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遺跡内、地下2階フロア。
その端っこの一部が、今しがた崩落した。
先が行き止まりの細い通路の。
その途中に大穴が開き、通行は断絶されている。
そして、そこには一人、冒険者が佇んでいた。
ついさっきまで二人だったのに。
傍にいたはずの先輩は、もう居ない。
崩落と同時に、落ちて行ったからだ。
「先輩……私を庇って……」
今はもう効果を失ったが。
咄嗟に先輩が貼った防壁が、残された冒険者を守っていた。
その代償に、先輩は、自分自身を守ることが疎かになったのだろう。
そう、冒険者――ユナは思う。
助けてもらったのは二度目だ、とも。
「ローリエ先輩……」
残されたユナは、断崖絶壁と化した通路の先端から。
直下の奈落を、見下ろす。
そこからは、闇の合間に、寸断された遺跡の構造が垣間見え。
人の姿は見えない、誰一人として。
どこかに、ローリエの身体が、ひっかかってぶら下がっていないか、という淡い期待も叶わなかった。
戦闘不能になって、街に戻っただろうか?
しかし、フレンド登録リストに表示される居場所は、消息不明となっている。
街なら街の名前が表示されるはず。
だから、先輩はまだこの下に居る……。
フェルマータも、マナもまだ接続していないし、二人に助けを求めることもできないし。
それに、助けられてばかりも、ユナは嫌だったから。
ユナは行動に出る。
ユナの持っている初心者セットの中には、気付け薬が、用意されている。
これを使えば、街に戻る選択をまだしていなければ、今がけ下で倒れているであろうローリエの意識を戻すことができるだろう。
そう思えば、ユナはフランベルジュを鞘に納めると、初心者セットからロープを取り出し、近くの柱に結び付ける。
長さ50mのロープを崖上から垂らした状態にして。
その先に見えるちょっとした足場のような所まで。
ユナは降下を開始した。
所々に見える、出っ張りを目指して下りれば、底にたどり着けるかもしれないと考えたからだ。
そんなユナは冒険マスタリを1も上げていないので、本当ならロープの扱いはド素人なのだが。
そのロープの結び方も、降下の手つきも、リアル世界のプロの腕前だ。
なぜなら、スキルとはそういうモノだから。
第二世界では。
各種族にはそれぞれ種族特徴という個性が付与されている。
SP1000獲得ごとに、ステータス補正の上昇や、固有スキルの習得が行われるのだ。
エルフなら森林や草原での行動に長けたスキル。
ドワーフなら、製造や日の届かない屋内での活動に長けたスキル。
ホムンクルスなら、魔法に長けたスキル。
そのどれもが、その種族でないと覚えない物ばかりだ。
でも、ヒュムは違う。
冒険スキルは誰でも覚えられる物ばかりだ。
かわりに、SP消費なしで自動習得していく。
イキナリ高レベルの冒険スキルを覚えたりするので、探索などに関しては馬鹿にならない優秀さを発揮する。
それが、ヒュム種族という物だ。
そしてユナが20m程を降下したころ。
ガキン、ガキン、と、崖上の方から音がして。
その異変にユナが見上げると。
「骸骨兵!?」
一度倒し、バラバラに崩れ去ったはずの魔物が、もう一度骨格を組みなおすようなリポップ演出と共に。
再起を果たしていたのだ。
そいつが、崖上から上半身をのぞかせ。
ロープを断ち切ろうと剣を振るっている。
このままでは落ちる。
ユナは焦り。
やばい。
やめさせなければ。
と思う物の。
ユナの両手はロープで埋まっている。
その状態で遠距離攻撃する手段はない。
急いで残り30mを降りなければ、と。
ユナは降下を急ぐが。
さほどの時間もなく、ロープは無慈悲に断たれてしまった。
断たれた衝撃で、短い悲鳴を上げ。
突然の浮遊感と共に、ユナの身体は、大穴に向かって落下し始める。
落下の途中。
目指していた足場に、着地を試みるが。
着地の衝撃に耐えられずに、足場はすぐに崩れ去った。
まだ、大穴の底は見えておらず。
かなりの高所であると予想できる。
ユナのHPは、19。それにローリエの強化を貰って28だ。
地面に叩きつけられたら絶対に死ぬ。
そうなったら、誰も助けることは出来ない。
だから咄嗟の悪あがきだ。
「こん、のぉぉ!」
落ちながら、引き抜いた大剣を、絶壁に、突き刺すようにして叩きつける。
切っ先の摩擦をブレーキにして、落下ダメージを緩和しようという策だ。
しかし、岩盤には刺さらない。
何度も叩きつける。
どこかに引っかかれ。
どこかに引っかかれ、と。
そうして。
試して、試して、試して。
ようやく。
ついに。
岩盤が、土壁に変わったところで。
刺さった!
「止まってぇぇぇ!」
刺さった切っ先で、がりがりと土壁を削りながら。
剣の耐久力を、すり減らしながら。
ユナの落下速度が緩まる。
だが、まだだ。
HP28では死ぬ。
だから、もっと。もっと遅く!
握る剣に力を籠める。
「お願い、頑張って、私の、筋力ーッ!」
そしてまた。
岩壁になったあたりで、剣が弾かれ、その反動でユナの身体は崖から離れて放り出された。
そのまま、地面に激突する。
「あうっ!」
バウンドする。
「ぐふゅッ!」
ゴロゴロと転がる。
フランベルジュが地面に突き刺さる。
そうしてユナは、大穴の底に、到達した。
真っ暗闇の、地の底に。




