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「ロリ、平気!?」
崖にぶら下がったままのローリエに、上から顔をのぞかせるマナとフェルマータ。
「あ、はい……大丈夫です」
ローリエは、再び【超高度跳躍】を使って、崖を駆け上がる。
合流すると、フェルマータは満面の笑みで。
マナは胸をなでおろし、安堵の息を吐いた。
それぞれが、ローリエのことを迎えてくれる。
「よかったわ。あのまま落ちたんじゃないかと……」
そう言うフェルマータに対し。
あはは、とローリエは乾いた笑いで。
「すいません、心配をおかけして。風の魔法で何とか踏みとどまれてよかったです」
流れるように出てくるごまかしの言葉。その自責に苛まれながら。
マナは言う。
「それにしても、良く、PKに気づいたわね。助かったわ」
「アッ、いえ。風のパッシブスキルにそう言うのが解るものがありますから」
それは嘘じゃないホントです。
「ああ、ウルトラサウンドだっけ? そういえば、そんなのもあったわね」
さすが、マナは魔法使いだけあって察しが良い。
「そう。それです!」
フェルマータも言う。
「そうね。崖に叩き落とすとか、機転も効いてたしね」
そう言いながらフェルマータが。
まだ傷を負ったズタボロテクスチャーな状態で、HPも半分以上減っているローリエに。
回復の魔法をかけてくれる。
しかしフェルマータが魔法を準備する間に、再生が1回発動してしまった。
でも、そのことは、ローリエが思うほど、気にされなかった。
そういう装備を付けているのだと、思われたのだろう。
心配し過ぎだったのかもしれない。
それに本当は、必死で保身に走っただけだったのに。
マナを助けたことになって感謝されて。
崖に飛ばしたのは、機転が利いたことにされていた。
まだ、ボロは出て無さそうだと。
ローリエは、少し安心する。
やがて回復魔法が発動して、フェルマータの治療が終わり、
「これでHPは全快ね。でも、さっきは瀕死になってたと思ったけど、もう半分くらいになってたわ。自動回復積んでるのね。ロリちゃんは頑丈ね、そこのモヤシと違って」
ローリエは、ごまかすようにまた笑って。
「あはは、意外と、硬いですから、私!」
そしてローリエは思う。
(良かった、看破阻害の装備で。装備の効果でHP増やしてるとか、特殊効果の装飾品着けてるとか、実は意外と防御力あるんですとか。ごまかしが効く。――あんまり褒められたことではないけど)
そこでフェルマータはマナを見る。
「――たぶんさっきのPKに絡まれてたら即死だったんじゃない?」
ね?先生。とフェルマータは意地悪くウィンクをする。
マナは、「うるさいわね」と。
もともとジト目系の顔立ちなのに、それをさらに深めて。
フェルマータを睨んだ。
「でも事実でしょ? ロリちゃんには感謝しなさい」
「解ってるわよ。感謝してるわ」
「じゃ、この後も頑張ってよね。まだ、あと23個のこってるんだから」
そう、クエストがまだ残っているのだ。
そうして、その後、狩に戻り。
3人でオーグジェリーの核を30個集め終わった。
その間に、マナは種族限界が1アップし、総合SPが67Kになった。
メンバーの種族限界の上昇は、パーティメンバーに通知が行く。
だから、フェルマータとローリエは、おめでとう、といって祝福した。
ちなみに、ローリエは1ポイントもSPが増えていない。
適正から大きく離れているからだ。
ここの狩場で、ローリエが1匹辺りから得られているSPは、10万分の1ポイントくらい、もしくはもっと少ないだろう。
つまり、0.00001SPくらいということだ。
それで1ポイントに届かせることは、難しい。
ゲーム内の空が夕日に染まり。
現実の世界でも22時を回っている。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうね。ロリの活躍は十分見れたし。中の人がどんな人なのかもちょっと見えたわ」
うっ。
とローリエは咽ぶ。
「うん。いきなりサイクロンを撃っちゃうのとかね」
うぐ。
とローリエは咽ぶ。
「あの後ろ回し蹴りも、なかなかすごかったわ」
話が。
自己嫌悪や風魔法使いのイメージを、つついてくるので。
ローリエはたまらずに、話題を逸らそうと
「そ、そういえば!」
「?」
「――どうして、マナさんは、先生なんですか?」
「え? あぁ」
「フェル、それは言ってはダメよ」
「え? なんで?」
「ダメってば!」
しかし、フェルマータはスクロールを1枚取り出した。
スクロールと言っても、このゲームではカードのような形状だが。
それは『風の囁き』の魔法で。
フェルマータはこっそりとローリエに囁く。
「ロリちゃん、それはね……マナの中のヒトの名字が、『先生と書いて先生』だからよ」
それに。
納得と驚きの混じる表情になるローリエ。
それで、フェルマータが告げ口したことがマナにバレる。
「あぁ、バカ! バカ!」
え?
え?
え?
ローリエは、それであることに気づいた。
フェルマータが、マナの中のヒトの名前を知っているということは――。
つまり。
ローリエは二人のノリに、付き合いの深さを察した。
「お二人ってもしかして……」
「うん、リア友なの。私とマナは」
がーん……。
ショックだった。
ローリエはまた、仲間外れを感じてしまう。
しかもリア友。
ゲームでのフレンドとは格が違う。
――本物の友達だ。
「あう……」
「どうしたのロリちゃん?」
それから、街に戻ったり、収穫物を生産したりしたのだが。
ローリエの中の人は、全然記憶に残らなかった。