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「さて、今大会、最高レベルのキャラクター、ローリエ選手の登場です!」



 実況が、そんなことを言う物だから。


「うぐぅッ!?」

 

 言葉によるプレッシャーと、さらに沸く歓声によるプレッシャーが、ローリエに襲い掛かる。


 そしてザマァも。


「おや、手に日傘でしょうか。それに目隠しをしているように見えますが? 何かすごい装備なのでしょうか?」


「ううっ!?」


 実況と解説が何かを言うたびに。

 

 眼に見えなくても。

 注目されている、ということが肌身に感じられる。

 それに、【完全なる方向感覚ディレクションセンシング】というパッシブスキルは、あらゆるキャラクターの向きを知らせてくれるスキルだ。

 皆が、ローリエを見ている、ということがさらにそれで伝わってくる。





 想像してみてほしい。


 他人という物がとことん苦手で。

 今までに注目されるようなことから逃げ続けてきた人間が。


 初めて立つ舞台が、満員御礼のドームのマウンドだったら。


 果たして正常な精神でいられるだろうか?




 きっと、そんなわけないのである。


 


 あがががが。


 ガクガクというかブルブルというか。


 ローリエは緊張やらなにやらで、完全に誤作動を起こし始めていた。


 

 目隠ししていなかったら酷い顔がもっとひどい有様で、大型のディスプレイで中継されていたことだろう。


 隣のウィスタリアがその様子を呆れて見つめる。


「もう、情けない」

 

 しかし。

 キャラクターの状態異常の治療は可能でも。

 プレイヤーの状態異常の治療はさすがにできぬ。


 

 そんな中。


「――そして、ローリエ選手の相棒は、獣人族の少女、ウィスタリア選手です」


 実況N氏が、ウィスタリアの紹介を終えてしまった。


 状況は問答無用で、無慈悲に進行していく。


 

 今はもう、戦闘準備を行う時間だ。



 ウィスタリアは、左手にエレメンタルガードという名の小盾を。

 右手に魔工短機杖マシジックオートワンドを。

 肩からは、小型のランチャーのようなものを提げ。



 準備を終える。


 その隣で、ローリエは日傘を持ったまま動かない。


「ローリエ? 武器それでいいの? 防具は? 道具は? カバンは?」


 お出かけ前の子供のママか。


 という感じで心配するウィスタリア。


 だが。


 時間はまってくれず。


 与えられた準備時間が終わって。



 精神を妄想のお花畑に逃げ込こませてしまったローリエをしり目に。



 

 倒すべき魔物が召喚される。




 



 大量の水が渦巻き。


 冷気が舞い踊り。



 周囲一帯に、水気と冷気。すなわち――水と冷の現象核(オリジン)が、満ち溢れる。

 

 

 そうして。



 現れたのモンスターは。


 一体だけだった。



 だが。




 その姿に、会場はおろか。

 実況も、猫ミミのメンバーも驚く。


 言葉を失くすほどに。



 数テンポ遅れて実況が響く。


「なっ、これは……なんというモンスターでしょうか!?」


 ザマァが叫ぶ。


「ま、まさか、これは、エスペクンダの湖にあるメルクリエ湖底神殿の――!?」

 

 

 フェルマータも。

「あ、あいつは!?」


 マナも。

「……こんなところで再会するなんてね」

 

 

 






 召喚されたその魔物は。

 

 まるで巨大な魚。



 シーラカンスのような見た目の魚類の姿形で。 


 小型のクジラほどの大きさを持つ巨体。


 それが、水中を往くかのように、空宙を泳いでいる。




 しかし。



 そいつは、魚じゃない。




 『精霊』だ

 



 メルクリエ湖底神殿の、最奥で挑戦者を待ち受ける。



 そんな、大ボスなのだった。






 ◆ ◆ ◆ ◆




 そんな戦闘領域の様子を、ギルド員専用のVIP観覧席で眺めてる一人の老人が居た。

 正しくは、老人の姿をしたキャラクターだ。


 あえてそういう老いたキャラクタークリエイションの施された見た目で。


 和装のような外見に。

 カタナを一本差したスタイル。


 白髪に、白髭。


 しわのある顔。


 その老人が、傍にいる、ムキムキマッチョの大男に話しかける。


「――のう。弟子よ」 


「なんです、師匠?」


「お主は、あやつのことをどう見る?」


「ローリエ選手のことですか?」


 ローリエ。

 その名を少し噛み締める時間をおいて。

 老人は「うむ」と頷いた。


「……まだ一太刀も見ておりませんので、なんとも。ただ……」


「ただ?」


「普通の者より、苦労はしているかと」


「なぜそう思う?」


「あの者が身に着けている装備では、通常よりも1.4倍ほどの敵を倒さねばなりません。その条件で99Kまでとなると、相当頑張らねばなりませんから……」


 つまり、弟子はローリエの事を強いと思っているという事だ。


 それに老人は、ふむ、と頷き。


「数字の上では、そうかもしれぬな」


「では師匠は、あの者が、見かけより(●●●●●)弱いとお考えで?」


 それに、ふッ、と老人は笑った。

 そして、長身の弟子の顔を横目で流し見る。


「その見かけが、あんなに弱っちょろいのだがな?」


「……まぁ、確かに。歴戦の戦士というよりは、まるでどこかの箱入りのご息女のようにも見えますが……」


 だが。

 と老人はつぶやく。


 ああいうヤツほど、油断は出来んのだがな、と。

 

 そんな折。

 観覧席にスタッフが入ってくる。


「ギルマス、……と、剣聖どの。こちらにおられましたか」


 大男が振り返る。


「どうした? 何か問題か?」


「いえ。アシュバフのギルドマスターに少しご相談したいことがある、と申し出ている者がおりまして」


「その者は?」


「今、裏門の前に」


「そうか、今行くと伝えろ」


「了解です」


 そうして、ギルドマスターは出て行った。


 残された老人は、それを見送ると。


 再び、戦闘領域に目を向けるのだった――。



  ◆ ◆ ◆ ◆




 そしてローリエは、今も、動作不良中だった。



 


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― 新着の感想 ―
[一言] 強モブならともかくボス格が出てくるのは流石に物言いレベルというかクソゲー過ぎる…… >水と冷の現象核が、満ち溢れる >まるで巨大な魚 ん?水属性? >水-100 (無効) んんwww
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