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北方に位置する、シデの森と言われる、森林系最難の一帯。


 その最寄りの村に、とある暗殺者風の男がふらりと現れる。




 そして、その辺の木陰で休んでいた三人組(パーティ)に声をかけるのだった。


「よう。ちょっと聞きたいんだが、シデの森ってのは、この先なのか?」


 すると、その中の一人。座り込んでいた両手剣使いが答える。


「ん? ああ、そうだけど? なんだ? パーティでも探してるのか?」


「いや、ちょっと人探しのついででな」


「人探し?」


「ああ、そうだ。念のために聞くが、あんた達、この辺でちっこいエルフを見たりしなかったか?」


「エルフ……?」


 三人が顔を見合わせ、それぞれに記憶を探るそぶりを見せる。

 そうして、三人のうち、木の幹に持たれかかっていた、二槍流の男が応える。


「ちっこい、ってこれくらいのか?」


 掌で、背丈の目算を示す。


「そうだ。ちょうどそれくらいだった」


「それなら、シデ森奥でコモリガニを狩ってるのをたまに見たぜ」


「コモリガニ?」


「なんだ、知らないのか? 正式名称は『エンシャントフォレストクラブ』っていう、長ったらしい名前の巨大なカニだよ。オレがそのエルフを見た時は、そいつを一人で狩ってたみたいだった」


「そうか、ありがとう。助かったよ」


 暗殺者風の男は、森を目指すために踵を返す。


「もしかして、行く気か?」


「そうだが?」


「やめとけ。おまえ、見た感じ防御タイプじゃないだろ? あのカニ、命中バフめっちゃ積んでくるし、一発がデカイから、ハンパな回避タイプや紙装甲のヤツが行っても死ぬだけだぜ。おまけに、重装甲判定だから『突』武器で隙間を狙えないなら、時間もかかっちまう。あと『水魔法』も使ってくるし。――効率を求めるなら、もっと別なやつを狙うか、パーティでやったほうが良い」


「でも、そのエルフは一人で戦えていたんだろう?」


「あれは、見た感じAGI極だったし。それに、色々防御バフも積んでたみたいだった。たぶんあのカニを狩るために、ビルドを合わせてあるんだろう」


 暗殺者は少し考える。



「良かったら、そいつが、どういう戦い方をしていたか、もう少し教えてくれないか?」


「ああ? まぁいいけど。――でもカニはやめたほうが良いぜ?」


 解っている。

 本当はカニなどどうでもいい。

 ヤツを殺すために、対策方法や、戦い方の情報が欲しいだけだ。


「構わない。参考になればそれで――」 




 そうしてしばらく話を聞いて、暗殺者風の男は三人組と分かれた。



 そうして理解した。

 お目当てのエルフは、木と風を使う、防御構成寄りの軽戦士ビルドに違いない。

 特に、木と風という所持属性の情報はありがたかった。


 つまり。 

「木と風――金と雷が弱点か……」


 このゲームでは、属性マスタリを上げると、その分耐性属性と弱点属性が付与される。

 それはこのゲームの常識だ。

 どんなスキルを使っていたのか、それが解れば自ずと取得マスタリは見えてくる。


 聞いた話の中では、高いレベルの木属性と風属性スキルを持っているらしい。

 ということは、金と雷からの被害もそれだけ大きくなるという事。


 また、スキルに寄る防御性能は高くても、基本の防御力もそんなになさそうだった。


 

 対応策は少し見えてきた。

 しかし、この暗殺者はもう92Kの強さで、SPを稼ぐのも一苦労する。

 新しく、黄系魔法を取得するのは手間だし、暗殺者のポリシーに反する。


 となれば……。


「……属性付与武器か。あるいは魔法スクロールだな。……良い鍛冶師と属性付与師を探さないとか……」


 あとは。

 あのエルフの主力武器は、弓とレイピアだと予想できる。

 どちらも『突』武器だ。

 突耐性装備を準備する必要もあるだろう。


 そして一番の難関。


「あとは……毒だな」


 毒は、最低でも9レベル。

 それも複数種類取得している。

 そのことは、この暗殺者が身をもって理解した。


 毒対策も必須だ。


 しかし。

 男は笑う。

 

 「楽しくなってきたぜ……」


 男はPKという悪行を好む問題児だ。

 これまでは、自分より弱い者を選んで蹂躙してきた。

 だが、今回は違う。


 初めてだった。

 こんなに、『ゲームをしている』気分になっているのは。

 まるで、ボスを倒す準備をしているような気分になってきて。


 男は笑う。楽しそうに。

 フフフ……。

 「……待っていろよ、チビエルフ。この前の借りは、必ず返してやる!」


 

 

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