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「『飛去来盾』!」
使い果たした弾倉を、ポーチに回収し。
別のポーチから取り出した新しい弾倉に交換する。
その隙を埋めるべく放り投げられた大盾が、子狐を狩りに来る不埒者を『殲滅』という形で仕置きつつ。
吹雪く視界の中。
そんなウィスタリアの真横を、ドワーフは駆け抜ける。
小さな背中が、走り、前に出る。
戻ってくる大盾を、掴み取り。
そうして、フェルマータが本来の役割に復帰する。
それと交代する形で、ローリエが後ろへ退いた。
しかし、それでもフェルマータは足を止めない。
止めないまま――。
【装備武器防御】で敵の反撃に耐えるユナと。
防御という思考なく、痛みという概念なく、強靭な顎でソルジャーを噛み砕き、そしてなお『声なき咆哮』によって敵陣を怯ませ、騎手を支援するドラゴンゾンビ。
それに合いの手を入れるように、フェルマータは片手槌攻撃スキルの【粉骨砕身】で、ユナを襲っていた骸骨兵を粉砕しつつ。
まだ走る。
走りながら。
「……『広範囲・敵性解除』! 『広範囲・挑発』! 『短時間怯み無効』」
広範囲の敵の注意を、一気に引き寄せる。
基本戦闘マスタリの【タックル】で、敵を弾きながら。
敵をかき分けながら。
敵陣の中心を目指す。
後方には、パーティの3人と1匹が取り残されるが。
敵のヘイトは、フェルマータに集中している。
夥しい数の軍勢に集中砲火を受けるフェルマータは。
ローリエのかけた風の守りで被弾確率が激減しているが。
それでも、さすがに少しづつHPを削られていく。
1回のダメージが1でも、100人から受ければそれは100ダメージになる。
しかし今のフェルマータは強制的な怯みやノックバックすらも効果はない。
故に、どのような攻撃でも、フェルマータの進撃は止められない。
そして、到達した不死者の軍勢の中心で。
フェルマータは新しく習得した、『必殺技』を使用する。
小さな跳躍から、地面に叩きつける武器を中心に描かれるのは、大きな魔法陣――。
それは、特定のスキル獲得を条件に覚える――、
「魔法戦技!! ――」
聖属性マスタリの
【聖域展開】【大祓魔陣】【不死魔族特効】
命属性マスタリの
【大広域治癒】
基本戦闘マスタリの
【猛追撃】
練気マスタリの
【気迫陣】
今、フェルマータはそのすべてを、集約して放つ。
その魔法戦技の名は――。
「――『 聖 十 字 陣 衝 』!!」
瞬間――。
フェルマータを中心とした純白の輝きが、巨大な十字架となって天空に立ち上る。
対悪魔と対不死に特攻する、聖属性の物理と魔法の現象ダメージが、不死の軍勢を浄化させていく。
不死というのは概念のようなもので。
死んでなお動くというのは不条理に過ぎる理だ。
そんな不条理を撃ち砕ける物は、間違いに気づいていない生命に、正しさを説き伏せることができる概念でなければならない。
所謂、神聖なもの。
そして『浄化』とは、アンデッドに対する『死』であり、安息である。
たとえ、『浄化』の状態異常効果に耐えたとしても。
聖属性の膨大な威力は、『日』、『聖』、『命』の属性を弱点とする者達に耐えうる術など無く。
雪原の大地に刻まれた、大きな光の十字架は、下級のみならず、上級のアンデッドすらも問答無用で消滅させていった。
きりがない、と言われていたアンデッドの群れが、一時的に消滅し。
雪原に点在していた黒が消え、ひとときの平和が訪れる。
地面に、屈し、槌を突立てた状態だった少女が、立ち上がる。
ツーサイドアップの薄桜色を吹雪にさらし。
フルプレートメイルの上に纏うロングマントをはためかせ。
ウサミミ姿の、小柄な少女。
その背中に、パーティメンバーが集まってくる。
すごい威力だ、と。
一瞬で全滅させるなんて、と。
かっこいい、と。
皆が称賛する中。
ドワーフは言う。
「……やっぱり、すごい量のMPとスタミナ減るわ……。連発するのは無理ね……」
そして、不死の軍勢はどうやら『ブラッドフォート領』雪原の、奥地からやってきているようだった。
ダンジョンのように。
定期的に湧いて出ているのではなく。
やってきているのだ、どこからか――。
ローリエ達は、その後も、新たに押し寄せる不死軍を倒し続け。
だれかがログアウトするようなタイミングで、ジルシスの元へと帰還するのだった。




