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せ、せせせせせ、せんせい!?
「はい、先生です」
「ん? ん?」
ユナと名乗った少女に、イキナリ『先生』と言われて狼狽えるローリエ。
そして、『先生』の呼び名に、つい反応してしまうマナ。
そんな折。
フェルマータは、店に入ってきたマナに気づいて、ユナにこっそり言う。
「あ、ごめん、ユナちゃん。先生呼びは、もう先約あるから。他のにしてあげて」
オネガイ。
と、念を押すフェルマータに。
「あ。じゃあ、先輩! ローリエ先輩でどうですか?」
「先、輩……!」
ローリエはその呼び方に、一瞬、ほわわーんとなってしまった。
いつも学校が終わったら、自宅に直帰で。
部活もしたことないローリエだけど。
先輩呼びには少し憧れを持っていた。
だから、それは悪くないかもしれない、と思ってしまった。
そこに。
「なに? フェルはまた新しいメンバーたぶらかしてきたの?」
「言い方ァ!」
ヒトぎきが悪いでしょう?
合流したマナの開口一番に、フェルマータが突っ込みをいれる。
「じゃあ、この子は?」
誰? と、マナ。
「ロリちゃんの知り合い、かな?」
「そうなの? ロリ」
「いえ、知り合いというかなんというか……」
初めて見たんですけど。
と、首都への街道でのことを全くローリエは覚えていなかった。
そんな4人の会話は。
ローリエの入居手続きをしようとしていたカウンター前で行われており。
お店のマスターはその様子をニコニコと眺めているのだが。
ここで一言。
「込み入った話の最中にすまないのだけど、手続きは、後のほうがいいのかい? ローリエさん?」
「あっ」
そこで、マスターを待たせていたことにローリエは気づく。
そうして。
フェルマータ、マナ、ローリエ、ユナ――。
4人は、ひとまず、ローリエの入居手続きが終わるのを待って。
カフェのテーブル席についた。
皆が席に着いた後。
まず、口を開いたのはフェルマータだった。
「で、二人はどういう関係なの?」
それにユナはキラキラした目でローリエと出会った時の様子を話し出す。
「……先輩は覚えていないみたいなんですけど、私が北の街道で、おっきなウサギに追いかけられていた時に――」
「おっきなウサギ……? 『キングダシュプ』?」
キングダシュプは、草原に生息する普通サイズのウサギモンスター、『ダシュプ』の亜種で、首都の北草原のヌシ的な設定を付与されているネームドモンスターだ。
マナが推測を呟く中、ユナの話は続く。
「――そこに、ローリエ先輩が颯爽と現れて。そのウサギを一発で倒して助けてくれたんです……」
「わぁ、ロリちゃん、完全にヒーローね」
「一発……? あのウサギ、重属性だったっけ」
フェルマータは、ドラマチックな出会い方に感動し、マナはネームドモーンスターの一撃必殺に驚く。
「そうなんです! しかもですね! 気づいたら先輩の姿は、影も形もなくなっていて、お礼を言う暇もなくて」
「良い話じゃない」
その話で、ローリエは朧げに思い出してきた。
そういえば、街道で、ウサギに一発お見舞いしたな、と。
あの時逃げていたヒュム族の少女が、ユナさんだったのか、と。
しかし話にはちょっと誇張がありまして。
「い、いや、一発というかアレは……」
一発で倒す火力が無いことは解っていたので、麻痺で代用しただけで――。
弁明しようとしても、あそこで使ったスキルは、木属性のスキルだったし、強力な麻痺毒を練り込んだ、魔法戦技だったから。
まだ風の魔法使いということで通っているローリエは、言い出すのを躊躇してしまう。
それに颯爽と登場したわけではなく、たまたま巻き込まれそうだったからで、なにもかっこいい話ではない、とローリエは思う。
「――へぇ、じゃあつまり、それで、お礼を言うために、ロリを探してここに?」
そのマナの言葉に、フェルマータは失望して。
溜息。
(いやいやいや、そんな訳ないでしょ、先生。これはもうアレでしょ、アレ。『|一目惚れ《きゃーせんぱいかっこいー、スキッ!》』ってやつですよ? 先生、ホントに鈍いんだから。ただお礼言うためだけに、毎日お店の前で待つと思うのかしら、先生は、もう)
などと思いつつ。
気を取り直して、ユナに尋ねる。
「じゃあ、さっき、ロリちゃんに、先生になって欲しいって言ってたのは?」
「それは……」
ユナは説明する。
このゲームのスキルが膨大過ぎて、どういう方向性で行けばいいか決められていないのだと。
SPを1も振っていなくて、方向性を決めないと、この先戦っていけないし強くもなれないのだと。
だから、街道で見かけたベテランプレイヤーのローリエに教えて欲しいのだと。
その話に、マナは、賛同する。
「なるほど、ユナの考えは正しいと思うわ。このゲームはSPの振り直しできるけど、お金かかる。ちゃんと考えてSPは使ったほうが良いのは確か」
「――だ、そうですけど、ロリちゃん?」
急に降られたローリエは、うろたえつつ。
「え、あ、いや……でも、私のスキルは、ほんとに、適当……っていうか、その場を繋ぐために取ったスキルばっかりで、中途半端過ぎて、教えられるほどのことは何も……」
そしてしばらくの沈黙。
ローリエは行く末を見守り。
フェルマータは何かを考え。
マナはこの先の展開を予想してだんまりを決め込み。
ユナは不安になる。
「あの、先輩。もしかして、やっぱり迷惑でしたか?」
いやいやいやいや、と両掌でジェスチャーしつつ、ローリエはさらに慌てふためく。
「あ、いえ、そんな迷惑とかじゃ…………無い、です」
ローリエは、頼られることは、本当に嬉しかった。
ずっと3年間、ひとりでやってきたローリエにとって。
こんな展開は、今まであるはずの無いことだ。
しかし、ビルドのスキルが迷走していることは事実で、教えられるほどのことは無いと思っていることも確かで。
そしてここで、考え込んでいたフェルマータは提案する。
「じゃあさ、こうしない? ――もしユナちゃんさえよかったら、うちのパーティで火力係やってもらう……っていうのは?」
「火力がかり?」
「そう、うちのパーティ、今ちょうどもう一人メンバーさがそうかな、って思ってて、とあるボスと戦うのに、できれば物理攻撃力に特化したヒトがいると、うれしいなぁー、なんて……」
まぁ、ほんとに、ユナちゃんがよかったらだけど。
と、尻すぼみになっていく言葉の尻に、ユナは間髪入れずにかみついた。
「やります! そのパーティって、ローリエ先輩も居るんですよね!?」
「うん、もちろんです!」
この流れに。
マナは、やっぱりな、とうなづくのみであり。
ローリエは、予想外の展開過ぎると驚き。
フェルマータは、満面の笑みであり。
ユナは、がし、っとローリエの手を取った。
「あ、あの、ユ、ユナさん!?」
「と、いうわけで、これからよろしくお願いしますね! 先輩!」
「え、あ、は、はいッ!」
こうして、パーティに4人目が電撃加入する運びとなったわけだが。
ぽつりと、最後にユナは不穏なことを零した。
「ところで、先輩は誰かに、恨みでも買ったんですか?」
「へ?」
「掲示板の情報交換スレってところで、先輩情報を集めてる人が居ましたけど……」
「え゛?」




