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『 2/28』
このHPでは、掠っても死ぬ。
しかし、ファイアイーターは鳥だ。
鳥系は総じてすばしっこく、攻撃速度も速い。
そして脚力が凄まじい。
重々しい音と共に、細い脚で地面を踏みしめ。
飛び掛かる鳥の瞬発力ときたら、弾丸のようだと言っても過言ではなく。
AGIを上げていないユナに回避できる見込みも。
当然、防御をする意味も。
皆無。
――これは本当に死ぬ。
ここまでだ。
と、覚悟したユナ。
その目の前で、ファイアイーターの身体から、盛大に血飛沫が上がった。
上空から飛び掛かり、地へ舞い降りる速さと共に斬り抜ける。
そんな短剣スキルで。
同時に、攻撃行動によって解除された隠密により、その姿が現れる。
シルクハットをかぶった黒づくめ。
そいつの手には、一本の短剣が握られていた。
「何助けてるんですか!」
「勘違いしてんじゃねえ。――言ってるだろ? オレは勝手にやらせてもらってるだけだってナァ」
ふざけている……。
「っと、気を付けろよ。まだそいつァ死んだわけじゃねェからな」
そう。
鳥は瀕死になっただけで、まだ息がある。
「さぁ、どうする? やっぱりタスケテクダサイって言っても良いんだぜェ?」
冗談じゃありません。
あなたなんかに、そんなこと――。
「言うもんかァ!」
感情のままに、ユナはもう一度、フランベルジュを振るった。
既にHP一桁になっていた鳥は、そのユナの一撃で、絶命し。
血を流しながら消えていく。
「え……?」
「おっと……先を越されたかナァ?」
なんか弄ばれているような気がして。
ユナは何とも釈然としない。
「オイオイ、もっと喜べよ。初心者が倒せるはずもない敵を倒せたんだぜ? すげえじゃねえか?」
すごいのだろうか?
しかし、ほとんどこのPK男のダメージだった。
たしかに、強敵にトドメを刺した。
けど、ユナには嬉しさの欠片もない。
そして、獲得SPもない。
――無い、というか「1」だ。
くっくっく。
「残念だねぇ、この世界じゃ、自分より格上の敵を倒しても、貰えるSPはたったの1なんだぜ。獲得できるSPは1匹につき1ポイントが上限だからヨォ」
途方もない。
1000ポイント稼ぐには、適正のヤツを1000匹倒す必要があるってことだ。
「ま、そいつの羽根は良い素材になる、拾いたかったら拾っておけ」
じゃあな。
と言って、男はまた気配を消した。
何のつもりなのか、と思う。
思うけど、危ないところを助けられたのに違いはないだろう。
でも腹が立つので礼は言わない。
そうして、ユナのHPは、付与された自動回復で少し増える。
待っていれば、またHPは全快するだろう。
「たぶんこの先は、さっきみたいなのがウヨウヨいる筈だ。タスケテほしかったら、ちゃんと言うんだぜ」
声がする。
「絶対に言うもんですか」
ユナは迷いに迷って、落ちていたファイアイーターの羽を拾ってカバンに仕舞う。
仕舞うと、また歩き出した。
「そうそう、お前さんの先輩だが、たぶんこのダンジョンの最奥にある部屋に向かってると思うぜ。なんせ、IDってのは、ゴールしないと基本的に脱出できないからな」
「なるほど?」
その後も、なんどもユナの力量を大きく上回る難敵に出くわしたが。
ユナが死にかけると、決まって勝手に横やりが入り、魔物は成す術なく消えていった。
そうして、ユナはたどり着く。
明らかに異質な、巨大な扉の前に――。
「すげえ……やっぱり、オレが見込んだだけのことはある」
「え?」
「ここだよ、間違いない。卵がある最奥に繋がる扉だ」
「なんのことです?」
「――カトブレパスの卵さ? 超レアアイテムが、この先に眠ってんだ」
「卵? 先輩は……?」
「心配するな、この扉の中にいるさ」
どちらにせよ、悔しいがユナは一人じゃこのダンジョンで生き抜けない。
本当に釈然としないが。
結果的に、PKの強さに頼らざるを得なかったのだ。
だからもう、PKの言うとおりにするのは癪だと思いつつも、気にするのはやめて――。
ユナは扉を開く。
すると、そこから……。
大量の霧があふれ出てきた――。
「やべえ……、こいつは、毒の霧だ……!」
 




