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 射出された砲弾のような結晶が、一定距離で飛散し、無数の破片が前方広範囲を蹂躙する。

 本来は岩石だが、【宝石生成(グロウ・クリスタル)】を高レベルで取得しているローリエの弾丸は、宝石弾に置き換わっている。


 しかし、撃ち出された散弾のその大半は、『リビングアームズ』の大盾に防がれ、ダメージとしては期待できる代物ではない。

 ローリエが、魔法使いとしては半端な魔法攻撃力だから、というのもあるが。

 『リビングアームズ』の物理防御力が高いからと言うのもある。

 宝石の弾丸というものは、魔法で作り出した物理攻撃だ。

 特に、土、木、金、といった属性は、物理防御力で受ける『物質魔法』を多く完備している。

 【石片の散弾(ストーン・ベネリ)】が『打撃』判定の魔法であり、『リビングアームズ』が『打撃』に弱い魔物であることを差し引いても。


 決定打にはなりえない。


 だが。

 この地下遺跡に豊富にある、土の『現象核(オリジン)』利用して。

 ローリエは、土属性初級魔法の【石片の散弾(ストーン・ベネリ)】を、通常よりも早いスパンで、連続射出し続ける。

 それはダメージが目的ではなく。


「動くな、動くな、動くな、動くなぁ!」


 だって怖いから。

 ここはIDで。

 何のスキルを所持しているのか、予想がつかない特別製だから。

 早く仕留めて、終わりにしたい。

 

 だから。

 こうして散弾を乱射していれば、敵は動けない。

 『リビングアームズ』は大盾による防御状態を維持しなければならず。

 結果的に動きを拘束された状態になるから。


 敵の攻撃に当たれば大ダメージは必至。

 

 でもたとえ、弱点の属性でも。

 攻撃させないのであれば、問題ではなく。

 当たらなければどうということは無いわけだ。


 そんな『リビングアームズ』は今。

 大盾を、宝石の散弾で凹まされ続けながら。

 防御をとり続ける。


 その状態を維持させながら。

 

 強化の魔法によって、壁に張り付くことも、空中を走ることも、空中に立つことも可能なローリエは、強化込みで200近い敏捷性を使い、超高速で、三次元的に縦横無尽に動きながら、四方八方から宝石の散弾を打ち付ける。


 翻弄するような形で。


 少しづつ間に合わなくなる、盾の動き。

 そしてついに、後方に回り込める瞬間がやってくる。

 ローリエは、その一瞬で接近し、自分の数倍はあろうかと言う大きさの魔物に向かって、至近距離から。

 

 『木属性』の例外を、放り投げる。


 「『強酸の果実(アシディック・ポッド)』」


 強酸は、例外的に『火+熱』の属性をもつ木属性魔法で、特に『(ごん)属性』には単純な『火』属性攻撃として機能する。

 つまり、弱点属性での攻撃になるということで。

 『リビングアームズ』に直撃して、破裂した果実からあふれる『酸』が、その身体をじゅわっっと溶解させる。

 

 大きく怯む魔物は、もはや隙だらけで。

 盾による防御をしている場合ではなく。

 

 その無防備な所に。

 ローリエは残るMP分の全てを使って、弱点を突ける強酸の榴弾を、幾つも投げつけた。


 倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ、と念じながら。


 魔物は、ほぼ滅多打ち状態になって。


 浮遊していた『リビングアームズ』が、地面に倒れ込み、カラカラと喧しい音を奏でる。

 倒れた状態の『リビングアームズ』は、全身を焼かれ、煙を上げ、状態を見る限りかなりボロボロになっていた。


「どうですか!」


 スタミナも結構消費した状態で。

 ちょっと息を荒げつつも。


 ローリエは得意げだ。

 もう敵はこれで虫の息だ。


 あと一息で、倒せる、と。


 そして実際にその通りだ。



 けど。


 もう今にも死にそうな身体で。


 再び浮遊する最中、6種の武器が、輝きを放ち。

 エフェクトが、2度、奏でられた。

 ローリエはそのスキルを知っている。

 『(ごん)属性』の強化魔法、【会心値上昇(ラックオブメタル)】と。

『雷属性』の強化魔法――【帯電化(エレクトロキュート)】だ。 

  


「バ、バフ……!?」


 しかし驚きだ。

 知っている『リビングアームズ』と、インスタントダンジョンの特別製とでは思考ルーチンが違うらしい。

 魔法を使うなんてローリエは初めて見た。


 正直なところ、これはやばい事だ。


 弱点からのダメージは元々会心確率が大幅に上がっているのに、さらに強化されれば最悪400%に及ぶ威力を浴びる可能性があるし。今行使された雷属性の魔法は、接触時に雷撃ダメージを与える強化だ。 

 

 つまり。

 1発受ければ、金属性の物理攻撃と、雷属性の魔法攻撃を同時に浴びることになるし。

 最悪なことに、それがクリティカルする可能性も高い。

 しかも、こちらから接触しても雷のカウンタ―を受ける。

 

 この状態では、一撃も浴びることは許されず。 

 とてもではないが、榴弾の投擲距離にはいられない。   


 相手は瀕死だ。

 あとは、接近戦を持ち掛け、『蹴り』でも叩き込んでおけば倒れるだろうと思っていたが、当てが外れた。

 

 安全策を取るため、トドメを遠距離からの、重属性魔法に切り替える。

 そのためには空っぽのMPを戻さなければならない。


 そして、MPを回復する時間を作るため。

 ローリエは、慌てて距離を取りながら。

 倉庫から、『マナクリスタル』を取り出して使用する。 

 それはマナポーションよりも効果が高いMP回復アイテムで。

 結晶から、精神性のエネルギーが解放され、ローリエのMPが最大値まで回復した。


 しかし距離を置いたのは結果的に愚策になる。


 

 MP回復を終え、ローリエが魔法を準備し始めるのと同じタイミングで。

 『リビングアームズ』も何かの魔法を詠唱し始める。


 その時点で、まずい、とローリエは思った。


 だから、急いで詠唱を完成させ。

 術式を、解き放つ。

 

 けど――遅い。


 ローリエが。

 重属性魔法の【凝爆縮インプロージョン・ブラック】を、放つのと。

 『リビングアームズ』が【超電磁投射(マギアレールガン)】を解き放つのは同時で。


 音速の数倍で投射された金属片は、瞬く間に、ローリエに到達し、その身を抉り散らしていく。

 

「うッ――」


 その威力は想像を絶し。

 金による、物質魔法ダメージ。

 雷による、現象魔法ダメージ。

 

 その合成ダメージをクリティカルで浴びる。

 魔法を放った後の状態の所に、まさに稲妻のような弾速。

 回避することも、防御することも間に合わなかった。

 

 否、強化をかけた時から、ローリエに周囲を公転していた2枚の盾。

 【自動紅玉盾(オート・ルビンガード)】が、防御行動を取ったが、クリティカルによって砕け散り、それすらも貫通してきた。


「――がっ……!」


 ゲームなので体に大穴が開いたりはしない。

 でも、夥しい血液のエフェクトが零れていく。

 足元がおぼつかない。



 そして今頃になって。


 ローリエが撃ち出した真っ黒なビー玉ほどの球体が、ゆっくりと『リビングアームズ』に到達した。


 到達した球体は、一気にそのシュヴァルツシルト半径を増大し。

 一瞬の超重球に飲み込まれた魔物は、めきめきと音を立てて圧壊していった。


 

 魔物はスクラップと化して消えうせ。



 ローリエは耐えきれずに、膝から崩れ落ちる。


 どさりと。



 そして、フロアには、からんと、『リビングアームズ』から零れ落ちた、ドロップ品――。

 一本のハルバードと、倒れ伏した小さなエルフだけが、残された。



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