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フェルマータ、マナ、ローリエ、ユナ。
4人は、首都から南に下った砂漠地帯に来ていた。
そこは以前、ローリエとユナが訪れた石邪王遺跡群があるところだ。
その砂漠地帯に散らばる幾つもの遺跡は、ひとつひとつが大小のダンジョンであり。
石材で建てられているのは共通だが、内部の間取りは多種多様だ。
地下水脈に通じる水場がある遺跡。
狭い通路だらけの遺跡。
トラップ地獄の宝物殿。
などなど。
その中から、4人は、ただっぴろいフロアを有する遺跡を選択した。
1フロアの面積もさることながら、天井までの高さもある遺跡だ。
そこならば、ヒューベリオンも陽の光でペナルティを受けることもなく。
ユナも、2メートルのポールウェポンを存分に振るえるだろう、という目論見だ。
そんなユナの雰囲気は、今回からガラリと変わっている。
真紅のふりふりドレスの上に漆黒の金属甲冑を身に着けたユナは、背中にハルバードを背負っており。
防御力あるんか? とつっこみたくなるような、隙間だらけの兜から、真っ黒なツインテールを、吹きすさぶ砂嵐に靡かせている。
そのクセっ毛なツインテールには、赤いリボンが目立っていた。
これは黒い兜に黒髪では、真っ黒すぎるし、黒のイメージカラーは既に埋まっているとマナに気にされた結果で。
最終的にユナのカラーリングは、黒と赤で構成される感じになっている。
さらに、ドレスのスカートはアイドル風なミニ丈で、それに合う可愛いデザインの甲冑は、少女感を損なわない可憐さだ。
具足はピンヒールになっていて、太腿までを覆う装甲は、絶対領域を作り出し、露出した素肌が、黒い装甲と対比して眩しい。
ついでにパンツもかわいいのになった。
そしてユナの傍には、今インファントドラゴンゾンビのヒューベリオンは居ない。
ヴィエクルスフィアに収納状態でユナが持っているからだ。
4人は今、目当ての遺跡。
その入り口に到着したばかり。
遺跡の前に、皆が立ち止まったのを見計らい。
先頭を歩いていたフェルマータが、振り返る。
「ユナちゃん」
「はい?」
「入る前に一つ聞きたいのだけど、ユナちゃんは、私達『に』ついてくる方が良い? それとも、私達『が』ついていく方が良い?」
「え!? っと……?」
ユナは、フェルマータの言葉の真意を測りかね、即答できなかった。
マナがフォローを入れる。
「深く考える必要は無いわ。ただ、私達の前を歩くのか後ろを歩くのか、って言う話」
「ユナちゃんの好きな方で良いんだよ。急ぐつもりないから」
深く考えなくていい。
そう言われても。
ユナは、考えを巡らせた。
そしてこう思った。
これは。
手伝ってほしいのか。
見守って欲しいのか。
どっちがいい?
そういう選択だと。
両方のメリットとデメリットを天秤にかけているのだ。
手伝ってもらえば、ユナは早く強く成れる。
逆に、見守ってもらえれば、ユナは強くなるのは遅いが、死んでも起こしてもらえるし、じっくりゲームを楽しみながら自分のペースで強くなれる。
ひとりしかキャラクターが作れないゲームだから。
早く強くなることが必ずしも正解ではない、という話で。
弱いうちには弱いうちの楽しさや、苦労がきっとあるから。
その過程を、楽しみたいならば、急ぐ意味は何もない。
確かに、一歩づつ強くなるというのは楽しいかもしれない。
苦労があるほど、プレイヤーへの経験値は高いだろうし。
高みに来た時の感慨深さも筆舌に尽くしがたいことだろう。
でも。
ユナは、この遺跡の地下で。
インスタントダンジョンで。
弱い事の辛さを噛み締めた。
ローリエに助けられてばかりで。
あのナハトとかいう暗殺者に遊ばれっぱなしだった。
それにそもそも、もう手助けはされている。だから。
ユナは、自分の真っ黒な鎧の、その胸元に手を置いて。
「私は早く強くなって、ローリエ先輩の役に立ちたいです」
え?
急に自分の名前が出た幼い風貌のエルフが、ヒールで高くなったユナの顔にを見上げ、視線を送る中。
ユナは、凛として続ける。
「それに既に、私は皆さんから色々なものをいただいていますから、今更なお話ですよ? 大精霊、倒すんですよね?」
フェルマータの、急ぐつもりはないという言葉は、パーティが大精霊を討伐するという目的があるから。そのためにユナは速く強く成ろうとしなくてもいい、そういう意味だろう。けど。
ユナの時間は限られている。
それを踏まえても、余りのんびりはしていられないのだ。
早く強くならないといけない。
今、ユナが一番嫌なことは、足手まといになることだから――。
マナは、納得したように目を伏せ。
ただ一言、「そう」と応じ。
フェルマータは、微笑を浮かべると、前を向き直し。
「じゃあこっちよ」と、ユナを先導しはじめる。
3人の前を歩くフェルマータは、遺跡に入ってすぐ直角に歩む方角を変え、脇道のようなところへ入る。
そして、床に魔法陣、その中央に台座、という一室に、皆を案内した。
マナが説明する。
「ユナ、ここの台座に触れて、地下70階を選択して頂戴」
その魔法陣は、転送用のモノで、1回踏破したフロアを自由に行き来できるエレベーターのような役割を担う。
踏破済みの判定は、パーティ単位で行われており、1回も踏破していないユナでも、他のメンバーが踏破済みならば同行が可能だ。
リアル事情で、ユナがなかなか接続できない合間に。
ユナ以外の3人で遺跡をある程度踏破しておいたのだ。
だから、今すぐに、4人は70階という上位の狩場で、SP稼ぎをすることができる。
でも。
「そのまえに、強化かけますね」
ローリエが率先して持ちうる基本強化をかける。
「そうね、そうしましょ」
つづいて、フェルマータもそれに倣う。
ユナが、スフィアからヒューベリオンを開放し。
準備を終えた一行は、狩場へと入る――。