな?」
「いや、あの国王だ、必ず動きがある」
次の日の朝、火の山の山道を抜け、森に差し掛かると、ルイワは異変を感じ取る。
剣撃の音、血の臭いだ。
「メヘ、モードチェンジ剣、サンダル、女の子を逃がせ!」
「ルイ、逆だろう!私の方が強い、お前が女の子を逃がせ!」
「……そうなの?」
「私はレベル32だ!」
……火龍に勝てるんじゃね?
が、猪突猛進のルイワは、もう森の中に突撃していた。
そこには、王都騎士の死体が数多く転がっていた。
「全て……一撃?」
「あん」
「!」
聞き慣れた声が響く。
全力で走り、声の主を探すルイワ。
そこには、今、まさに斬られ、倒れようとしている女性がいた。
「この裏切り者め!きさまの死体、王都に晒してくれる!」
騎士がトドメを刺そうと、剣を構える。
「メヘ!槍!」
「はいっ!」
突然伸びるメヘイドケイン。
ガインッ!
その先端は騎士弾き飛ばし、急速に縮まる。
握り手部分をルイワごと、引き寄せるメヘイドケイン。
ルイワが考え出した高速移動法だ。
起き上がる騎士に、トドメを刺すサンダル。
おそらく顔見知りであろうが、その行動に一切躊躇いがない。
「サンダル……き、きさまぁ!」
「お前に潰された女性騎士達の恨み、今こそ思い知れ!」
「メヘ、モードチェンジ!」
ガチョンガッチョン。
「ご主人さま、この方は……?」
「知らん」
軽装の装備は全て破壊され、裸も同然である。
その肌に刻まれた傷はどれも深く、ドクッドクッと黒い血が流れ出ている。
動脈出血だ。
右腕は無く、全身血まみれである。
それでも麗子は立っていた。
そして、ルイワを認めると、膝から崩れ落ちた。
慌てて抱き留めるルイワ。
「ひゅーひゅー」
もはや麗子は声も出ない。
(まさか私が、暗殺者……の私が……ほ……た男の腕の中で死んでいくとは……)
その目からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「メヘ、鱗」
「え?」
「早くしろ!」
「は、はい!」
(こ、この馬鹿者!その鱗は龍がお前のために!)
ルイワは躊躇うこと無く、鱗を麗子に使った。
その血まみれの身体に、鱗を置き、手を乗せた
パチン!
鱗が砕けると同時に光に包まれる麗子。
「!」
光が収まるとそこには、傷一つ無い、眩しい程美しい裸体が、ルイワの腕中に横たわっていた。
目を合わせるルイワと麗子。ルイワの目線は麗子の目を離れ、赤い、美しい唇に移る。
その唇がゆっくりと動く。
「なぜ使った?龍の贈り物、国宝級だぞ?」
あの火龍の鱗だぞ?信用できるか!とは言わない。沈黙は金なのだ。
そして、なぜ鱗を知っている、とも聞かない。質問は答えを求めるからだ。
そしてのその答えが必ずしも、自分にとって心地よい答えとは限らないことも、ルイワは知っている。
「動けるか?」
「……すまない、まだ力が入らない……」
ルイワの視線はほっそりした顎に移り、細い首に移り、鎖骨、ゆっくりと上下している巨大な女性の膨らみに移る。
「おい?」
そして、綺麗に割れている腹筋に移り、可愛いお臍を見つめる。
「こら、ルイワ?」
麗子の目には、相変わらず巨大なハートマークが存在しているが、怒りも同居し始めた。
女性の身体をじろじろ見てはいけない。
当たり前のことだ。
それも裸ん坊だよ?
「何を見ている?ルイワ?」
「健康で、綺麗な大人の女性を見ている」
その言葉、麗子は嬉しかったが、怒りが上回った。
「このドスケベ!さっさとマントをよこせっ!」
怒号と共に、その口元から迸るブレス!
「え?」
グオオオオオオオッと吹き出た衝撃波ブレスは周囲の木々を粉砕し、大きな広場を作った。
龍の力が宿る?……ルイワは思った。
やっぱ、使わなくて良かったと。
ルイワ、サンダル、麗子、女の子、この4人が始まりであった。
数年後、魔王に挑むパーティーの誕生である。
だがそれはまだ、遙か先のお話し。
彼らはここより、隣国を目指す。
盾(剣)メヘイドケイン愛染 D.ルイワ 筆頭
剣(盾)メヘイドケイン不動 サンダル・ルンダル
鞭 メヘイドケイン降世 紫・麗子
琵琶 メヘイドケイン弁天 名の無い少女(無詠唱魔法使い)
槍 メヘイドケイン沙門 孤児院の男の子(本編未登場)
杖 メヘイドケイン迦楼 D.ミンミン
弓 メヘイドケイン大徳 エルフの男の子(2で助けた男の子)
銃 メヘイドケイン健軍 ぷーちゃん
伝説の剣はメイドに変形しますが使えません3
おわり
時間は掛かりましたが、三部作完成です。
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