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 この世界。

 第二世界(スフェリカ)は、とことんリアリティに拘った設計をしている。

 余計なインターフェースは、視界になく、完全にもう一つの現実を思わせ、錯覚させる。


 太陽も、月も、星々も。

 独自に定められた法則に従って、公転自転している。


 

 故に。


 雲も、季節も、風も動く。

 なんなら、天気予報が可能なスキルだってある。

 

 

 

 だから。

 首都の上空に差し掛かった急な暗雲が、土砂降りの夕立をもたらしたとしても、特段不思議なことではない。


 

 ローリエが。


 自分を入れてくれるパーティに巡り合うために。

 屋根の上をうろつき、下界を見下ろし。

 

 たまに地上に降りたかと思えば。


 人気のない場所にぽつんと立ち。

 いかにもな『私強いですよオーラ(自己評価)』を出し。


 誰かに、『パーティに入りませんか』と声をかけられることを期待するような。

 全く持って無駄で、頭の悪い、都合のいい愚考を繰り返していた時。



 それは起こった。



 数度の雷鳴が轟いたかと思えば、首都全域は急な豪雨に見舞われた。

 種族がら、雨が大好きだったり、有利だったり、全く気にしない輩も居るけれど。


 多くは、人間の思考のそれで。


 街中のプレイヤーやNPCは、次々に傘や雨具を纏い。

 雨天に閉店する店は、そそくさと看板を下げ始める。



 そして、雨が嫌いで、雨具の無い輩がやることは一つ。


 雨宿りだ。 



「ひぃ、ヤバイヤバイ」


 雨はともかく、雷に撃たれたらただでは済まない。


 突っ立って、『誘ってオーラ』を振りまいていたローリエは、一目散に近くの建物の軒下に逃げ込んだ。

 幸い、首都の中でも人気のない路地で、誰かに巡り合う率は少ないだろうと思われた。



 降りしきる雨。

 地面に強く打ちつける、雫、雫、雫。


 ざぁぁぁぁぁ。


 聞こえる音が、雨音だけに支配されたかのような。


 そんな錯覚。


 ローリエは、路地の軒下から、曇天を見上げる。




 冷静になる。


 


 ――なにをやっているんだろう。


 そう思うのは、生きてきて何度目だろうか。

 何千回目だろうか。



 どうしてこうなったのだろうか。

 

 そう、思う時は良くあるけれど。

 その答えは、既に分かっているのだ。


 他人と付き合うことが怖い。

 他人が怖い。

 なのに、仲良くしたい。



 不毛な、二律背反。

 

 全部、自分が悪い。

 こんな、性格なのがいけない。

 

 他人の中に入っていけない。

 他人に自分から、声をかける勇気がない。

 

 お腹がすいても。

 飲食店には入れない。

 個人経営も、チェーン店も、ファーストフード店も。

 コンビニでさえ。

 うまくお買い物ができない。


 ネット通販だけが、ローリエの、愛海の、友達だ。


 そんなやつが、パーティプレイに憧れるだなんて、きっとおこがましい事なんだ。


 ローリエは、もうすぐ成長限界だ。

 よく考えれば、割とやり切ったと言えなくもない。

 

 ――もう、やめようかな。引退しようかな。

 そんな考えがよぎる。


 雨の中。


 冷たい雨の中。


 軒下から零れた、水滴が顔に当たって。

 頬を伝って。


 顎を伝って。


 地面に落ちる。 一滴。



 そんな瞬間に。



 物思いにふけっていて気づけなかった。

 すべてのスキルの警戒をかいくぐって。


 遅れて知った時にはもう遅い。

 魔銀製甲冑(ミスリル)の擦れ合う金属音を奏でさせ。


 ロングマントをカッパのように身体に巻き付けて。


 その小柄は、ローリエの居る軒下に駆け込んできた。


 ばしゃばしゃ、と――。


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